川崎重工業が5月11日に発表した2021年3月期(2020年度)連結業績によると、受注高は前期比1,110億円減少(7.3%減)の1兆4,024億円、連結売上高は前期比1,528億円減収(9.3%減)の1兆4,884億円、営業損益は前期比673億円減益の53億円の損失、経常損益は前期比432億円減益の28億円の損失、親会社株主に帰属する2020年度純損益は前期比379億円減益の193億円の損失となった。また、ROIC※は△1.0%、ROEは△4.2%となった。
※ROIC = EBIT(税引前利益 + 支払利息) ÷ 投下資本(有利子負債 + 自己資本)
なお、川崎重工は、従来決算日が12月31日であった連結子会社6社の決算日を3月31日に変更又は連結決算日に仮決算を行う方法に変更している。これにより2020年度は、連結子会社6社の決算対象期間が15ヶ月(2020年1月~2021年3月)の変則決算となった。
■2020年度の経営成績の概況
世界各国で新型コロナウイルスの変異株の感染が拡大しており、感染収束の見通しは依然として不透明な状況が続いている。しかし、先進国を中心としたワクチン接種の進展を背景に、一部で新規感染者の減少が見られるほか、米国や日本において短距離航空路線の需要回復の兆しや、航空貨物需要の伸びも見込まれている。加えて、各国財政・金融政策による景気の下支えや脱炭素社会の実現に向けた取り組みなど、今後の世界経済の回復に向けた明るい兆しも見られる。なお、米中関係は依然改善が見られないことなどから、引き続き世界経済の下振れリスクには十分な注視が必要である。
このような経営環境の中で、2020年度における川崎重工グループの連結受注高は、精密機械・ロボット事業、船舶海洋事業の増加はあったものの、航空宇宙システム事業、車両事業の減少により減少となった。
連結売上高については、精密機械・ロボット事業などが増収となる一方で、航空宇宙システム事業などが減収となったことにより、全体では前期比で減収となった。利益面に関しては、営業損益はモーターサイクル&エンジン事業の改善はあったものの、航空宇宙システム事業での悪化などにより、前期比で悪化となった。
経常損益は、為替差損益の好転や民間航空エンジンの運航上の問題に係る引当金戻入益の計上はあったものの、営業損益の減益により減益となった。親会社株主に帰属する2020年度純損益は、繰延税金資産の計上に伴う税金費用の減少はあったものの、経常損益の減益に加え、固定資産の減損損失の特別損失への計上などにより、減益となった。
■部門別業績
<航空宇宙システム事業>
航空宇宙システム事業を取り巻く経営環境は、防衛省向けについては厳しい防衛予算の中で概ね安定した需要が存在している。民間航空機については、新型コロナウイルスの感染拡大により世界の旅客需要が低迷しており、機体・エンジンともに需要が低下している。
このような経営環境の中で、連結受注高は、防衛省向けは増加したものの、民間航空機向け分担製造品や民間航空エンジン分担製造品が減少したことにより、前期に比べ854億円減少の3,295億円となった。
連結売上高は、防衛省向けや民間航空機向け分担製造品、民間航空エンジン分担製造品が減少したことにより、前期に比べ1,548億円減収の3,777億円となった。営業損益は、減収などにより、前期に比べ744億円悪化して316億円の営業損失となった。
<エネルギー・環境プラント事業>
エネルギー・環境プラント事業を取り巻く経営環境は、国内ではごみ焼却プラント等において老朽化設備の更新需要が継続しているほか、中長期的には国内外の分散型電源需要、及び新興国におけるエネルギーインフラ整備需要が根強い状況にある。一方で、国内外で新型コロナウイルスの感染が収束しておらず、比較的早期のウイルス封じ込めに成功し堅調に推移する中国市場や、感染の沈静化が見えつつある一部の先進国などでは経済に回復の兆しが見られるものの、人の移動に対する制約が依然として大きいことから一部の営業活動・アフターサービス活動への影響が懸念される。
このような経営環境の中で、連結受注高は、国内向けごみ処理施設建設工事などの大口案件の受注があった前期に比べ333億円減少の2,190億円となった。
連結売上高は、国内向けごみ処理施設案件の工事量増加や国内向けガスタービンコンバインドサイクル発電プラントの売上増加はあったものの、海外向け化学プラントの売上があった前期に比べ28億円減収の2,401億円となった。営業利益は、減収に加え、新型コロナウイルス感染拡大の影響による操業差損の発生などにより、前期に比べ41億円減益の134億円となった。
<精密機械・ロボット事業>
精密機械・ロボット事業を取り巻く経営環境は、精密機械分野では、中国建設機械市場が新型コロナウイルス感染拡大の影響からいち早く回復し、過去最高の油圧ショベル販売台数を記録するなど、需要は大きく伸長した。また、中国以外の地域における建設機械市場は、新型コロナウイルス感染拡大の影響による市場の停滞により、一時的に需要が大きく減少したが、足元では回復基調が鮮明となってきた。
ロボット分野では、汎用ロボットは、新型コロナウイルスの感染拡大による影響を受け案件の期ずれがあるものの、中国一般産業機械向けは回復が早く、また半導体向けロボットについても、半導体製造装置メーカーの設備投資の増加により好調に推移しており、中長期的にも需要は着実に拡大していくことが見込まれる。
このような経営環境の中で、連結受注高は、建設機械市場向け油圧機器や半導体向け及び車体組立向けロボットの増加により、前期に比べ405億円増加の2,594億円となった。
連結売上高は、建設機械市場向け油圧機器や半導体向け及び車体組立向けロボットの増加により、前期に比べ234億円増収の2,408億円となった。営業利益は、増収などにより、前期に比べ18億円増益の140億円となった。
<船舶海洋事業>
船舶海洋事業を取り巻く経営環境は、環境規制強化に伴うガス燃料推進船需要が顕在化する一方で、引き続き長期的な世界経済の動向が不透明であることから新規商談案件が限られており、依然として厳しい状況にある。
このような経営環境の中で、連結受注高は、防衛省向け潜水艦の受注などにより、前期に比べ418億円増加の981億円となった。
連結売上高は、防衛省向け潜水艦の工事量増加などにより、前期に比べ77億円増収の794億円となった。営業損益は、増収があったものの、操業差損の発生などにより、前期に比べ24億円悪化して30億円の営業損失となった。
<車両事業>
車両事業を取り巻く経営環境は、新型コロナウイルス感染拡大の影響により国内では鉄道関連投資計画の見直し、海外では工程の遅れや入札の延期・中止等が現実となりつつあるが、中長期的には、人口集中による大都市の混雑緩和や環境対策のための都市交通整備、アジア諸国の経済発展に伴う鉄道インフラニーズなど、今後も世界的に比較的安定した成長が見込まれる。
このような経営環境の中で、連結受注高は、国内向けの大口案件の受注があった前期に比べ487億円減少の770億円となった。
連結売上高は、米国向け車両が減少したことなどにより、前期に比べ33億円減収の1,332億円となった。営業損益は、減収に加え、新型コロナウイルス感染拡大の影響などによる海外案件の採算悪化により、前期に比べ7億円悪化して45億円の営業損失となった。
<モーターサイクル&エンジン事業>
モーターサイクル&エンジン事業を取り巻く経営環境は、コロナウイルスの感染が拡大し市場が大きな影響を受けました。主要市場である米国では四輪等オフロードモデルに対する需要の高まりにより前年度を上回る水準となり、また欧州市場においても、春先の各国のロックダウンにより一時マイナスの影響を受けたものの、その後、前年度並みの水準まで回復している。一方で、東南アジアでは市場は縮小し依然として低迷している。
このような経営環境の中で、連結売上高は、北米向け四輪車等オフロードモデルの増加はあったものの、東南アジア向け二輪車が減少したことや、前期に比べ為替レートが円高で推移したことなどにより、前期に比べ10億円減収の3,366億円となった。営業損益は、固定費や販促費の削減などにより、前期に比べ137億円増益の117億円となった。
<その他事業>
連結売上高は、前期に比べ220億円減収の804億円となった。営業利益は、前期に比べ7億円減益の4億円となった。
川崎重工グループはグループビジョン2030において、注力するフィールドを「安全安心リモート社会」「近未来モビリティ」「エネルギー・環境ソリューション」とし、変化に合わせて、より成長できる事業体制への変革を目指しており、手術支援ロボットの開発や自動PCR検査事業、更には、配送ロボットや無人輸送ヘリコプターの開発、水素関連プロジェクトの推進など、新事業への取り組みを着実に進めている。
■今後の見通し
2022年3月期の連結業績については、連結売上高は、「収益認識に関する会計基準」(企業会計基準第29号2020年3月31日)の適用によって航空宇宙システム事業が減収となるものの、車両事業、モーターサイクル&エンジン事業等での増収が見込まれることから、前期比116億円増(0.8%増)の1兆5,000億円となる見通しである。
利益面では、航空宇宙システム事業において民間航空機の運航時間の回復に伴い民間航空エンジン分担製造品の採算が改善するほか、モーターサイクル&エンジン事業における売上の増加に伴う利益増加等により、連結営業利益300億円、連結経常利益200億円、親会社株主に帰属する2020年度純利益170億円、またROICは2.5%、ROEは3.9%となる見通しである。
連結受注高は前期比776億円増(5.5%増)の1兆4,800億円となる見通しである。
なお業績予想における為替レートは、1ドル=106円、1ユーロ=128円を前提としている。
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