Construction Briefing:2025年9月29日
米国における鉄鋼・アルミニウム関税の拡大が、建設機械価格の上昇を招くとの分析結果を英調査会社オフ・ハイウェイ・リサーチ(Off-Highway Research)が明らかにした。米国内生産品であっても価格上昇は避けられず、業界全体への影響が広がる見通しだ。
■トランプ政権の再登場と「解放の日」関税
4月のいわゆる「解放の日(Liberation Day)」には、同国の競合・同盟国双方からの輸入品に対し、高率な関税が課せられた。その後、各国政府との調整を経て一部で減免措置が取られたものの、8月には鉄鋼・アルミニウムへの50%関税が拡大適用される事態となった。
従来の対象は原材料に限られていたが、新たな措置ではそれらを使用した製品全般にまで関税が拡大され、建設機械を含む幅広い産業製品に波及している。
■鉄鋼・アルミ関税が建機産業に与える影響
オフ・ハイウェイ・リサーチによれば、この拡大関税は「事実上、全ての建設機械に価格上昇をもたらす」と指摘している。同社マネージングディレクターのクリス・スレイト(Chris Sleight)氏は次のように述べている。
「建設機械は製品中の鉄鋼比率が極めて高く、機械や部品、アタッチメントなどの構成要素に課される50%の関税が、従来の(低い)関税率を上回ってしまう。輸入時には高額な課税が避けられず、原産国の違いはもはや大きな意味を持たない。」
完成機を海外で製造する場合は当然価格が上昇するが、米国内で生産される機械であっても、部品や鋼材の一部は輸入に依存しており、結果的にコスト上昇を免れない。
米国は建設機械の巨大市場であり、純輸入国でもある。景気減速期にあたる2024年でも28万5,000台以上の建設機械が販売されており、関税拡大の影響は市場全体に及ぶことになる。
■関税水準は実質40~50%に上昇
4月の「解放の日」関税では10~30%(中国など一部国はそれ以上)だったが、今回のセクション232条(Section 232)に基づく鉄鋼・アルミ関税により、完成建設機械や関連部品、スペアパーツの実効関税水準は40~50%に達する見込みだ。
米国の建設機械ユーザーは国内製品への切り替えを模索する可能性があるが、課題は多い。
米国内で製造されない機種カテゴリーも多く、また米メーカーも輸入部品や素材の関税負担に直面しており、コスト上昇は避けられない。
さらに、一部の米ブランドは完成機を海外で生産しており、それらも新関税の対象となる。結果として、ユーザーは価格上昇を受け入れるか、投資計画の見直しを迫られることになる。
■米国ユーザーの負担は平均27%増に
オフ・ハイウェイ・リサーチの試算によると、米国の建設機械購入者は平均で27%のコスト増を被る見通しだ。
輸入機については、鋼材比率や原産地により異なるが最大45%の値上げが見込まれる。
また、米国製機械でも、外国製部品や非米国産鉄鋼・アルミの使用比率に応じて20~25%のコスト上昇が予想されている。
さらに、米国内メーカーが海外製品との価格差を埋めるために値上げを行う可能性もあり、実際の上昇幅はこれを上回る可能性もある。
■物価上昇圧力の新たな火種に
この分析は、関税政策がインフレを助長するとの見方を裏付ける内容となった。
英JCB(ジェイシービー)は8月、米国の完成品関税が「数億ポンド規模のコスト増を招く」と警告。JCBは英国企業であり、同国は50%ではなく25%の軽減税率が適用されているものの、使用する鉄鋼の原産地が必ずしも英国とは限らないと指摘されている。
JCBの最高経営責任者であるグレーム・マクドナルド(Graeme MacDonald)氏は英紙『The Times』に対し、「今回の関税は懲罰的」と述べた。同社は4月に米テキサス州サンアントニオ工場の規模を倍増(総面積約9万㎡)する計画を発表したばかりだった。
また、欧州建設機械工業会(CECE:Committee for European Construction Equipment)も、拡大関税により年間28億ユーロ相当のEU製建設機械輸出が影響を受けると警告している。
一方、米キャタピラー(Caterpillar)も影響を免れず、同社は関税関連の追加コストを15億~18億ドルと試算。数週間前までの予想(13億~15億ドル)を上回る見通しを示した。
■今後の販売影響と見通し
オフ・ハイウェイ・リサーチによると、セクション232関税の影響はすでに顕在化しつつあり、2025年の米国内販売は減少に転じると予測。
実際の影響は2026年以降により明確になる見通しで、同社は今後の予測修正の可能性にも言及している。
現時点では、今後の関税方針の行方は不透明であり、業界関係者の間では「建設機械価格の上昇と市場停滞が長期化する恐れ」が広がっている。
出典:Construction Briefing(2025年9月29日)/Off-Highway Research