・世界62工場でクロスソース体制、米追加関税には550億円影響も短中長期で対応
コマツは12月17日、IR Dayにおいて生産・調達戦略に関する説明会を開催した。柳沢是清専務執行役員(生産本部長)が登壇し、グローバル生産体制の全貌と米国追加関税への対応策を詳述。「絶対に生産・調達を止めない」を基本方針に、62の生産拠点を活用したクロスソーシング体制で需要変動や地政学リスクに対応していく姿勢を明確にした。
■マトリックス経営で一気通貫の管理体制
同社の生産本部は、全従業員7万1,000人のうち3万3,000人を擁する。国内外62工場を統括し、開発から生産、販売、アフターサービスまでサプライチェーン全体を一元管理する体制を構築している点が特徴だ。柳沢本部長は「自動車会社との大きな違いはここにある」と強調。工場長は全員がサプライチェーン全体を理解した人材を配置し、マトリックス経営により横串でのガバナンスを効かせている。
生産本部の役割は、従来の生産・調達業務にとどまらない。上流では開発段階から「どんなコンポーネントで、どう作れば安く高性能になるか」を提案。下流では補給部品やリマン(再生品)のオペレーション、顧客現場での生産性向上まで支援する。「顧客の声を最重視し、物づくりの川上から川下まで一貫して関与する」(柳沢本部長)ことで、製品競争力の最大化を図る。
■BCP体制―多層防御でサプライチェーン守る
最重要タスクに掲げるのが「絶対に生産・調達を止めない」ためのBCP(事業継続計画)体制だ。パンデミック、自然災害、半導体・レアアース不足、サプライヤー事故、港湾ストライキ、サイバー攻撃――。多様化するリスクに対し、同社は多層的な防御策を講じている。
中核となるのがクロスソース・マルチソース体制。一つの拠点やサプライヤーに依存せず、サプライチェーンを詳細に調査した上で複数ソースを確保する。マルチソース化が困難な半導体などは安全在庫を積む。加えて、自家発電機や防浸水対策などハード面の災害耐性強化、グローバルCSIRT体制によるサイバーセキュリティ強化も推進。「地震が起きても操業を継続できる体制」(同)を整えている。
■6つの柱で支えるグローバル戦略
同社のグローバル生産戦略は、15年以上継続する6つの柱で構成される。
第一の柱は「需要のあるところで車体生産」。海外売上比率80~90%に対し、国内生産比率は50±10%を維持してきた。為替変動に左右されにくい収益構造を実現する狙いだ。ただし柳沢本部長は「日本の賃上げや人手不足を考えると、将来的には海外生産比率を見直す必要がある」と指摘。アフリカなど需要拡大が見込まれる地域への工場建設も視野に入れる。
第二の柱はキーコンポーネントの自前化。エンジン、パワートレイン、油圧機器、電子コンポーネントなど性能差別化の要となる部品は内製する方針を堅持する。「技術革新、安定供給、予知保全を実現するには手の内化が不可欠」(同)。電動化対応では米バッテリー会社ABS(アメリカン・バッテリー・ソリューションズ)を買収。コンポーネント間のマッチング最適化により、「競合他社の他社製コンポ採用とは異なり、安定した性能を発揮できる」と優位性を説く。
第三の柱はマザー工場制。62工場のうち9工場を、開発と生産を同一敷地で行うマザー工場と位置付ける。新製品投入時にはロボットプログラムや治具をそのまま海外のチャイルド工場へ展開し、立ち上げ期間を大幅短縮。一方でチャイルド工場の工場長経験者が日本の工場長に昇格する人材育成の仕組みも整え、「持ちつ持たれつの関係」(同)を構築している。
第四・第五の柱がグローバル販生在とクロスソーシング。2011年に大阪工場内に設置した「グローバル販生オペレーションセンター」で、販売・生産・在庫をグローバルで一元管理する。一つのモデルを複数の海外工場で生産可能な体制を構築し、月1回の販生会議で需要変動、為替変動、稼働状況を勘案して最適な生産拠点を決定。「中近東顧客の日本製希望に対しても、品質同一を説明して納得を得て、現在はインド製をアフリカ・中近東で販売している」(同)という。
第六の柱は部品のグローバルクロスソース。鋼材価格は中国が日本の約6割、米国の約4割と圧倒的に安い。人件費も中国は米国の約7分の1、アジア諸国はさらに低コスト。この競争力を最大限活用し、中国からはクローラーやデッキなど鋼材の厚板部品、タイ・ベトナムからは薄板やワイヤーハーネスを調達する体制を敷く。
■米追加関税に550億円影響―多段階で対応
米国の追加関税については、2025年度で550億円(支払いベース)の影響を見込む。北米市場では販売の50%を米国外で生産した完成車の輸入に依存し、残り50%の現地生産分も主要コンポーネントや安価部品を中国・アジアから調達している構造だ。
ただし同社は「輸出超過企業」でもある。マイニング事業を中心に米国からの輸出が輸入を上回り、現地雇用は8,000人(代理店含め1万7,000人)、年間設備投資は300億円に達する。「この貢献を理解してほしい」(柳沢本部長)と訴える。
関税対応は短期・中期・長期の三段階で進める。短期では、鉄鋼・アルミ含有量の精緻な計算により、当初懸念された50%課税を実質20%程度に抑制。完成車や補給部品のカナダ・中南米向け直送化により、米国経由で発生していた関税を回避する。これらで数十億円レベルの削減効果を見込む。
中期では、マルチソース拠点を活用した部品・完成車のソースチェンジを推進。USMCA(米国・メキシコ・カナダ協定)やドローバック制度(輸入部品を完成車に組み立てて他国輸出すれば関税還付)も駆使する。「ブラジルの関税が50%になったため、ブラジル製品を欧州向けに変更し、米国向けは日本から供給するなど、柔軟に対応している」(同)。
長期では製品競争力の向上を最優先課題に据える。「3年後も関税が続くかは不明。だからこそ競争力強化が最重要」(同)との認識だ。中国ブランド製品を分解研究し、インドなど新たなサプライヤーを開拓。こまめなモデルチェンジで徹底的な「そぎ落とし作戦」を展開し、コスト競争力のある製品開発を加速する。
■競合と同じ構造―競争力向上が生命線
柳沢本部長は競合キャタピラーとの比較にも言及。「台数ベースで当社も競合も米国生産は約40%。ブラジルなど他地域からの輸入も含め、構造は同じ」と分析する。米国の鋼材価格は中国の2.3倍、人件費は7.5倍に達し、「米国で一から全て生産すればコストが見合わない」(同)のが実情だ。
「競合が値上げに踏み切れば対応は容易だが、そうはならない」(同)。関税の影響は避けられないものの、同社は62工場のグローバルネットワーク、キーコンポーネント自前化による技術優位性、クロスソーシングによる柔軟性を武器に、「製品競争力の絶え間ない向上」で市場での地位を守る構えだ。
説明会では、15年以上継続してきた明確な戦略と、BCP体制による事業継続力が改めて確認された。一方で、新興国メーカーの台頭、日本国内の生産環境悪化など、中長期的な課題も浮き彫りになった。柳沢本部長が繰り返し強調した「競争力向上」への取り組みが、今後の業績を左右することになりそうだ。
【コマツ生産体制の概要】
∙ 生産拠点:62工場(国内・海外)
∙ 生産本部従業員:3万3,000人(全体の46%)
∙ 海外売上比率:80~90%
∙ 国内生産比率:50±10%(見直し検討中)
∙ マザー工場:9工場
∙ 北米雇用:8,000人(代理店含め1万7,000人)
∙ 北米年間設備投資:約300億円
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