米ディア社との合弁・業務提携解消、日立建機の平野社長が会見

 日立建機は、米ディア社との長年におよぶ業務提携を解消すると発表した。今後、北中南米事業の再構築を通じ事業規模を拡大し、売上高は1兆円以上、営業利益率は安定的に2桁を目指す。今回の提携解消により、日立建機は北中南米のみならず、グローバルに事業展開できるという。今後、OEM供給は一定程度残るものの、建設機械で約30~40%ある北中南米市場において、現状の売上比率15%を独自事業で高めていく。当面、製造・販売、部品の販売サービスネットワーク整備・レンタル事業拡大等に約300億円を投資する。

 20日午前、緊急に開いた電話会見で平野耕太郎社長は「北米市場を自社で展開するのは長年の夢だった」と述べた。

 会見登壇者:執行役社長兼CEO 平野 耕太郎(画像・右) / 執行役副社長兼CMO 落合 泰志(画像・左)

 説明資料今後の北中南米事業戦略について

――今回のディア社との提携解消の経緯と今後については。

 平野社長:今回の提携の解消と新OEM契約の中身については説明資料の通り。我々とディア社との提携、合弁事業を解消し、日立建機の持ち分をディア社に譲渡することを決定した。いままで2つのブランドを扱っていたが、それぞれのブランドを分けていく一方、引き続き、ディア社に対して、ミニショベルから80トンクラスの大型ショベルまでの製品とコンポーネントを引き続き供給していく。

 中期計画で説明しているように建設機械の市場環境が大きく変化してきている。たんに製品だけでなくサービスやレンタル、中古車等々について、AIなどを使って顧客ニーズに対応している。その戦略が、北中南米市場ではできていなかった。来年3月からは、北中南米も合わせてグローバルに展開していこうというものだ。

 具体的には、北中南米での代理店網をさらに強化していく。マイニングも買収した2社が既にサービス網など拠点をもっており、ここから顧客へのアクセスを強化していく。

 ディア社とは1983年からOEM輸出、88年には北米に合弁の製造会社を設立、2001年からはマネジメントの一本化をはかり、ディアモデルと日立モデルの両方を販売・サービスしていく関係となり、油圧ショベルの開発・製造を日立建機が、北中南米におけるマーケティングをディア社が受け持つことになった。

 今回の提携解消は、市場の大きな変化にどう対応していくかを議論している中、ディア社と話し合った結果、昨夜サインするに至った。2022年3月からは日立建機独自で販売・サービス活動を展開していく。

 北中南米の市場は、全世界で約40%だが、日立建機の売上比率は約15%しかない。マイニングも世界市場の約30%を占めるが、日立建機の売上は約13%しかなく、南米は数%しかない。これは自社でバリューチェーン事業を展開できず、マイニングは中南米の事業規模が特に小さい。特に、南米市場をなんとかしなければならない。

 日立建機としては、ディア社とこういう結論になった訳だが、独自で展開するのは非常に難しいことと認識している。できるだけ早く実現するため、北中南米にある買収した2社(Bradken社、H-E Parts社)のサービス拠点や、ホイールローダを扱っている旧KCCM(旧・川崎重工の北米工場)を買収して活用してきた代理店網の構築も進めてきた。また昨年、ABB社とトロリー式ダンプトラックを南米に販売していこうとしていたが、今後は、この展開をさらに加速していく。

 まずはミニから中大型ショベルの建設機械、新しい油圧システム・ConSite®を搭載した最新式ショベルを来春から販売していく。マイニングは高いシェアを持つショベルと、最新ダンプトラックをセットで北中南米全域に拡販する。Bradken、H-E Parts、Wencoなどグループの拠点を活用し、高品質なサービスを提供していく。

――提携解消後の北米ディーラーの反応は。

 落合副社長:8月19日午後10時(日本時間)、日立ブランドの機械を扱っている北米8社の代表者とコンタクトし、丁寧に説明させていただいたが、各社とも好意的な反応を示された。特筆すべきは、そのうち1社はすでにウエブサイトにおいて、来年から日立建機の製品をフルラインで扱うと表明された。南米については、基本的にマイニング関係となるが、代表者から好意的なメールをいただいた。日立建機が想定した以上に、好意的な返答をいただき、滑り出しは上々というところ。

 現在、北米には日立ブランドの代理店8社、ホイールローダの代理店60社(約350店)があるが、ホイールローダの代理店が、どれくらい日立製品を扱っていただけるかが勝負。非常に好意的だが、日立製品に変更するには、1社1社丁寧に話していきたい。20年ほどマーケティングを離れているが、この間、ホイールローダで4年ほど行っているので、今後ディーラーとどうしていくかを決めていく。

 北米において、日立のショベルは、中古車のリセールバリューは非常に高い水準を維持している。おそらく、ホイールローダの代理店の中でも、日立のショベルを扱う代理店も一定数現れるだろうと見ている。

――将来的に米国で現地生産していくことについては。

 平野社長:すでに現地生産を考えている。アトランタに拠点があり、ホイールローダの一部を最終の完成品にしている。そこを活用するのか、他の場所にするか。フル生産するかノックダウンにするか、早急に検討していく。それより部品サービス等を先に進める。今後、生産するにせよ、ノックダウンにするかどうか、コンポーネントなども含めグローバルで分担を決めて検討していく。

――建設機械の市場環境の変化については。

 平野社長:ディア社と日立建機は80年代から長い歴史を経てきた。市場環境は、かつては製品中心だった。円高、貿易摩擦の時代、日立建機にとって北米で販売網を持つことは、非常に意味があった。しかし、時間の経過の中、製品だけでなくなってきた。

 油圧ショベルは日立建機、その他の建機はディアが独自で開発してきたが、統一的な考えが一つにできなくなった。例えば、同じオレンジ色のホイールローダにしても、一部のソフトが付いていたり付かなかったりコンセプトが少し違う。顧客にとって一番満足いくものを提供するということが、こういう結果となった。

――提携解消で、譲渡する資産の額や業績への影響については。

 平野社長:数字の内容については、譲渡金額はあるが簿価もあり在庫もある。6か月内に引き取る行為はあるが、最終的に業績にどう反映するか精査する必要がある。今年度の業績へのマイナスインパクトはない。提携解消の結果、マイナスはないが、事業の方もどうなるかも含めて公表していく。

 まず、ベースとなる米国市場がどうなるかだ。コロナが終息していないが、需要は高い水準にあり、これが来年度も続くとしたら日立の事業も増えるし、ディア社向けのOEMも増える。今のところ、確定的なことは言えないが、売上はプラスになる。ただ、利益については代理店が我々の機械を扱ってくれるかが未知数なので何とも言えない。

――合弁の解消はディア社にとってメリットはあるのか。

 平野社長:ディア社側からもそれぞれの戦略を発展させていこうという話だった。私の推測だが、ディア社も統一的なコンセプトで油圧ショベルを開発したいということではないか。油圧ショベルを日立建機が開発している限り、ディア社はヨーロッパで販売できない。彼ら自身のグローバル戦略において、建機の中で大きな製品を自社で開発して販売する、ということが推測される。

――欧州でフィアットと合弁解消した時と今回の違いは。

 落合副社長:2002年にフィアット社と合弁を解消し、オランダに日立建機ヨーロッパを立ち上げたが、一時的にシェアを落とした。これはドイツとフランスの大市場をフィアットが自ら販売サービスを行っていたためで、日立は販売・サービス網がなかったためだ。今となっては、合弁時代以上にシェアも増やしてきた。

 今回、20年間ディア社が行っていたが、その前は日立建機が販売していた。現在の8社も元は日立建機の代理店だった。まったく、何もないところからのスタートではないこと。また、この間ホイールローダで付き合ってきた代理店もあるので従来とは異なる。

――日立製作所と資本関係の話が進みやすくなったのではないか。

 平野社長:日立製作所との資本関係と今回の米州の事は直接関係はない。最終的には日立製作所が決めること。製作所側は、以前からグループ会社の成長戦略を要請している。今回の米州戦略は、まさにこれが製作所の求めること。日立建機の成長戦略を後押しすることになるのではないだろうか。

 報道・アナリスト合同の電話会見から発言要旨を抜粋