鹿島、「世界最高レベルの制震効率」を実現する電気不要型オイルダンパーを開発

・完全パッシブ化を達成、名古屋の「栄トリッドスクエア」に初適用

鹿島建設は10月27日、建物制震用オイルダンパーとして世界最高レベルの制震効率を発揮する、電気不要の環境配慮型オイルダンパー「HiDAX-Re(ハイダックス・アールイー)」を開発したと発表した。2015年に開発したセミアクティブ型制震オイルダンパー「HiDAX-R」に搭載した振動エネルギー回生システム(VERS:Vibration Energy Recovery System)を、世界で初めて完全パッシブ化したものである。

同製品は、鹿島が施工中の大型複合ビル「栄トリッドスクエア」(愛知県名古屋市)に初めて適用された。同社では今後、超高層ビルを中心に「HiDAX-Re」の展開を進め、耐震性能と居住性・事業継続性を重視した安心・安全な建築の普及を図る。

■開発の背景

鹿島は1985年から制震構造技術の研究開発に着手し、2000年にセミアクティブ型の「HiDAX-s」、2005年に電気不要のパッシブ型「HiDAX-e」、2015年には世界初のVERS搭載型「HiDAX-R」を順次開発してきた。
HiDAX-Rは制震効率の高さで高い評価を得てきたが、VERSの作動に電力を要するため、電気配線工事や停電時のフェールセーフ設計などの対応が必要だった。これに対し同社は、制震性能を維持しつつ電力を一切用いない完全パッシブ型の「HiDAX-Re」を開発。環境配慮と施工合理化を両立した新方式の制震オイルダンパーとして実用化した。

■「HiDAX-Re」の概要

「HiDAX-Re」は、地震などで発生する建物の振動エネルギーを補助タンクに一時的に蓄え、その圧力を利用してダンパーの制震性能を高めるシステムを採用。HiDAX-Rと同様の回生原理を持ちながら、弁制御を電気ではなく機械式に置き換えることで、完全な電力不要化を実現した。

従来はVERSの制御に電磁弁を使用していたが、「HiDAX-Re」では補助タンクの内圧変動を弁開閉に利用する独自機構を採用。これにより、電気配線やコントローラ、センサ類が不要となり、施工の自由度が向上。防火区画内の設置にも特別な配慮が不要となった。

■主な特長
• 最高水準の制震効率:従来のパッシブ型「HiDAX-e」を大幅に上回る振動エネルギー吸収性能を達成。
• 幅広い地震動に対応:風揺れから震度4~5クラスの地震、長周期地震動まで高い制震効果を発揮。
• 電源不要・停電リスク回避:外部電力を使用しないため、停電時にも性能を維持でき、構造設計上の合理化が可能。
• 施工・維持管理の容易さ:電気配線やコントローラが不要で、防火区画への設置制約がなく、メンテナンスも不要。

■今後の展開

鹿島はこれまで、制震効率・経済性・施工性の観点から多様なダンパー技術を開発してきた。今回の「HiDAX-Re」は、それらの特長を高次元で融合した新世代モデルとして位置づけられる。今後は超高層オフィスビルや都市再開発プロジェクトを中心に展開を進め、利用者により高い安全性と快適性を提供していく方針である。

<適用プロジェクト概要>

名称:栄トリッドスクエア
所在地:愛知県名古屋市中区新栄町二丁目
事業主:第一生命保険株式会社、鹿島建設株式会社、ノリタケ株式会社
設計・施工:鹿島建設株式会社
用途:事務所、店舗、駐車場
延床面積:約40,140㎡
構造:鉄骨造一部SRC造
階数:地上19階、地下1階、PH3階
工期:2023年6月~2026年3月末(予定)

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