日本製鋼所(JSW)は7月7日、2029年3月期を最終年度とする5カ年の中期経営計画「JGP2028」のアップデートを取締役会で決議したと発表した。市場環境の変化を踏まえて事業戦略を見直し、財務目標を上方修正する内容で、個別事業戦略の詳細は7月13日に公表される予定。
■ 2025年度までの業績概況
JGP2028の初年度である25年3月期(25.3期)は売上高2,485億円、営業利益228億円(営業利益率9.2%)、ROE9.7%と、当初計画を上回るペースで推移。続く26.3期には売上高2,748億円、営業利益253億円(同9.2%)、ROE9.5%、EBITDA343億円と着実に成長を続けた。
事業別では、産業機械事業のうち樹脂製造・加工機械が、EV向けバッテリーセパレータフィルム製造装置の需要一巡により伸び悩んだものの、防衛関連機器は防衛予算拡充を背景に大きく伸長。電子デバイス他もディスプレイパネル・半導体向け需要の回復を追い風に増収を確保した。素形材・エンジニアリング事業は、火力・原子力発電向けの需要増加を受けて堅調に推移し、全社の成長を下支えする形となった。
この間、経営基盤強化の面では、広島製作所での樹脂機械ソリューション事業部の新設(26年4月)、二軸混練押出機の韓国新工場建設、グローバル戦略本部・インドエクスペリエンスセンターの設置など、生産・営業体制のグローバル化を推進。
研究開発面では2年間で累計118億円を投じ、超スマート社会対応をにらんだ新技術開発を進めるとともに、窒化ガリウム(GaN)結晶・ニオブ酸リチウム(LN)結晶の事業化に向けフォトニクス事業室を新設した。ガバナンス面では役員報酬における株式報酬比率の引き上げ、社外・女性役員比率の向上、政策保有株式の縮減(26.3期11.8%→27.3期10%以下予定)など、資本効率・透明性向上の取り組みも進めている。
■ 2026年度以降の見通し
27.3期の業績見通しは、売上高3,100億円(当初計画比△100億円)、営業利益270億円(同+10億円)、営業利益率8.7%(同+0.6pp)、ROE8.7%(同△0.3pp)、EBITDA391億円(同△10億円)とした。売上高は当初計画をやや下回るものの、増収・増益基調は維持する見通しである。
背景にあるのは主要製品を取り巻く市場環境の急速な変化だ。EV市場の成長減速により樹脂製造・加工機械(セパレータフィルム関連)・成形機の市況評価は下方修正となった一方、地政学リスクの高まりを受けた各国の防衛予算拡充により防衛関連機器の需要評価は大きく上方修正。エネルギー政策の変容により高効率火力・原子力発電向け素形材製品の需要も上振れしている。さらにAIの急速な普及とデータセンター建設の増加が、電子デバイス他(FPD製造装置、プリント基板用プレス機等)、素形材エンジニアリング(発電・蓄電池関連、チタン銅等)、フォトニクスの各分野で新たな需要を生み出しており、JSWはこれを成長機会と位置付けている。
■ 中期経営計画の成長戦略
JSWは2033年度に目指す姿として、パーパス「Material Revolution®」の実現に向け、売上高5,000億円規模の企業グループへの成長(営業利益500億円、ROE11〜12%)を掲げており、JGP2028はその通過点となる。基本方針は①現有事業の持続的価値向上、②新規事業の創出・育成、③人への投資を中心とした無形資産投資の拡充、④コーポレートガバナンスの強化の4本柱で、マテリアリティ(プラスチック資源循環、低炭素社会、超スマート社会への貢献)の解決と企業価値向上の同時実現を目指す。
今回のアップデートで、29.3期(最終年度)の財務目標は、売上高4,000億円(当初計画比+200億円、+5.3%)、営業利益400億円(同+30億円、+8.1%)、営業利益率10.0%(同+0.3pp)に上方修正。ROE・エクイティスプレッド・配当性向(各10〜11%、2〜3%、35%)は据え置いた。EBITDAは550億円(同+32億円)を見込む。
セグメント別に見ると、産業機械事業の29.3期売上高はアップデート後3,150億円と当初計画(3,180億円)をやや下回るものの、内訳では防衛関連機器(800億円→1,000億円)、電子デバイス他(370億円→520億円)が大幅に上振れし、樹脂製造・加工機械の下振れ(1,230億円→850億円)を補完する構成に変化。一方、素形材・エンジニアリング事業は、電力・原子力製品の需要拡大を牽引役に、売上高525億円→800億円、営業利益106億円→160億円、EBITDA140億円→222億円と、当初計画比で大幅な増収増益を計画している。
具体的な事業戦略としては、樹脂製造・加工機械で中国需要の回復とインド・中東など成長地域への経営資源の重点配分、セパレータフィルムの高性能化ニーズの取り込み、アフターサービス事業の強化による収益力向上を図る。成形機ではプラスチック成形機の欧州シェア拡大とインドでの電動機拡販、フィジカルAI向けマグネシウム成形機の新機種投入を進める。防衛関連機器は適地生産・相互補完によるさらなる供給能力増強と新規装備品提案の強化、電子デバイス他はFPD製造用F-ELA装置の増産体制整備とデータセンター向けプリント基板用プレス機の拡販、次世代パッケージ基板用ラミネーターの開発を進める。
素形材エンジニアリングでは、高効率火力発電向けタービン・発電機用ローターシャフトの生産能力を26.3期より1.5倍に増強するほか、原子力発電需要の長期的な伸長を見据え生産能力を倍増。データセンター向けにはグループ会社の室蘭銅合金を通じてチタン銅の供給体制を構築し、高水準の需要に対応する。新規事業と位置付けるフォトニクスでは、GaN結晶・LN結晶の顧客評価・量産化対応を加速し、早期の事業化を目指す。
JSWは今回のアップデートについて「防衛・電力・データセンター関連という構造的な需要拡大を捉え、事業ポートフォリオの重心を移しながら持続的な企業価値向上を図る」としており、個別事業戦略の詳細は7月13日に公表予定である。
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