コマツの今吉琢也社長は12月16日、新春向け合同取材会を開き、2025年度の市場環境と業績見通し、中期経営計画(2025~27年度)の進捗状況、2026年に向けた経営の考え方などについて説明した。建設機械需要は底堅さを維持する一方、鉱山機械はインドネシア市場の減速を背景に需要見通しを下方修正した。中期経営計画では、ソリューション型ビジネスの深化と自動化・脱炭素を軸に成長戦略を進める方針を改めて示した。
■今期の市場環境と業績見通し
主要7建機の需要は、2025年度第2四半期で前年同期比1%増、上期累計で同2%増と小幅ながらプラスとなった。地域別にばらつきはあるものの、年度通期では4月時点の見通しを据え置き、前年比0~5%減を想定する。一方、鉱山機械は第2四半期の需要が前年同期比13%減となった。石炭価格下落の影響を受けたインドネシア市場の落ち込みが主因で、年間需要見通しは従来の0~5%減から10~15%減へと下方修正した。他地域は概ね堅調に推移しているという。
2025年度の連結業績見通しは、売上高が前期比5.3%減の3兆8,880億円、営業利益が同23.9%減の5,000億円と減収減益を見込む。為替前提は年間で1ドル=143円、下期は140円とし、為替影響を織り込んだ結果、4月公表値からは上方修正した。営業利益率は12.9%と前期から3.1ポイント低下する見通しである。
■セグメント別の動向
建設機械・車両部門は、販売価格改善の効果はあるものの、為替影響や販売数量の減少、米国関税コストの増加などが響き、売上高は前期比6.0%減の3兆5,710億円、セグメント利益は同26.4%減の4,410億円を見込む。リテールファイナンス部門は、為替影響で減収となるが、資金調達コスト低下により微増益を確保する見通しである。産業機械他部門は増収増益を見込む。自動車向け大型プレスの販売増加や、半導体向けエキシマレーザーの高付加価値メンテナンス需要が利益を押し上げる。
■中期経営計画の進捗
中期経営計画では、ありたい姿を「安全で生産性の高いクリーンな現場を実現するソリューションパートナー」と再定義した。「価値創造への挑戦」を掲げ、①イノベーションによる価値共創、②成長性と収益性の追求、③経営基盤の革新――の3本柱で取り組みを進めている。
重点テーマとして、スマートコンストラクションの高度化とグローバル展開、オープンプラットフォームによるアプリケーション拡大、自動化・遠隔化技術の進展、複数動力源によるカーボンニュートラル対応、SDV(ソフトウェア定義型車両:Software Defined Vehicle)化の推進を挙げた。建設機械においても、ハードとソフトを切り離し、ソフト更新によって機能を進化させる考え方が重要になると強調した。
■カーボンニュートラルとスマート化
同社のCO₂排出の9割以上は製品使用時に発生する。このため、ディーゼルに加え、電動、バッテリー、有線給電、水素燃料電池など多様な動力源を視野に開発を進めている。2030年のCO₂排出半減目標の達成を確実にするとともに、2050年のカーボンニュートラルに向け、全方位で研究開発を続ける方針だ。
スマートコンストラクションは2015年の開始以来、累計導入現場数が約5万に達した。ICT建機の販売比率は、2025年度上期に日本・米国・欧州・豪州で3割弱まで拡大している。
■自動化・遠隔化と地域戦略
建設機械分野では、ティアフォーとの協業により自動運転技術の実用化を進め、2027年度までの実装を目指す。遠隔操作システムは災害復旧分野などでの活用も想定する。
鉱山機械では、無人ダンプトラック運行システム(AHS)の稼働台数が1,000台規模に近づいている。今後はSDV型の次世代鉱山機械開発に向け、外部パートナーとの連携を強化する。
地域展開では、アフリカ中部にオペレータートレーニング拠点を新設するほか、東南アジアではバンコク・モーターワークスとの共同経営により販売体制を拡充した。中近東やパキスタンでは大型鉱山案件を受注し、サービス拠点整備を進めている。
■林業・AI活用と26年への視座
林業機械事業は建設・鉱山に続く第3の柱と位置付け、伐採から植林、モニタリングまでを含む循環型ソリューションを展開する。日本ではスウェーデン製ハーベスターなどの試験導入を進める。
AI活用では、開発・生産・アフターマーケットの各分野で、故障予知や寿命予測、品質向上などの成果が表れ始めている。
今吉社長は「市場環境は地域ごとに濃淡があり、特にインドネシア市場の回復時期は見通しにくい」とした上で、「VUCA(変動性・不確実性・複雑性・曖昧性)の時代にあっても、中期経営計画の重点施策を着実に進め、環境変化に応じて優先順位を見直しながら、長期視点で成長に取り組む」と述べ、2026年以降を見据えた持続的成長への姿勢を示した。
・質疑応答は概ね以下のとおり。
■ 市場環境と来期の見通し(日本・北米)
日本市場については、売上構成比は大きくないものの、足元では想定以上に低調な状況が続いている。建設工事の案件自体は存在するが、資材価格の高騰や人手不足による工期遅延が目立ち、結果として顧客の設備投資に慎重さが見られる。建機の在庫過剰感も一部で生じており、こうした局面では需要が一時的に弱含む傾向がある。ただし、構造的な悪化とまでは捉えておらず、来期の回復については現在社内で議論を進めている段階である。
北米市場では、当初は金融引き締めによる景気への悪影響を想定していたが、現時点では大きなマイナス影響は見られていない。インフラ投資やデータセンター関連投資、資源開発投資が底堅く推移しており、建機需要は想定より堅調に推移している。来期については引き続き慎重に見極めていく。
■ 関税問題と経営への影響、対策
関税による年間の支払額は大きく、損益への影響も無視できない水準となっている。短期的な対策としては、製品に含まれる鉄鋼・アルミ使用量を正確に算定し、適正な申告を行うことで負担軽減を図っている。また、物流ルートを見直し、米国を経由せず直接他国へ輸送するなど、関税回避策も進めている。
中期的には、部品や完成品の直送化を進めるほか、グローバル生産体制を柔軟に見直し、関税やコストを踏まえた最適な供給体制を構築していく方針である。来年度に向けて、段階的に効果を積み上げていく考えだが、すべてを吸収できる規模ではないため、継続的な改善が必要との認識である。
■ 中国市場の位置付け
中国市場は、かつて外資メーカーが高いシェアを占めていた時代から大きく変化している。現在は中国メーカーの品質向上もあり、外資メーカーのシェアは大幅に低下している。ただし、大型機や高い耐久性が求められる分野では一定の競争力を維持している。
同社は中国を単なる販売市場としてだけでなく、生産拠点・輸出拠点としても活用している。中国国内向けに加え、東南アジアなどへの輸出基地としての役割を担っており、今後も重要な拠点として位置付けていく考えである。足元での業務運営に大きな支障は生じていない。
■ 月面プロジェクトへの取り組み
月面開発については、現時点では実機開発ではなく、シミュレーションを中心とした研究段階にある。重力が極めて小さい環境下で建設機械がどのように動作するかを物理的に検証している段階であり、実用化までには長い時間を要する見通しである。ただし、将来的な可能性を見据え、研究レベルでの取り組みは継続していく。
■ 価格転嫁と販売戦略
販売価格については、鋼材価格や各地域の物価上昇を踏まえ、基本的には定期的な値上げで対応してきた。特に鋼材は原価に占める割合が大きく、価格変動を販売価格に反映させることは不可欠としている。
一律の値上げだけでなく、新モデル投入時には機能向上とセットで価格改定を行うなど、顧客の理解を得ながら進めている。今後も原価動向と物価を見ながら、柔軟に対応していく方針である。
■ 自動化・遠隔操作・ICT建機
鉱山機械分野では、安全性向上とコスト削減を目的に自動化・無人化が急速に進んでおり、無人ダンプトラックなどは多くの顧客で導入が進んでいる。今後は、SDV(ソフトウェア定義型車両:Software Defined Vehicle)を活用し、安全性や生産性をさらに高めていくことが技術競争の焦点となる。
一般建設機械についても、危険箇所や特殊環境での作業を中心に自動化ニーズがあり、段階的に適用範囲を拡大していく考えである。
ICT建機については、特定地域での販売比率が着実に上昇しており、将来的には販売の約半数をICT対応機とする目標を掲げている。
■ インドネシア市場の動向
インドネシアはアジア最大の市場の一つであり、引き続き重要な位置付けにある。ただし、石炭価格の下落により鉱山関連投資が急減しており、新車販売だけでなく、オーバーホール需要にも影響が出ている。
同社としては、市況の変動を前提に、顧客動向を注視しながら、アフターサービスや部品供給を通じて収益確保を図る方針である。短期的な打開策よりも、環境変化に応じた柔軟な対応を重視している。
■ SDV(ソフトウェア定義型車両)と競争力
SDVの強みとして、長年にわたる稼働データの蓄積と、主要コンポーネントを内製している点が挙げられる。ハードウェアの特性を深く理解した上でソフトウェア制御を行えることが、競争優位につながると考えている。
リモートでソフトウェアを更新し、機能を向上させる仕組みは段階的に導入しており、今後は鉱山機械分野にも展開していく計画である。
■ キャッシュフロー、M&A、資本政策
中期的に掲げるフリーキャッシュフロー目標に対して、初年度はやや厳しいスタートとなっている。今後は売上・利益の拡大に加え、運転資金効率の改善や在庫削減などを通じて挽回を図る。
M&Aについては、既存事業の「足りない部分」を補完し、顧客価値を高められる領域を対象として検討している。製品、アタッチメント、ソリューション、技術分野が主な対象であり、買収だけでなく提携も含めて柔軟に判断していく。
株主還元については、配当性向を重視しつつ、財務健全性を確保した上で機動的な自己株式取得を行う方針を維持している。
■ 電動化・脱炭素・AI活用
建機の電動化は、規制動向、バッテリー技術、充電インフラ、顧客ニーズといった不確定要素が多く、段階的な市場形成になると見ている。自動化と比べると、実装には時間を要する見通しである。
脱炭素やサステナビリティ情報開示については、社内で準備を進めており、投資家に対しても丁寧に説明していく方針である。
AIについては、現場の最適化や自動化を中心に実装が進んでおり、すでに効果が出始めている。今後はグローバルでの展開と、ガバナンス・データ管理を両立させながら活用を拡大していく。
以上
コメントを投稿するにはログインしてください。