ヤマシンフィルタ、2030年ビジョン発表、機能素材メーカーへ進化図る

・総合フィルタメーカーから機能素材メーカーへの転換を宣言

ヤマシンフィルタは12月4日、「YAMASHIN FILTER VISION 2030夢への挑戦」を発表した。同社は「仕濾過事(ろかじにつかふる)」という企業理念のもと、フィルタビジネスを通じた社会貢献を掲げてきたが、今回のビジョンでは既存事業の強みを活かしながら総合フィルタメーカーから機能素材メーカーへの進化を目指す方針を明確にした。

■数値目標は売上高2.5倍、時価総額7倍超に

2030年3月期の数値目標は、売上高500億円、営業利益105億円、EPS107円。2025年3月期実績(売上高201億円、営業利益26億円、EPS24円)と比較すると、売上高で約2.5倍、営業利益で約4倍の大幅な成長を見込む。時価総額は現在の408億円から3,000億円以上への拡大を目指す。

この野心的な目標の背景には、同社が独自開発した「YAMASHIN Nano Filter」の存在がある。髪の毛の約120分の1という500ナノメートルの極細繊維で構成されるこの新素材は、高比表面積・高空隙率、材料自由度の高さ、多様な加工技術という3つの特徴を持つ。改良型メルトブロー法という独自製法により量産化が可能で、大きなコストメリットも実現している。

■事業構成は建機中心から新素材へシフト

事業構成の目標は劇的な変化を計画している。2025年3月期実績では建機用フィルタ87%、エアフィルタ13%だったが、2030年3月期には建機用フィルタ50%、エアフィルタ7%、新素材領域43%へとシフトする。新素材事業だけで213億円の売上高を見込み、営業利益45億円を目指す。

新素材領域では、機能テキスタイル、ライフサイエンス、産業資材の3分野を重点市場として選定した。機能テキスタイル分野では、アパレル向け新ブランド「TEXIFIL」を2025年11月から市場投入する。従来品の10分の1の薄さで同等の保温性を実現し、機動性、保温性、調湿性に優れた中綿素材として展開。世界のアパレル市場342兆円のうち、機能性中綿市場で2030年までに3%のシェア獲得を目標とする。

ライフサイエンス分野では、導電性ナノファイバーを活用した生体センサー用電極を開発。従来必要だったハイドロゲル層を不要とし、快適性と信号精度の向上を両立させる。パッチ型心電図電極素材市場で2%、ウェアラブル筋電図電極市場で4%のシェア獲得を目指す。

産業資材分野では、断熱絶縁材やEMIシールド材を展開。電力インフラ向け電気絶縁材、EMIシールドライナー、金属ハニカムベントなど複数の市場で事業化を進める計画だ。

■既存事業も年率10%超の成長目標

既存の建機用フィルタ事業も着実な成長を計画している。2030年3月期の売上高目標は250億円で、年平均成長率5.8%を見込む。北米市場でのシェア拡大、ナノファイバー製品の拡販、アフターマーケット活動の進化という3つの重点戦略を推進する。

特に北米建機メーカー向け売上高構成比は、2025年3月期の23.4%から2030年3月期には36.2%への拡大を目指す。補給品売上高も82億円から160億円へ倍増させ、補給品比率を68%まで引き上げる方針だ。さらに、現在シェアがほぼゼロのガスタービン用や非常用発電機向けフィルタ市場への参入も計画している。

■資本戦略は成長投資と株主還元のバランス重視

2026年3月期から2030年3月期までの5年間で、営業キャッシュフロー185億円と調達100億円、現預金60億円の計345億円を原資として、成長投資と株主還元に配分する。成長投資には既存事業向け40億円、新規事業・M&A向け95億円の計135億円を投じる。株主還元は配当52億円、自己株式取得65億円の計117億円を計画し、配当方針としてDOE10%以上を掲げる。

同社の挑戦は、フィルタ技術で培った素材開発力を武器に、社会課題解決と企業価値向上の両立を図るものだ。ナノファイバー技術という独自の強みを活かし、建機フィルタの安定収益基盤の上に新たな事業の柱を構築する戦略は、製造業の事業転換モデルとして注目される。​​​​​​​​​​​​​​​​

ヤマシンフィルタビジョン2030説明会資料