・位置決め時間も短縮
・物理モデルとベイズ最適化の融合で熟練技術者不足に対応
三菱電機と産業技術総合研究所(産総研)は3月24日、FA向けサーボシステムのパラメーター調整に要する実機動作回数を従来比90%削減するAI技術を開発したと発表した。FA業界では初となる、物理モデルをベイズ最適化に活用する手法で、生産現場の生産性向上に大きく貢献するものとして注目される。
■背景――熟練技術者不足が生産準備の壁に
市場ニーズの多様化や製品の高性能化に伴い、製造業における生産工程は年々複雑化している。電子部品実装機や半導体製造装置などを駆動するサーボシステムは、高速・高精度な動作のために多数の制御パラメーターを最適化する必要があり、従来は8種類・720個ものパラメーターをベイズ最適化によって調整していた。この作業は熟練技術者でも多くの時間を要するうえ、少子高齢化による労働人口の減少でその担い手確保も困難になっている。
■技術の核心――物理モデルで「良否の分離」を実現
従来のベイズ最適化では、機械学習モデル単独でパラメーターの評価値を予測するため、実機動作から大量のデータを収集する必要があった。さらにパラメーターの値とその良否の関係が複雑で、判別が難しいという課題もあった。
今回開発した技術では、サーボシステムから取得した産業機械の物理モデルの予測結果を「特徴量」としてベイズ最適化に組み込むことで、良好なパラメーターと不良なパラメーターを比較的容易に分離することに成功した。機械学習モデルは特徴量の相対的な良否のみを参照するため、物理モデルに予測誤差があっても判定精度への影響が小さく、信頼性の高い手法となっている。
この技術は、三菱電機のAI技術ブランド「Maisart®」の中でも、物理空間での信頼性・安全性を重視した「Neuro-Physical AI®」の開発成果に位置づけられる。
■成果――調整回数90%減、位置決め時間は平均20%短縮
実証では、パラメーター調整のための実機動作回数を90%削減(2019年発表の従来ベイズ最適化技術との比較)。また、最適化されたパラメーターにより産業機械の性能を最大限に発揮できるようになった結果、モーター等の動作開始から目標位置到達までの「位置決め時間」を社内技術者による手動調整と比較して平均20%短縮した。位置決め後の振動も許容範囲内に収まることが確認されている。
生産準備時間の短縮とタクトタイムの削減を同時に実現することで、生産現場全体の生産性向上に直結する技術として期待が高まる。
■開発体制と今後の展開
本技術は、三菱電機と産総研が2017年度から推進しているAI共同開発の一環として生まれた。役割分担として、三菱電機がサーボシステムへのAI実装・改良を担い、産総研がAIを活用した最適化・データ分析技術を提供した。
今後は「Maisart®」の一技術として、電子部品実装機など高速・高精度な位置決めが求められるハイエンド向けサーボシステムへの展開を進め、2028年の製品化を目指す。