・2030年度に売上収益3.3兆円超、事業利益3,300億円超へ
川崎重工業は10月6日、「グループビジョン2030進捗報告会」を開き、2030年度を最終年度とする事業計画を更新した。7月に実施した約2,000億円の資本性調達を、ガスタービンや半導体用ロボットの増産、造船所の自動化などに充てる。2030年度に売上収益3.3兆円超、事業利益3,300億円超、事業利益率10%超を目指す。
■利益を約1.8倍に
同社は2020年にグループビジョン2030を策定し、「安全安心リモート社会」「近未来モビリティ」「エネルギー・環境ソリューション」を注力フィールドとした。2024年度と2025年度は売上収益、事業利益とも過去最高を更新し、2026年度も最高を見込む。2026年度見通しは売上収益2兆5,600億円、事業利益1,800億円で、事業利益率は約7%になる。
2030年度の目標を2026年度見通しと比べると、売上収益は約29%増、事業利益は約1.8倍である。事業利益率は約7%から10%超へ高める計画で、資料の図表は2027年度の通過点を8%としている。
■環境変化と資金調達
同社は、策定から6年で事業環境が複雑になったとみている。挙げたのは、中東情勢の緊迫化、エネルギー価格の上昇、防衛の重要性の高まり、関税など経済政策の影響、AIの台頭、AI・データセンター(DC)増加に伴う電力需要増である。政府が定めた戦略17分野のうち、防衛産業、航空・宇宙、造船、AI・半導体など8分野に自社事業が該当するとし、国策と連動して事業を伸ばす考えだ。
調達の内訳は、公募増資約1,000億円と転換社債型新株予約権付社債(CB)約1,000億円である。使途は次のとおり。
・約1,000億円:航空宇宙・エンジン、ガスタービン、造船、半導体用ロボットの強化
・約1,000億円:フィジカルAIと水素サプライチェーン(フィジカルAIは当面、社内の生産効率化に活用)
ネットD/Eレシオは50%程度を目安とし、調達と同額の約2,000億円の借入余力が生まれると想定する。投資効果は2028年頃から表れる見込みで、同社は短期ではロボット・ガスタービンの増産が、長期では水素とフィジカルAIが寄与するとみている。
■2027〜2030年度の4年間のキャッシュの配分は次のとおり。
項目:金額
原資(合計約1.3兆円) 営業キャッシュフロー約1兆1,000億円(研究開発費控除前)+資本性調達2,000億円
成長投資:約5,500億円
経常投資:約5,500億円
株主還元:2,000億円
成長投資の対象は、水素、半導体用ロボット・フィジカルAI、ガスタービン・ガスエンジン、防衛、航空機・エンジンの増産対応などで、該当事業の研究開発費を含む。防衛・造船の補助金は除く。
■防衛:2030年度の売上見通しを引き上げ
防衛事業の2030年度売上収益見通しは、前回の5,000億〜7,000億円から約7,000億〜8,000億円へ上方修正した。実績と見通しは、2022年度が約2,400億円、2025年度が約4,300億円、2026年度が約5,100億円である。事業利益率は2023年度6%、2024年度7%で、前回見通し(5%未満、5%以上)を上回った。契約制度の改正などにより、2027年度以降は10%超を見込む。2030年代中頃には売上収益1兆円超を目指す。
同社は、防衛省の次期計画で「新しい戦い方」への対応が柱になるとみる。AIや無人機を前提とした装備が中心だ。具体的な取り組みは次のとおり。
・有人機の任務を補完・代替する多用途連携無人機や消耗型無人機
・エッジAIで次世代の対艦誘導弾(SSM)やデコイ弾が協調して動く自律協調システム
・AI教官を使う統合教育訓練システム
・無人機向け小型ターボファンエンジン「KJ」シリーズの自社開発
KJエンジンは、国内で唯一、大電力を供給できる小型ターボファンだと同社は説明する。既存事業では、スタンド・オフ電子戦機(SOJ)の初号機を2026年6月に納入し、新SSMは2025年に発射試験に成功した。
■エネルギー:DC向けにガスタービン・ガスエンジンを増強
AIの普及で電力需要が増え、ガスタービン需要も伸びている。大型機の製造能力が逼迫して中型の引き合いが増えており、同社のガスタービン受注(金額ベース)は2026年度見込みで2023年度比約1.5倍になる。DC向けの中型機(5MW以上)は運用開始まで1〜2年で、大型機の3〜5年より短い。増設もしやすいと同社は強みを説明する。現在の売上収益は、DC除く非常用向けが年約200億円、分散型発電(コージェネ)向けが年約300億円である。
■設備投資は次のとおり。
・中型ガスタービン(常用中心):生産能力を2030年に2.3倍、2035年に約5倍へ。投資額は約400億円。
・小型ガスタービン(非常用中心):2030年に2.3倍、2035年に2.5倍へ。投資額は約200億円。
・ガスエンジン:2029年に約3倍、2031年に約6倍、2034年に約10倍へ。投資額は約170億円。
3件の合計は約770億円で、いずれも基準は2025年である。事業計画では、2035年にかけて売上収益が中型で約4倍、小型で約2.3倍に伸びる。
■半導体用ロボット:生産能力を2倍に
半導体製造装置市場は年約10%成長の見通しで、主要顧客は約14%とされる。同社は75億円を投じ、既存建屋を活用して2027年度に1.5倍、2029年度に2倍へ生産能力を引き上げる。増産に備え、工場用地は確保済みである。さらなる拡張や新工場の建設も視野に入れる。大気工程に加え、後工程、真空工程、システム製品へ展開を広げ、2035年に売上収益1,600億円規模(年平均成長率約15%)を計画する。
半導体産業では人手不足も課題で、国内で4万人、世界で100万人が不足するという。カセット搬送やチャンバークリーニングなどの工場作業に、ヒューマノイドと産業用ロボットの両面から対応する方針である。
■造船:坂出工場に約1,000億円
国内の船舶建造量は2019年の1,600万総トンから2024年に900万総トンへ減った。国土交通省の造船業再生ロードマップは、2035年に1,800万総トンへの倍増を掲げる。同社は2026〜2035年に、商船事業の坂出工場へ約1,000億円を投資する。内訳は造船業再生基金対象が450億円、その他が550億円で、自動化・ロボット化、デジタルシップヤード化、建造能力の増強に充てる。熟練溶接人員が年約2%減っていることを背景に、狭所や高所での溶接をロボットで担う。計算基盤にはNVIDIA製を使う。坂出工場は2035年に売上収益2,000億円超、事業利益率15%を目標とする。
■水素・海外とヘルスケア
川崎市・扇島では、5万立方メートルの液化水素貯蔵タンクと4万立方メートルの液化水素運搬船を建造中である。海外では、2025年9月の日豪(Woodside Energy社)に続き、2026年4月に日加、5月に日独3社による欧州向けサプライチェーン合意、9月に仏Grand Est地域圏との覚書を結んだ。水素関連の事業規模は2040年に5,000億円を見込む。CO2回収の売上収益は2035年に250億円、2040年に700億円を計画する。
ヘルスケアでは、手術支援ロボット「hinotori」の累計手術件数が2026年9月末に世界で22,000件を超えた。高齢者の在宅期間を延ばす家庭用ロボット「Home LEO」も打ち出し、在宅期間が1年延びれば社会保障費と個人負担の抑制効果が年約1兆円になると試算する。
■まとめ
今回の更新で同社は、防衛、DC向けガスタービン・ガスエンジン、半導体用ロボット、造船の4分野に資金を集める。2030年にかけて航空宇宙システム、エネルギーソリューション&マリン、精密機械・ロボットの売上比率が高まる見込みである。生産能力の増強と自動化で、事業利益率を約7%から10%超へ押し上げる構造を目指す。
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