・設計支援システムとAIエージェントを融合
荏原製作所は3月16日、製造現場に蓄積された「暗黙知」をAIで形式知化し継承・進化させる「知識駆動型DXプロジェクト」を本格始動したと発表した。独自開発の設計開発支援システム「EBARA開発ナビ」と自律分散型AIエージェント基盤「Ebara Brain」を融合し、知識を中核とした次世代のものづくり知識基盤の構築を目指す。AIエージェントが知識の集約・深化・交換を担うシステムの実用化は日本初としている。
同社は1912年の創業以来、ポンプなどの産業機械を中心に水・エネルギー・半導体・環境分野の社会インフラを支えてきた。一方、製造業では労働力人口の減少や熟達技術者の退職に伴う技能継承の問題が深刻化しており、現場の暗黙知の消失が課題となっている。こうした状況を踏まえ、同社は知識そのものを競争力の源泉とする「Knowledge-Driven DX(知識駆動型DX)」の実現に向けた取り組みとして本プロジェクトを立ち上げた。
プロジェクトの技術基盤には、東京大学の梅田靖教授が提唱する「デジタルトリプレット(D3)」の概念を採用する。従来のデジタルツインが「物理空間」と「デジタル空間」の2層構造であるのに対し、D3は「知識空間」を加えた3層構造で、熟練技術者のノウハウや現場知見をAIが推論可能な知識として扱うことができる。これにより、人とAIが協働する人間中心のDXを実現する。
本プロジェクトでは、2つの主要システムを開発した。
一つは設計開発支援システム「EBARA開発ナビ」で、設計・開発の思考プロセスを構造化し、暗黙知を含む知識を段階的に可視化する。設計プロセスを大・中・小の工程とタスクレベルまで整理し、入力諸元から出力諸元を導く根拠や論理、注意点などを体系的に記述することで、開発の手戻り削減と技術知識の蓄積・共有を促進する。
もう一つは自律分散型AIエージェント基盤「Ebara Brain」で、社内GPUクラスタ上で稼働するオンプレミス型の知識推論基盤。形式知化エージェント、ヒアリングエージェント、エキスパートエージェント、パーソナルエージェントなど複数のAIエージェントが相互に連携し、現場データや人との対話を通じて知識の生成・精緻化を行う。
マンションや商業施設向けの給水設備「給水ユニット」を対象とした概念実証(PoC)では、人が整理した設計プロセスの約85%をAIが生成することに成功。さらに設計諸元間の関係性予測では生成AIにより約83%の精度を達成した。AIと技術者が協働することで、属人的なノウハウを組織全体の知的資産へ転換できる可能性を示したとしている。
同プロジェクトは2028年までの4段階で展開を予定。設計・開発領域を起点に知識基盤の適用範囲を拡大し、全社的な知識循環の仕組み構築を目指す。
荏原製作所の後藤彰技監は「100年以上にわたり現場で積み上げてきた知を次の100年へ受け渡す取り組み。人とAIの共創により、製造業の暗黙知を組織の知的資産として活用し持続的成長につなげる」とコメント。プロジェクトマネージャーの王宇坤氏は「AIツール導入にとどまらず、荏原の知識基盤そのものを再構築し、人とAIが共に進化する新たな知識経済圏の創出を目指す」としている。
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