建設機械の世界需要、2030年まで緩やかな拡大基調を維持、デジタル化で高付加価値事業への転換急務

・みずほ銀行が中期見通しを発表

みずほ銀行産業調査部は11月28日、定期レポートの中で、建設機械業界の2026年から2030年にかけての中期見通しをまとめた。グローバル販売は関税影響から本格回復には至らないものの、中国・インドを中心に緩やかな成長が見込まれる。一方、国内市場は人口減少や住宅投資の頭打ちで内需が低迷するものの、輸出拡大が下支えする見通しで、メーカー各社はグローバル展開とバリューチェーン型ビジネスへの転換が一段と求められるとしている。

■グローバル市場、年率1.6%成長を予想

2025年のグローバル販売台数は前年比1.8%減の87.2万台と予測。米国では関税政策による不確実性から需要が縮小する一方、欧州では金利低下を受けて底打ちする見込み。2026年は中国とインドの内需拡大がけん引し、同3.3%増の90.1万台と5年ぶりのプラス成長に転じる見通し。ただし、国際情勢の不確実性の影響で本格回復には至らない。2030年にかけては、北米・欧州・インドは底堅く推移するものの、中国が伸び悩み、年率1.6%の緩慢な成長となる見込み。

生産については、2025年が126.1万台(前年比0.3%減)、2026年が129.7万台(同2.8%増)と予測。中国・インドが堅調に推移する一方、先進国は横ばいとなる。2030年にかけては年率1.5%の緩やかな成長を見込む。日本では人口減少や住宅投資の頭打ちで内需は低迷するが、輸出の増加が生産を押し上げる構図だ。

■事業環境と構造変化

建設需要の絶対量が伸びにくい中でも、インフラ老朽化対策、防災・減災投資、再エネ関連工事など、分野ごとのメリハリは一段と鮮明になっている。とりわけ、送配電設備やデータセンター関連、再エネ設備の建設・改修領域での機械需要が底堅く推移するとみられる。

他方、国内建設業の深刻な人手不足を背景に、省人化・省力化につながるICT建機や自動運転施工、遠隔操作といった「施工プロセスの高度化」ニーズが急速に高まっており、単なる台数拡大から、付加価値・機能軸での競争へと重心がシフトしている。

■リスク要因と収益機会

マクロ面では、金利水準の高止まりや不動産市況の調整長期化が、建設投資の下振れリスクとして意識される。加えて、主要市場における環境規制の強化や排出規制の高度化は、エンジン・排ガス後処理のコスト増を通じて収益を圧迫する可能性がある。

一方、カーボンニュートラル対応は、電動建機やハイブリッド機、低炭素燃料対応機など新機種投入を通じた単価上昇機会でもあり、ライフサイクル全体でのCO₂削減提案を軸にしたソリューションビジネスへの広がりも見込まれる。経済安全保障やサプライチェーン再構築の流れの中で、インフラ投資や工場建設の増勢が続けば、中大型機を中心とした需要の底上げ要因となる。

■バリューチェーン戦略とM&A
レポートは、建設機械セクターの中期戦略として「売り切り」から「バリューチェーン事業」へのシフトを明確に位置づけている。具体的には、テレマティクスによる稼働データの蓄積・分析を活用した予防保全、残価保証やリース・レンタル、ファイナンス、オペレーション支援などを組み合わせたリカーリング型モデルの拡充だ。 

各社はこうした戦略の一環として、施工管理プラットフォームやデータ解析、リビルト部品・修理サービスに強みを持つ企業への出資・M&Aを進めており、直近も海外サービス会社やデジタル関連ベンチャーの買収案件が相次いでいる。販売・保守ネットワーク、データ基盤、金融・レンタル機能を一体で提供できる体制を整えられるかが、中期的な競争力の分水嶺となりつつある。

<主な論点>
グローバル需要:新興国インフラや資源開発を軸に販売台数は年率2%前後の成長を見込む。先進国は更新中心で安定推移。

日本市場 :建設投資の伸び鈍化と人手不足で台数は頭打ち。高機能・高付加価値機へのシフトが進行。

リスク:高金利・不動産調整、環境規制強化によるコスト増が収益圧迫要因。

チャンス:GX投資、インフラ・データセンター建設、省人化需要を背景に電動・ICT建機やサービスビジネスが拡大。

戦略の方向性 :バリューチェーン型事業への転換、デジタル・金融・サービス機能の統合とM&A活用がカギ。

■建機と他産業との位置づけ
みずほレポート全体の総論では、日本産業の共通課題として、国際情勢の不安定化、脱炭素政策の揺らぎ、供給制約、人口動態の変化、デジタル・AIの急進展という5つの外部環境変化が整理されている。

建設機械はその中で「ビジネス領域拡張による価値極大化」の代表例として位置づけられており、建設業の人手不足・生産性向上ニーズやGX投資、経済安全保障対応インフラ整備など、マクロの構造変化を取り込めるポジションにあると評価されている。

機械関連メーカーにとって、2026~2030年は数量成長よりも「どの市場で、どの施工プロセスを、どのようなサービスを組み合わせて取るか」が問われる局面となる。建設機械単体の競争から、施工ソリューションとライフサイクル価値を巡る総合戦に舞台が移りつつあるとしている。

詳細は、みずほ産業調査79号・日本産業の中期見通し:2025年11月28日