安川電機、「2035年ビジョン」始動、AIロボティクスで営業利益率20%超を目指す

・中期計画「Dash 35」で2029年度に営業利益1,000億円、フィジカルAI市場の開拓を加速

安川電機は5月22日、長期経営計画「2035年ビジョン」(2026年度〜2035年度)および中期経営計画「Dash 35」(2026年度〜2029年度)を正式スタートさせた。

■ 2025年度業績と現状認識
2025年度の連結業績は、売上収益5,421億円、営業利益473億円(営業利益率8.7%)、ROE7.7%、ROIC6.9%、配当性向50.0%にとどまった。前長期計画「2025年ビジョン」期間中は、新型コロナウイルス感染症の拡大や地政学リスクの顕在化など、グローバルで経営環境が大きく変動した。それでも市場拡大の好機を着実に捉え、モーションコントロール、パワー変換、ロボット技術の三本柱を軸に事業を成長させてきた。しかし、足元の営業利益率は目標水準に届かず、収益力の抜本的な引き上げが次期計画の最大の課題と位置付けられた。

■ 長期経営計画「2035年ビジョン」の概要

〔基本方向〕メカトロニクス領域を技術革新で拡大

 安川グループは創業以来110年にわたり、「モータとその応用領域」を事業の核とし、「技術立社」の社是のもと、モーション制御・パワー変換・ロボット技術の深化を続けてきた。「2035年ビジョン」でもこの不変の軸を堅持しつつ、AIを組み合わせることで事業領域を従来の工場自動化から「フィジカルAI市場」や「新メカトロニクス応用領域」へと拡大することを最大の戦略的テーマとする。

キーコンセプトは二つ。第一が、2012年から推進してきた自社ソリューションコンセプト「i³-Mechatronics(アイキューブメカトロニクス)」——integrated(統合的)・intelligent(知能的)・innovative(革新的)の三つの”i”をメカトロニクスに掛け合わせた顧客の経営課題解決モデル——を引き続き事業の骨格に据えることだ。第二が、これにAIを融合させた新概念「i³-Singularity(アイキューブシンギュラリティ)」の実装推進である。i³-Singularityは「データ経営・ものづくり・現場(社会)実装」の三つのフェーズで段階的に具現化され、経営の最適化から工場の無人化・全体最適まで、再現性のある自律分散型の仕組み構築を目指す。

〔財務目標〕2035年度に営業利益率20%以上

長期目標として、2035年度の営業利益率20.0%以上、配当性向40.0%以上を掲げる。2025年度実績(営業利益率8.7%、配当性向50.0%)と比べると、利益率は倍以上への引き上げが求められる。配当性向の目標値自体は実績より低いが、これは将来投資の原資確保を優先しつつも株主還元の継続を約束したものと受け取れる。

■ 中期経営計画「Dash 35」(2026〜2029年度)の詳細

〔数値目標〕営業利益は2倍超、ROICは11%水準へ

▽指標 :2025年度実績/2029年度目標
売上収益:5,421億円/6,500億円
営業利益:473億円(8.7%)/1,000億円(15.4%)
ROE:7.7% /12.0%以上
ROIC:6.9%/11.0%以上
配当性向:50.0% /40.0%以上

4年間で売上収益を約20%増やしながら、営業利益を2.1倍超に引き上げる計画だ。為替前提は米ドル145円・ユーロ170円・人民元20.50円・ウォン0.105円(2025年度実績:米ドル149.87円・ユーロ172.76円・人民元21.01円)で、わずかな円高想定のなかで大幅な増益を見込む。収益性改善の核心は後述する事業戦略の実行によるミックス改善と固定費効率化にある。

■ 「Dash 35」の5本柱——事業戦略の具体像

〔基本方針1〕フィジカルAI市場の開拓

今回の計画で最も注目されるのが、「フィジカルAI市場」という新市場カテゴリーへの本格参入だ。安川電機はフィジカルAIを「自社製品とAIを融合させ、これまで自動化が困難だった領域で新たな自動化を実現する」と定義する。コアとなる技術コンセプトが「AIロボティクス」——「モーションとAIによる認識・判断」と定義し、i³-Mechatronicsの”integrated(統合的)“領域をさらに押し広げる考え方だ。

具体的な製品施策は二軸で展開される。一つは自律型AIロボット「MOTOMAN NEXT」の適用領域拡大だ。MOTOMAN NEXTはAIロボティクスの考え方を具現化した旗艦製品であり、AI活用によって人の手に頼ってきた複雑作業の自動化を可能にする。もう一つはヒューマノイドロボットおよび進化型アクチュエータをはじめとする基幹コンポーネントのラインナップ拡充で、多様なフィジカルAI市場への供給体制を整える。

技術創出においては、企業間共創・産学連携を積極活用する方針も明示した。「世界一にこだわる新製品開発」を標榜し、コア技術・現場データ・AIの三者シナジーにより競合との差別化を図る。

〔基本方針2〕i³-Mechatronicsの実践拡大(コア領域の収益強化)

既存のモーションコントロール・パワー変換・システムエンジニアリングの三セグメントからなるコア領域では、i³-Mechatronicsのグローバル展開とコア製品の販売スケール拡大に注力する。具体的には「超精密モータ&コントローラ」「高効率インバータ&パワコン」「AIロボティクス」の各製品カテゴリーにAIを実装し、変種変量・工程変化への対応、カーボンニュートラル貢献、工場データの一元管理・高度化といった顧客の製造課題をワンストップで解決する「未来のスマートファクトリ」を提案する。

地域展開では、各地域の特長を生かした差別化アプローチを加速させる。グローバルでの販売スケール拡大とともに、蓄積してきたソリューション活用のスケールメリットを顧客の競争力向上に直結させることを優先する。

〔基本方針3〕世界一にこだわる新製品開発

基幹技術(モーション制御・パワー変換・ロボット技術)の深化とAI実装の加速を両輪に、「コトの変化を捉えて基幹技術を進化させ、高度な自動化ソリューションを実現する」という開発哲学を徹底する。モーション制御では「超高精度・多軸同期制御」、パワー変換では「エネルギー最適制御」、ロボット技術では「自律・デジタルツイン」の各技術フロンティアに集中投資し、競合が模倣困難な独自優位性を構築する。

〔基本方針4〕新メカトロニクス応用領域の事業拡大

メカトロニクス基幹技術を食・農業・医療・医薬品分野に応用し、社会インフラレベルでの新需要を開拓する。

医療・医薬品分野では「医療現場における自動化」「創薬のデジタル化」「再生医療の自動化」の三領域での共創を加速する。「Dash 35」期間中は特に、医療現場における各種実験の自動化・デジタル化の推進に重点を置く。

食・農業分野では「食品生産工程の自動化」「店舗調理の自動化」「屋内外栽培の自動化・効率化」を柱とし、国内農業分野の人手不足問題を自動化ソリューションで解決するとともに、外食・食品加工業における省人化需要を取り込む。多様なパートナーとのエコシステム構築が事業拡大のカギを握ると見ており、単独展開でなく連携・共創を通じた市場開拓を基本戦略とする。

〔基本方針5〕YDXの進化とi³-Singularity

自社デジタル変革プログラム「YDX(YASKAWA Digital Transformation)」をi³-Singularityと組み合わせ、社内の経営・開発・生産の全領域を変革する。YDXの第1フェーズ(YDX-I)で実施したデータ一元化・業務改革・経営の見える化を土台に、第2フェーズ(YDX-II)では製品・サービス視点での顧客価値創出に移行。さらに「データ経営のSingularity(経営最適化・サステナブル成長)」「ものづくりのSingularity(生産革新・開発革新)」「現場実装のSingularity(知能化機器の実用・自動化タスク拡大)」の三段階でi³-Singularityを深化させ、経営スピードの強化と高収益化を実現する。

■ 経営基盤強化の取り組み

事業戦略の実行力を支える経営基盤として、四つの柱を設定した。

人材力では、表層・深層ダイバーシティの推進、チャレンジする機会の提供と育成強化、スキルデータに基づく最適人材配置を進める。組織力では、健康・安全で働きがいのある職場環境の整備、バリューチェーンの横断的活動強化、AI利活用による生産性の飛躍的向上を図る。ESGでは、気候変動と資源循環への取り組み強化、ステークホルダーとの対話と共創、リスクマネジメント強化とガバナンス向上に取り組む。外部連携では、産産・産学連携によるイノベーション創出、エコシステム構築を通じた”コト”の実現、外部とのデータ連携によるタイムリーなソリューション提供を推進する。

いずれも「技術立社・お客さま重視・品質第一・メカトロニクス・方針管理・グローカル経営」という安川グループのDNAを受け継ぎながら、AI時代の新たな経営モデルへと進化させる取り組み。

■計画達成の焦点

今回の計画で特筆すべきは、フィジカルAIという新市場への大胆なピボットと、「MOTOMAN NEXT」やヒューマノイド対応部品というハードウェアの具体化が同時進行している点。産業用ロボット市場でグローバル首位級の地位を持つ安川電機がAI統合に本腰を入れることで、従来の工場自動化の枠を超えた大型需要の取り込みが現実味を帯びる。

一方、課題も明確。2025年度の営業利益率8.7%から2029年度15.4%、さらに2035年度20%超という目標達成には、製品ミックスの大幅改善と新市場での収益確保が不可欠。食・農業・医療分野での共創ビジネスは市場育成に時間を要するため、「Dash 35」の4年間でどれだけ収益貢献できるかが最初の試金石になる。フィジカルAI市場では国内外の競合も激しく参入意欲を示しており、MOTOMAN NEXTの競争優位の実証が急務となる。

新長期経営計画「2035 年ビジョン」および新中期経営計画「Dash 35」の策定について

長期経営計画