・公開買付け・自己株取得で非公開化、300億円再出資も
三菱重工業は9月30日、連結子会社の三菱ロジスネクスト(東証スタンダード、京都府長岡京市、間野裕一社長)の株式を日本産業パートナーズ(JIP)傘下の特別目的会社に売却し、同社を非公開化すると発表した。JIP側による公開買付けと自己株式取得を組み合わせたスキームで、三菱重工は保有する全株式を手放す。一方で、非公開化後にJIP側の持株会社に300億円を再出資する計画。
公開買付価格は1株1,537円。三菱重工が応募しない自社保有株については、自己株式取得により1株1,081円で譲渡する。この価格差は税効果を考慮したもので、三菱重工の税引後手取額は公開買付けに応じた場合と同等になるよう設定されている。
三菱重工の保有株数は約6,889万株(議決権比率64.60%)。本取引により、2026年3月期の個別決算で約400億円の特別利益、連結決算で約300億円の事業再編関連損失を計上する見込み。
■事業ポートフォリオ見直しで売却決断
三菱重工は中期経営計画でGTCC(ガスタービン・コンバインドサイクル)、原子力、防衛の伸長事業と、エナジートランジション、電化・データセンターの成長領域に経営資源を集中する方針を掲げている。
物流機器市場では、レンタル・リース事業を含む直販網の拡充や、省人化・自動化ソリューションへの需要拡大に対応するため、大規模な追加投資が必要となっている。三菱重工は重点領域への投資を優先する観点から、三菱ロジスネクストを「必要な投資を実施可能な外部パートナーに託すことが企業価値向上に資する」と判断し、2024年8月下旬に同社へ非公開化の意向を伝えた。
■入札プロセスで最終的にJIP1社に
三菱重工と三菱ロジスネクストは2024年11月中旬から、複数の事業会社や投資ファンドに入札プロセスへの参加を打診。同月20日より14社を対象に第一次入札を開始し、12月下旬に6社から意向表明書を受領した。
この間の12月6日、一部報道機関が三菱重工による株式売却の可能性を報道。これにより三菱ロジスネクスト株は上場来高値を超える水準まで急騰した。
2025年1月中旬から第二次入札を実施したが、米国の相互関税・追加関税導入の影響が見通しづらいなどの理由から、2月25日にJIP1社のみから提案書を受領。その後、JIPに追加のデューデリジェンスや経営陣との対話の機会を提供し、4月28日に金融機関のコミットメントレター付き提案書を受領した。
ただし、この提案には三菱重工による再出資が前提条件として含まれていた。その後9月まで条件交渉を継続し、最終的に再出資を伴う今回のスキームで合意に至った。
■再出資の狙いと今後の関与
三菱重工は本取引後、JIP側の持株会社が発行する議決権のないB種優先株式(200億円)とD種種類株式(100億円)の計300億円を引き受ける。
JIP側からは「少数株主への合理的な売却機会提供と公開買付け実行の必須条件」として再出資を繰り返し要請されていた。三菱重工は、再度のマーケット・チェックでJIP以外の候補者が現れる可能性が高くないことや、早期売却による伸長事業・成長領域への迅速な投資実現を重視し、再出資を伴う本取引の実行を選択した。
株主間契約では、タグアロング権やドラッグアロング権、取得請求権、償還に向けた努力義務などが規定され、三菱重工の合理的な売却機会が担保される。また、業績向上に伴うアップサイドを享受できる仕組みも確保される一方、事業運営への関与や資金調達に係る権利・義務は有さず、必要最低限のモニタリングができる仕組みとなる予定。
■三菱ロジスネクストの概要と今後
三菱ロジスネクストは1937年設立。リーチ式バッテリーフォークリフトを日本で初めて開発したメーカーで、物流機器・保守部品の製造販売、保守サービス、物流システム事業を展開している。2013年4月に三菱重工のフォークリフト事業を承継して連結子会社となり、2017年10月にユニキャリアの事業を統合して現社名に変更した。
2025年3月期の連結売上高は6,656億円、営業利益208億円。資本金は49.76億円。
本取引の公開買付けは、国内外の競争法等に基づく手続きに一定期間を要するため、2025年12月下旬の開始を目指している。公開買付期間は20営業日の予定。その後、株式併合、資金提供、減資、自己株式取得を経て、最終的に三菱重工による再出資が実行される。
公開買付価格1,537円は、憶測報道前の2024年12月5日終値1,135円に対して35.42%のプレミアムとなっている。一方、公表前日の9月29日終値1,788円からは14.04%のディスカウントとなるが、憶測報道後の株価は過度な期待が織り込まれたものとの評価から、一定の合理性があると三菱重工は説明している。
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