IHI、大型舶用低速エンジン向け可変圧縮比機構を開発

 ㈱IHIは10月17日、グループ会社であるディーゼル ユナイテッド(本社:東京都千代田区、以下DU)と共同で、大型舶用低速エンジンの燃費を大幅に改善できる可変圧縮比機構(Variable Compression Ratio system、以下VCR機構)を世界で初めて開発したと発表した。VCR機構を大型舶用低速エンジンに用いることで、エンジン出力や、使用燃料に応じた最適の圧縮比(※1)に調整でき、船舶運航時の燃料費と排ガスの削減に大きく貢献する。さらには船舶用燃料の選択肢拡大にも寄与できる。

 一般にエンジンは、圧縮比が高いほど燃料消費率(燃費)が良くなる。従来のエンジンでは構造上、圧縮比は固定されており、燃費改善は限定的だった。しかし、今回開発したVCR機構は、油圧シリンダをピストン棒下部に組み込み、燃焼室の容積を調整することで、エンジン出力に応じた最適圧縮比へ自由に変更できる。これにより燃費が大幅に改善され、運航条件によっては、年間最大で1億円(※2)程度の燃料費削減が期待できる。

 また、燃料成分が細かく規格化されていない船舶用燃料では、最適な燃焼を得るために、成分に応じた異なる圧縮比が必要となる。VCR機構を採用することで、燃料成分に応じた最適圧縮比でエンジンを運転でき安定した燃焼が得られ、信頼性向上や排気の浄化が可能となる。環境面においても、VCR機構を採用することによる燃費改善に伴い、さらなるCO2の削減(※3)が可能となる。規制が強化されている排気中の窒素酸化物(NOx)の排出率についても、電子制御エンジンの特徴との組み合わせにより、国際規制値をクリアできる。VCR機構が搭載されている大型舶用エンジンを使用することで、いかなる条件においても、エンジン出力に最適化した燃費の良い安定した運転が可能となり、航行計画の自由度も大幅に拡大する。

 従来から圧縮比を可変とすることによる効果は周知されていたが、複雑な構造による様々な制約のため、技術的に開発が困難でした。IHIグループは1948年から、大型舶用低速エンジンの製造に携わっており、今まで培ってきた豊富な経験と、多岐にわたる産業分野で蓄積された最新の油圧、シール、潤滑、構造強度、制御などの卓越した技術を十分に応用し、様々な要素試験の積み重ねにより、このほどVCR機構の開発に成功した。IHIとDUは、DU相生工場で実機同様の国内最大級の大型舶用低速の試験専用エンジンに、VCR機構を搭載して実証試験にも成功した。

 IHIとDUは、DUが製造する大型舶用低速エンジンのライセンサであるウィンターツール ガス&ディーゼル社(所在地:スイス)と共同で、このVCR機構を搭載した舶用エンジンの商用化に向けた共同開発を既に進めており、早期の製品化を目指している。

(※1) ピストンにより圧縮されるシリンダ内の容積比のこと。

(※2) 大型コンテナ船の場合、42、750kW出力のエンジン使用を前提に、船速を約20%減速しようとすると、エンジン出力は約50%まで低減される。この船速にてVCR機構による最適圧縮比を設定することにより、年間7、000時間の運行ケース試算では、年間最大で1億円程度の燃料費削減が期待できる。

(※3) 東京ドーム4個分相当の、年間約8、800トンを削減することができる。一般世帯に換算すると、年間CO2排出量の1、600世帯分相当。

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