●年頭所感(2025年) 経済産業大臣 武藤 容治

 経済産業省:2025年1月1日

■はじめに
 令和7年の新春を迎え、謹んで新年のご挨拶を申し上げます。

 昨年は、年始の能登半島地震をはじめとして、台風や豪雨など、多くの予期せぬ自然災害が発生した一年でした。被災された方々に、改めて心よりお見舞いを申し上げます。また、特に能登半島地震で被害を受けた地域では、なりわいの再建をはじめ、復旧・復興への道のりはいまだ半ばです。私も昨年実際に現地に足を運び、被害に遭われた現場をこの目で見て、被災された事業者の方々の再建への思いをお伺いしました。度重なる災害により、地域の未来のために歩んでいる方々の思いが絶たれることがあってはなりません。経済産業省としても、昨年とりまとめた経済対策に盛り込んだ支援施策等も通じて、引き続き復旧・復興に全力を尽くしてまいります。

 昨年は世界が激動する中で、我が国の経済と社会の安定をいかに守り抜くかが問われた一年でもありました。依然として中東やウクライナにおける戦争は収束の兆しを見せず、我が国のエネルギー政策や産業政策も大きな影響を受けています。

 また、アメリカではトランプ新政権が発足しようとしており、経済・外交政策がどう変化するか、その一挙一動に世界が注目しています。こうした中で、我が国はエネルギー安全保障や国際協調の維持に向けた努力を続けると同時に、長期的な視点での新しいエネルギー転換や資源確保の取り組みを強化してきました。

 国内に目を向けると、人口減少、30年以上続くデフレ経済、地政学リスクの高まりや企業の国際競争力の低下など、我が国には多くの課題が山積しています。こうした国内外の課題にしっかりと目を向け、変化に対応し、我が国の経済活力を取り戻していく必要があります。

 産業政策については、数年間にわたるⅮX、GXなどの成長分野への積極的な国内投資が芽吹き、明るい兆しが現れ始めました。実に30年ぶりとなる水準の賃上げ、100兆円を超える攻めの設備投資、史上最高値水準の株価、そして名目GDPも初めて600兆円の大台を超えるなどの成果があります。

 一方で、足下の物価高を背景に、消費は力強さを欠いています。全国的に賃上げは進んでいますが、地域や業態によって、上昇幅にばらつきも存在します。

 長きにわたるコストカット型経済から、「賃上げと投資が牽引する成長型経済」への転換を確実なものとするため、物価高に負けない持続的な賃上げを実現し、これを更なる消費と投資へ繋げていかなければなりません。

■官民あげての思い切った成長投資
 そのために、まずは我が国の将来の「稼ぐ力」を生み出す産業の育成を進めてまいります。

 官民が連携して行う大型投資による経済効果は、実際に投資を行う大企業にとどまりません。地元の中小企業をはじめ、その地域に眠る投資意欲を覚醒させ、地方創生の「起爆剤」となる効果があります。

 世界市場の大きな成長が見込まれる、AI・半導体分野については、今後2030年度までに10兆円以上の公的支援を行います。これによって、10年間で50兆円を超える官民投資を実現し、約160兆円の経済波及効果を目指します。また次世代半導体の供給能力を国内に確保するため、その量産開始に向けて必要な支援を行うための法案を、次期通常国会に提出すべく検討を進めてまいります。

 イノベーションの促進も積極的に支援します。量子分野では、世界最高水準の研究開発拠点を作るための、大規模投資を行います。航空機分野では、国際的な連携も図りながら、脱炭素に繋がる次世代の航空機開発を見据えた事業に官民で投資を行います。宇宙分野では、衛星・ロケットの打ち上げや、そこから得られるデータの利活用を加速する、技術開発支援を行います。

 バイオ・ヘルスケア分野では、バイオ医薬品の国内製造拠点の整備や、医療機器の研究開発、介護テクノロジーやヘルスケアサービスの社会実装等を促進してまいります。また、コンテンツ含めたクリエイティブ分野では、クリエイター・事業者の海外展開支援や、エンタメスタートアップの創出を強化します。

 日本の成長を加速させるイノベーションを生み出す、スタートアップの事業化や、海外展開も支援していきます。

■持続的・構造的賃上げを実現できる環境づくり
 企業が利益を生み出し、賃上げの原資を確保できるようにするためには、円滑かつ迅速な価格転嫁が極めて重要です。

 取引適正化に向けた取組を強化し、毎年3月と9月の「価格交渉促進月間」における取組に加えて、取引実態に関する情報収集体制の強化や、パートナーシップ構築宣言の更なる拡大と実効性強化に取り組みます。また、サプライチェーン全体で適切な価格転嫁を定着させるため、公正取引委員会と、下請法の改正を検討していきます。

 さらに、企業の「稼ぐ力」を根本的に強化するため、中小企業の生産性向上や省力化投資を支援するとともに、地域経済を牽引する中堅企業や、売上高100億円を目指す中小企業の成長投資も支援してまいります。

■エネルギー価格高騰への対応
 成長を後押しする支援策とともに、足元の物価高が続く状況の中で、エネルギー価格の高騰に苦しむ方々への支援に取り組みます。

 電気・ガス料金については、電力使用量が多い1月から3月までの使用分について、支援を行います。燃料油価格の激変緩和事業については、出口に向けて段階的に対応してまいります。 
 
 こうした支援はいつまでも続けるべきではなく、併せて、エネルギー構造の転換も進めます。脱炭素電源を確保していくことに加え、工場・事業所に対する省エネ設備の導入や省エネ診断の支援、家庭における高効率給湯器の購入支援等を通じて、企業や家庭での省エネを進めるとともに、クリーンエネルギー自動車の導入も支援します。

■GX・エネルギー政策
 GXを通じて、エネルギー安定供給、経済成長、脱炭素を一体的に目指すことも重要です。

 昨年末には、「GX2040ビジョン」と「エネルギー基本計画」の案をとりまとめました。ⅮXやGXの進展によって電力需要の増加が見込まれる中で、脱炭素電源の確保は国力を左右しかねないという認識のもと、徹底した省エネに加え、再エネや原子力などの脱炭素電源の最大限の活用を進めてまいります。

 具体的には、再エネの更なる導入拡大に向け、ペロブスカイト太陽電池や洋上風力のサプライチェーンの構築、地熱や中小水力発電の推進、蓄電池の導入などを進めます。原子力については、安全性の確保を大前提に、地元の理解を得ながら、再稼働の加速化に向けて取り組むとともに、次世代革新炉の開発・建設の具体化、再処理や最終処分を含むバックエンドプロセスの加速化などに取り組んでいきます。また、水素等の大規模な供給と利用などを進めます。

 今後、さらに脱炭素電源の投資拡大策やカーボンプライシングなど施策の具体化を進め、支援と規制・制度的措置を一体的に講じることで、GXの実現につなげてまいります。加えて、GXにはサーキュラーエコノミーの実現も重要であり、再生材の利用拡大に加え、環境配慮設計等を促進するための検討などを、産学官で連携して進めます。

 GXの推進にあたっては、アジアの同志国との連携も深めてまいります。第2回AZEC首脳会合において、日本のリーダーシップのもと、「今後10年のためのアクションプラン」が合意されました。
本合意に基づき、各国の事情に沿った多様な道筋のもとで、手を携えながら、ルール形成を含む政策協調とプロジェクトの実施を進めてまいります。

■対外経済政策
 我が国を取り巻く国際環境は刻一刻と変化しています。WTOや経済連携協定を通じた、ルールベースの国際経済秩序を維持・強化していく方針のもと、米国のトランプ新政権をはじめ、重要な同志国や隣国等とも密に対話を重ねていきます。

 経済安全保障確保の重要性も高まっています。技術革新への投資、需要側の取組も含めたサプライチェーンの強靱化といった政策により、我が国の製品や技術の更なる優位性確保や、我が国が必要とする重要物資の確保に万全を期することが重要です。ガリウムなどのレアメタルの確保、銅の上流権益確保、エネルギー安定供給確保のための資源開発など、先手を打った支援を行います。

 また、AZECを含め、成長著しいグローバル・サウス諸国での、日本企業と現地企業等が連携を促進するプロジェクトを創出し、日本経済に裨益するルール作りにつなげていきます。

 ロシアによるウクライナ侵略が続く中、現地企業や中東欧諸国などの第三国と連携し、日本企業の強みを生かした復興支援に、引き続き取り組んでまいります。

■福島の復興
 福島復興と東京電力福島第一原子力発電所の安全かつ着実な廃炉は、引き続き経済産業省の最重要課題です。ALPS処理水の処分が完了するまで、政府として全責任をもって取り組む方針のもと、一部の国・地域による日本産水産物に対する輸入規制の撤廃に向けた働きかけを行うとともに、安全性の確保、風評対策、なりわい継続支援に全力で取り組みます。

 また、昨年成功した燃料デブリの試験的取り出しは、より本格的な廃炉作業を迎える中で重要な一歩です。

 今後も、安全確保に万全を期しながら、作業を進めていくことが重要です。着実な廃炉の進展に向け、燃料デブリの取り出しなどに関する研究開発支援を行います。

 併せて、帰還困難区域の避難指示解除に向けた取組や、事業・なりわいの再建、福島イノベーション・コースト構想、新産業創出、交流人口・関係人口の拡大、芸術文化を通じた新たな魅力づくり等を通じ、被災地の復興を着実に推進します。

■大阪・関西万博
 最後に、大阪・関西万博について申し上げます。万博は、「いのち輝く未来社会のデザイン」をテーマとし、世界中の来場者を出迎え、「未来社会の実験場」のコンセプトのもと、AI・ロボット、GX、DX、ライフサイエンスといった最先端分野を発信・社会実装する機会であり、日本が世界の課題解決を主導して更なる発展の道筋を拓く契機となるものです。国内外からお迎えする来場者に未来社会を実感いただけるような工夫をこらし、これからどのような未来を創っていくべきかについて、将来を担う子どもたちとともに考えられる場所としていきます。経済産業省としても、本年の大きな目玉となる政策的取組としてその成功に向けて取り組んでまいります。

■おわりに
 今年の干支は「乙巳(きのとみ)」。「乙(きのと)」は新たな芽吹きや成長の始まりの意味、「巳(み)」、すなわち蛇は、脱皮を繰り返して、変化や成長を遂げる動物です。「乙巳」の本年は、芽吹き始めた日本経済の明るい兆しを大切に育て、万博という大舞台を通じて「いのち」の息吹を吹き込み、蛇のようにしなやかに、力強く伸びていく経済を実現していく一年になることを祈念し、皆様のご協力をお願い申し上げます。

 経済産業大臣の年頭所感