川崎重工、2019年度受注は5%減の1兆5,135億円、売上は3%増の1兆6,413億円

・新型コロナ影響で中計の数値目標は取り下げ

 川崎重工業が5月12日に発表した2020年3月期(2019年度)連結業績によると、受注高は前期比752億円減少(4.7%)の1兆5,135億円、売上高は前期比465億円増収(2.9%)の1兆6,413億円、営業利益は前期比19億円減益(3.1%)の620億円、経常利益は前期比25億円増益(6.9%増)の404億円、親会社株主に帰属する当期純利益は前期比87億円減益(32.1%)の186億円となった。また、ROIC※は4.2%、ROEは4.0%となった。

 ※ROIC = EBIT(税引前利益+ 支払利息) ÷ 投下資本(有利子負債+ 自己資本)

■経営成績の概況

 国内外経済とも、2019年度を通して米中貿易交渉及び英国・EU間の新たな貿易協定の交渉の行方が不透明な状況が続いた。これに加え、2019年末以降、新型コロナウイルスの感染が世界的に拡大し、多くの国で法的強制力を伴う各種措置が講じられた影響により、人・モノの輸送需要が減退しているほか、サプライチェーンの分断等により企業活動がグローバルレベルで大幅に停滞しており、今後の実態経済への悪影響が強く懸念されている。

 このような経営環境の中で、2019年度における川崎重工業グループの受注高は、航空宇宙システム事業、船舶海洋事業を中心に減少となった。売上高については、モーターサイクル&エンジン事業、エネルギー・環境プラント事業などが減収となる一方で、航空宇宙システム事業、車両事業などが増収となったことにより、全体では前期比で増収となった。

 営業利益は航空宇宙システム事業、車両事業の増益はあったものの、モーターサイクル&エンジン事業、精密機械・ロボット事業などが減益となったことにより、全体で減益となった。経常利益は、営業利益の減益があったものの、民間航空エンジンの運航上の問題に係る負担金の減少などにより、増益となった。親会社株主に帰属する当期純利益は、経常利益の増益があったものの、新型コロナウイルス感染拡大の影響を踏まえて繰延税金資産の一部取り崩しを行ったことなどにより、減益となった。

 川崎重工2019年度データ

■事業部門別状況(連結)

<航空宇宙システム事業>

 航空宇宙システム事業を取り巻く経営環境は、防衛省向けについては厳しい防衛予算の中で一定程度の需要が存在している。民間航空機については旅客数の増加に伴って機体・エンジンともに需要が増加していたが、今後は、新型コロナウイルスの感染拡大により機体・エンジンともに需要の低下が見込まれている。

 受注高は、民間航空エンジン分担製造品が増加したものの、防衛省向けや民間航空機向け分担製造品が減少したことにより、前期に比べ166億円減少の4,149億円となった。

 売上高は、防衛省向けや民間航空機向け分担製造品、民間航空エンジン分担製造品が増加したことなどにより、前期に比べ685億円増収の5,325億円。営業利益は、増収などにより、前期に比べ101億円増益の427億円となった。

<エネルギー・環境プラント事業>

 エネルギー・環境プラント事業を取り巻く経営環境は、国内ではごみ焼却プラント等において老朽化設備の更新需要が継続しているほか、中長期的には国内外の分散型電源需要、及び新興国におけるエネルギーインフラ整備需要は根強い状況にある。一方で、新型コロナウイルスの感染拡大による経済活動の停滞や資源価格の不安定化などの影響により、顧客の短期的な設備投資判断が見直される可能性があるなど、今後の不透明感が増している。

 受注高は、国内向けごみ処理施設などの受注があったものの、国内向けLNGタンクや、国内向けコンバインドサイクル発電プラントをはじめとするエネルギー製品の大型案件を受注した前期に比べ111億円減少の2,523億円となった。

 売上高は、海外向け化学プラントの工事量増加はあったものの、エネルギー事業の減収などにより、前期に比べ100億円減収の2,429億円。営業利益は、減収があったものの、海外向け化学プラントでの採算改善などにより、前期に比べ59億円増益の175億円となった。

<精密機械・ロボット事業>

 精密機械・ロボット事業を取り巻く経営環境は、建設機械市場向けでは、国内顧客が令和元年台風第19号の影響で減産となったほか、インド・インドネシアといった新興国及び韓国市場での販売が低迷したものの、全体としては底堅く推移した。今後は新型コロナウイルスの感染拡大による影響が不透明な状況にあるが、中国建機市場はいち早く回復に向かっており、今後の動向を注視している。

 ロボット市場向けでは、中国市場は米中貿易摩擦による一時の厳しい状況から回復しつつある。また新型コロナウイルスの感染拡大による影響が不透明な状況であるが、半導体向けロボットについては、台湾、韓国の大手半導体メーカーの投資再開により回復に転じており、中長期的には需要は着実に拡大していくと見ている。

 受注高は、各種ロボットの増加はあったものの、建設機械市場向け油圧機器の減少により、前期に比べ63億円減少の2,188億円となった。

 売上高は、建設機械市場向け油圧機器の減少により、前期に比べ47億円減収の2,173億円。営業利益は、減収に加え、油圧機器の研究開発費の増加や、中国でのロボット生産台数の減少などにより、前期に比べ91億円減益の122億円となった。

<船舶海洋事業>

 船舶海洋事業を取り巻く経営環境は、環境規制強化に伴うガス燃料推進船需要の顕在化並びにLNG開発プロジェクトの具体化が進む一方で、海運マーケットの長期低迷、韓国政府による造船業支援政策の継続などにより、依然として厳しい状況にある。なお、新型コロナウイルスの感染拡大による直接的な影響については、現段階で既受注船の納期延長やキャンセルの申入れは受けていないものの、商談の遅れによる案件の成約時期の後ろ倒しが懸念される。

 受注高は、LPG運搬船の受注はあったものの、防衛省向け潜水艦を受注した前期に比べ249億円減少の562億円となった。

 売上高は、LNG運搬船及びLPG運搬船の工事量減少などにより、前期に比べ72億円減収の716億円。営業損益は、新造船の減収及び操業差損の発生などにより、前期に比べ17億円悪化して6億円の営業損失となった。

<車両事業>

 車両事業を取り巻く経営環境は、中長期的には、国内については老朽化車両の更新需要が安定的に存在している。海外についても、米国では注力市場であるニューヨーク地区をはじめ新造・更新需要が見込まれており、またアジアでは日本政府によるインフラ輸出促進に伴って新興国向け案件の形成が計画されている。一方で、新型コロナウイルス感染拡大の影響により、今後は国内外の車両案件の納入・受注計画の見直しが見込まれる。

 受注高は、新幹線車両や国内向け地下鉄車両の受注などはあったものの、米国向け車両などを受注した前期に比べ103億円減少の1,257億円となった。

 売上高は、海外向け部品の減少はあったものの、国内向けや米国向け車両が増加したことなどにより、前期に比べ118億円増収の1,365億円。営業損益は、一部案件における新型コロナウイルス感染拡大の影響による翌期への期ずれやコスト変動はあったものの、増収に加え、前期に発生した米国向け案件での一時的費用の減少などにより、前期に比べ99億円改善して38億円の営業損失となった。

<モーターサイクル&エンジン事業>

 モーターサイクル&エンジン事業を取り巻く経営環境は、2020年3月初旬までは、二輪車では主に欧州において市場の緩やかな成長が持続する一方、一部新興国は市場が軟調に推移した。四輪車、パーソナルウォータークラフトでは、主に北米において市場が安定して成長したが、汎用エンジン市場では天候不順や米中貿易摩擦の影響を受け一時的に成長が鈍化した。2020年3月中旬より主要市場である欧米を始め世界各国で新型コロナウイルスの感染が急速に拡大して以降は、外出制限が行われ、販売代理店が営業停止となるなど、市場が大きく落ち込んだ。

 売上高は、新型コロナウイルス感染拡大の影響に加え、前期に比べ対ユーロを始めとして為替レートが円高で推移したことなどにより、前期に比べ190億円減収の3,377億円。営業損益は、減収に加え、タイバーツ高による製造コストの増加や四輪車のリコールの影響などにより、前期に比べ163億円悪化して19億円の営業損失となった。

<その他事業>

 売上高は、前期に比べ72億円増収の1,024億円。営業利益は、前期に比べ12億円減益の12億円となった。

■今後の見通し

 2021年3月期の業績見通しについては、新型コロナウイルス感染症拡大による世界的な経済活動の停滞により、川崎重工も多大な影響を受ける見込み。特に、旅客需要が急減している航空宇宙システム事業や、外出規制及び個人消費低迷の影響を受けるモーターサイクル&エンジン事業で大きな影響を受けると予測され、全社では赤字となる可能性がある。しかし、現段階ではそれぞれの事業で合理的な業績予想の算出が困難であるため、2021年3月期の連結業績予想については公表を見送ることにした。今後業績への影響を慎重に見極め、合理的な予想の開示が可能となった時点で速やかに公表する。なお、2021年3月期の配当についてはかかる経営状況に鑑み未定とした。

(中期経営計画(数値目標)の取り下げ)

 新型コロナウイルスの影響によって各事業を取り巻く環境は大きく変化しており、2021年度を最終年度とする中期経営計画「中計2019」で定めた数値目標の達成は困難な見通し。中計の基本方針として掲げた”自律的事業経営と全社的な企業統治の両立”については継続して取り組んでいくものの、現在の事業環境や市場環境を見据え、2021年度数量目標については取り下げることにした。

 川崎重工業の2020年3月期決算短信

 決算説明資料