コマツ、小川社長と今吉専務の会見、質疑応答より抜粋

 コマツは1月31日、4月1日付けの人事を発表した。小川啓之社長と、次期社長に就任予定の今吉琢也専務が会見した。記者からの質疑応答を抜粋編集してみた。

—-M&A戦略に関しての考え方については。

今吉専務:M&Aについては、コマツは過去からも色々なM&Aに取り組んでおり、それによる成長部分もかなり大きいし、今後も重要な手段として考えております。どの辺を狙うかというのは、これまでと変わりませんが、建設・鉱山機械セグメントを中心に抜けてるパーツですね、そこをどう考えるか、色々な戦略をいま議論をしてるところです。

—-トランプ大統領が就任されて、関税を引き上げる等々の発言もされています。第1次トランプ政権の時にも少しちょっと因縁があったようですが、米中関係なりトランプ大統領の施策なり外的環境が変わってきますが。

今吉専務:コマツはかなり古い時代からクロスソースということで、例えば同じ20トンの油圧ショベルでも世界の何か所かで作って、需要の変動と状況に応じてソースを変更するということで行ってまいりました。最近は本体だけでなくて部品についてもマルチソース化という体制をつけてきたつもりですけれども、冒頭申し上げた通り、色々な貿易戦争が始まってくると、その都度色んな対応を取らなければいけないと思っております。今までの体制で調整しきれるかというと、難しい面も出てくるかと思っております。ただ、具体的にはトランプ政権の政策もですね、今日もアナウンスあったかもしれませんけれども、 もう少し具体的によく見ていきたいと思っております。
 アメリカに関しては、 決算発表でも説明していたかと思いますが、コマツはアメリカでは輸出の方が多い輸出国でありますので全体としては大きな影響はありません。カナダ、中国、メキシコですね、いま問題になってる国からの輸入の量というのも限られておりますので、それほど大きな影響はないと思っております。ただし、貿易戦争が過熱して相手国が報復関税をかけるようなことになってくると、また違った状況にもなります。例えばカナダで言いますと、アメリカ製の大型建機をカナダに輸出しておりますので、そこに関税がかかったりすると大きな影響が出てくるかと思いますし、それをどういう形で吸収できるか、難しい状況が出てくるかと思っております。

—-新興国など戦略市場にも競合相手がいるが、戦略市場に対する今後の方針については。

今吉専務:新興国に限らず、基本的には需要のあるところで物を作る。これまでも、 ある程度の需要の量に達した場合には、そこに組み立て工場を作って、そこで作ることによって原価、サービスも含めて優位性を持つようなことをやってきております。新興国においても、インドネシア、タイに組み立て工場を持っております。貿易戦争に限らず、今までの延長で優位性がある限りは現地で組み立てを行います。ただ、組み立て以前の色んな部品の調達については、色々な組み合わせでベストな方法を模索していきます。特に新興国から増やす減らすということではなく、総合的に判断するものだと思っております。

—-小川社長に聞きます。後任に選ばれたのはどういう考えで、いつ頃から考え、いつ伝えましたか。

小川社長:コマツの後継社長選びは数年前から人事諮問委員会の中で議論しています。当然何名かの社長候補というのを挙げて絞り込んでいくわけですが、今吉さんに絞り込んだのは今年度に入ってからということになります。実際今吉さんにお伝えしたのは昨年12月の半ばぐらい、ちょうど人事諮問委員会が終わった後です。

—-後任を最終的に今吉さんに決定されたのは、どの辺りが決め手となりましたか。

小川社長:冒頭申し上げたようにですね、非常に冷静だし、物事を全体最適で見られるということもあります。2019年の中期経営計画、私が社長に就任した時ですけども、この時に経営管理部長として同じ中計を一緒に策定したということもあってですね、私がやってきたことを十分理解されてると思います。経営は、継続性、一貫性は非常に必要だと思いますので、そういった意味でも一緒に中計を立ててきたというのは1つの大きなポイントだと思います。
 それから、戦略市場と伝統市場の両方を経験されてるということで、知見などが非常に重要かなというように思います。また、部下からの評価なんかも、我々360度評価ということで、それぞれ各役員の評価が一致してますけども、それにおいてもですね、非常に部下に対して信任が厚いということで、総合的に見て今吉さんが適任だろうということです。

—中国メーカーについての見方は。
 
今吉専務:やはり中国メーカーの技術力の進歩ってのは非常にすごいものがあると思っております。中国のマーケットは10年前は8対2で外資メーカーのマーケットでしたが、いまは逆に現地メーカーが85%ぐらいで、外資メーカーのシェアは15%ぐらいになっています。それぐらい彼らの品質、販売力は優れてるということだと思います。ただ、まだまだ大型の建機であったり、重作業用の建機であるとか、コマツも含めて外資メーカーの優位性はまだありますし、その中でどうやっていこうかという議論だと思います。中国メーカー全般に言えますのは、技術の向上の力は非常にすごいと思います。それは 1つには政府の産業政策もございますし、なんと言っても国内マーケットがあれだけ巨大な市場ですので、その中での切磋琢磨して伸びるんだろうと思います。私も2回駐在しておりますけど、1回目の駐在の頃、おそらく数えてみると中国の建機メーカーは50いくつあってですね、 そこで数えるのをやめたぐらいの話だったんですけども、いま残ってるのは有力な会社は5、6社だと思います。それぐらいこう淘汰されながら成長してるんだと思います。

—-ライバルのキャタピラー(CAT)については。

小川社長:マイニング(鉱山機械)については、ボリューム的には、 ジョイグローバル社の買収もあって、ほぼ対等のレベルにあるかと思うんです。しかし一般建機については、なかなか追いつけない。特にアメリカのマーケットです。彼らのホームマーケットで言いますと、もう圧倒的なシェアを持っていて、とても一朝一石で追いつけません。
 過去から色々努力もしながら、ストロングナンバーツーみたいな形を目指して、それなりに成果が出てると思います。やはり 一般建機の場合は、グローバルなお客様というより、それぞれの市場のお客様対応ということになりますので、各市場のセグメントをよく見ながら、そのお客様の要求に合った商品開発力をもっともっと伸ばしていくとかです。そういうことで、徐々にシェアを取っていくことかと思っております。  

—-直近のトップになられてる方が生産本部長を経験されてる方が多い中で、今吉さんは財務部長だったり 経営管理部長だったり、少し経歴が違うのかなという印象もあるんですけれども、そこに込めた思いがもしあればお願いします。

小川社長:私自身は特にバックグラウンドは関係ないと思っています。やはり大事なのは人間性、人格、そういったところだと思いますので、そういったところで今吉さんっていうのは非常にいい。実際、そのバックグラウンドそのもので、大きく変わることはありません。バックグラウンドが全く違ったとしても、大きくコマツの経営方針が変わることはないと思っています。冒頭申し上げましたように、各部門はきっちりした方針持っています。それから、コマツウェイの価値観を共有してるので、ここにおいては全く心配する必要はないと思います。
 コマツウェイについてはこの1月に改定をいたしました。間もなく皆さんもご覧になれるかと思います。いままでコマツウェイは社外秘でしたけども、今回からオープンにするということで、ぜひ見ていただけるのかなというふうに思います。

—-トップとして中長期的にコマツという会社をこうしていきたいとか、そういう思いは。
 
今吉専務:今やコマツの建機の売上げで言うと9割以上が海外ということで、 いかにグローバルなオペレーションで海外の人たちを巻き込んでいくかというのが非常に重要になってきてると思います。それはいまでも大きな課題だと思います。ただ、100周年を機に存在意義だとか価値観を議論して文章化したというのはグローバルの皆さんをいかに巻き込むか、いかに共感を持って取り組むかというために非常に重要なことだったと思っています。まだ104年目ですけども、文章化をした価値観、存在意義、それからブランドプロミスであったり、考え方の共有というのを、もっともっとやっていかなければいけないと思っています。その共有の下で、初めて好業績も出てくるのかと思いますので、まず何よりもそういう価値観の共有だと思ってます。  

—-今吉さんがご自身で認識される強みってのはどこになりますかね。

今吉専務:社長のご期待に応えられるかわかりませんけども。経歴的にはもちろん違いますけれども、先ほどご紹介あった通り、前回の中計から一緒に策定もしておりますし、ずっと経営会議での議論も参加しておりますので、 特に何か変わるということではありません。けれども、経歴的にはM&A部隊を引っ張ってきたり、あるいはIRのマネージャーをしてたこともありますので、投資家との対話については十分承知をしておりますし、そういう経験も生かしながらやっていきたいと思っております。

—-建機の電動化に関しての展開であったり とか、それからどのような課題を認識、今されていらっしゃるのか。先ほど9割海外という、おっしゃっておられましたが、1割国内、その国内の建設だったりの関係で利用されるそのICT関係の施工にこれからさらに対応が必要になってくるかと思うんですが、どのようにそういう部分に対応していかれるのか、お考えをお聞かせください。

今吉専務:電動化については、自動車業界も色々な揺り戻しがあるみたいですけども、建機の場合は、やはり自動車と違って動いてる場所が違いますので、どこで充電をするかというのが非常に問題だと思います。バッテリー化をしても、充電ができなければ動きませんし、かつ、本当にバッテリーがいいのかってですね。水素エンジンも含めて色々な技術がまだまだこれから出てくるんだと思っています。ただ一方で、すでに必要としてるお客様もおられますので、特にヨーロッパの方が先に進んでるかと思いますので、いくつかのモデルでは既に電動化モデルを出しております。そういう意味で、非常に市場ごとに要求が違ってきますし、技術の動向もまだまだ不透明ですし、特にバッテリー化をしても、その充電の動向がどうなるか、そういうことも含めてよく各地のマーケットを見ながら、全方位でやってかないとリスクがあります。かなり手間はかかりますけども、力を入れて取り組んでいきたいと思っております。

 日本については、1割のマーケットとはいえ、コマツのホームマーケットで高いシェアも取っていますので、引き続き重視していきたいと思います。ご承知の通り、スマートコンストラクションというのは日本から始めております。 労働者の不足というのは当然ますます重要な問題になってきますし、昨年12月に発表している新しいモデルも出して、今後もICT型の建機を普及させることです。業績も伸ばしたいですけども、やはり社会的な課題解決に繋がるように頑張っていきたい。スマートコンストラクションはすでに今年で10年目です。日本に限らず、海外での展開をどんどん加速させているところでございます。 

—-小川社長に聞きます。6年間の中で、苦労されたこと、やり残したことなどは

小川社長:6年間いろんなことあったんですけど、やはり大きなことはパンデミックですかね。約2年間大変な状況になったこと。世界的な需要も落ち込みました。ただ、我々のお客さんというのはエッセンシャルワークということで、コロナの中でも現場は動いてましたので、そういった現場の中で、現場へのサポートを、我々として継続してやっていきました。これはグローバルにどうやっていくかということが非常に重要だったんですけども、この辺のモチベーションを維持するというのは非常に大変だったかなというふう思います。
 もう1つは、ロシアのウクライナ侵攻です。コマツのロシアの売上げはだいたい2,000億円弱あったんですけども、これが全くなくなってしまうということで、この売上げに変わる新しい取り組みですかね。こういったこともやっていかなければいけないっていう中で大変でした。それから輸出規制だとかそういったものが、日本だけじゃなくてグローバルに、非常に厳しくなっていくなかで、いかにコンプライアンス問題をきちっとクリアしていくかということは非常に大変だったかなというふうには思います。

 やり残したことは、経営目標として、収益性、健全性、成長性、効率性とか言ってますけども、やはり収益性のところは、先ほどご質問ありましたけども、我々の最大のコンペチターに対して収益性のところは非常に劣後してるということがあります。ここの収益性はやはり少しでも縮めるってことがなかなかできてこなかったっていうのが1つ大きな課題かなというふうに思います。次の新中計の中でもですね、一般建機でキャタピラーとの差をどう埋めていくかというのが非常に重要だと思います。
 マイニングについて言うと、営業利益率はもうすでにキャタピラーを凌駕してるので、一般建機のところ、先ほど今吉からも話があったと思いますけども、やっぱり地域差、キャタピラーの売上げの65%は米州で、我々の主戦場っていうのはやっぱり日本とアジアです。中国メーカーも2017年の一帯一路以降、東南アジアにどんどん出てきているということもあります。いま中国市場が非常に悪いこともあって中国メーカーが、どんどん輸出に力を入れてきた。この中でいかに勝ち抜いていくかというのが非常に重要ですけれども、ここの具体的な取り組みをきちっとやっていくことが、少しでもキャタピラーに近づくことができるかなというふうに思います。
 とにかく、一般建機のボリュームは、キャタピラーとだいたい倍違います。このボリューム差をいかに埋めていくかということが非常に重要だという風には思います。それを埋めていく中で、やっぱり差別化が非常に重要になってくると思うんです。ICT建機だとかソリューションビジネスだとか、こういったところで中国メーカー、キャタピラーなどとの差別化をどんどん進めていくということが非常に重要だというふうに思います。この辺が少し心残りと言えば心残りです。

 以上