【余談】米通商政策/最高裁判断の直後に「代替関税」発動、機械産業は再び政策リスクの渦中へ

米連邦最高裁がトランプ政権による相互関税を「大統領権限の逸脱」と判断したことで、世界の通商環境は一時的に正常化へ向かうかに見えた。しかし現実は逆だった。関税徴収停止のわずか1分後、トランプ大統領は1974年通商法122条を根拠とする「代替関税」を発動。法的根拠を切り替えた“第2幕”が始まった。税率は当初10%とされたが、その後15%への引き上げ意向が示唆されている。もっとも、最終税率も発動の詳細時期も未確定である。しかも措置は150日間の時限措置。この「未確定」と「時限」が、機械産業にとって最大のリスクとなっている。個別業界・企業の関税対応は、それぞれの情報に委ねるとして、当サイトの【余談】として、最近の関税に関する様相を探ってみた。

■ 日本 ―― 協調維持と不利回避の両立

赤澤経産相はラトニック商務長官との電話会談(日本時間23日午後10時30分)で、日本が昨年の日米合意より不利な扱いとならないよう申し入れた。同時に、先端技術や重要鉱物、エネルギー分野を含む「戦略的投資イニシアティブ」の推進で連携を確認している。

日本の立場は明確である。対立は避ける。しかし通商面での実害は抑える。経済安全保障分野で協力を深めつつ、関税面では実務的にリスクを減らす。いわば“静かな調整外交”である。ただし、自動車、建設機械など米国売上比率の高い分野にとって、仮に15%が適用されれば影響は軽くない。日本企業にとっては、外交と同時に実務レベルでの供給網再設計が急務となる。

■ ドイツ ―― 法的安定性を歓迎、しかし警戒継続

ドイツ機械工業連盟(VDMA)は2月20日、最高裁判断を「ルールに基づく貿易への重要なシグナル」と評価した。一方で、トランプ大統領が代替的法的根拠を複数持つ点を指摘し、EUに対する15%関税再導入の可能性に強い懸念を示している。

欧州機械メーカーにとって米国は最大級の輸出市場である。司法判断が出ても、政策が変わらなければ企業の不安は消えない。ドイツ側の反応は、今回の本質を突いている。問題は税率そのものではなく、政策の継続性である。

■ 機械産業への実務的影響

15%という水準は、大型機械にとっては致命的になり得る。建設機械や産業機械は1台数千万円から数億円規模。吸収すれば利益率が急低下し、転嫁すれば需要が鈍る。さらに部品段階と完成機段階で課税されれば二重負担となる可能性もある。

影響は米国外メーカーだけにとどまらない。キャタピラー、ディアなど米国内メーカーも鋼材、油圧部品、電子制御装置を欧州・日本・アジアから調達している。輸入部材コストの上昇は原価増に直結する。今回の措置は「保護策」であると同時に、米機械産業全体のコスト押し上げ要因でもある。

■ 150日という難題

法的上限である150日という期間は、生産移管を決断するには短すぎる。しかし何もしないには長すぎる。結果として企業は在庫積み増しや一時的なコスト吸収で凌ぐしかない。

駆け込み輸出、物流逼迫、発動後の反動減。短期的な市場の歪みは避けられない。さらに150日後に延長されるのか、撤回されるのか、それとも別の高率関税へ移行するのかも不透明だ。この状態では価格政策も設備投資計画も定めにくい。

■ 設備投資マインドへの波及

通商政策の不透明化は設備投資マインドを冷やす。特に影響を受けやすいのが工作機械、産業用ロボット、FA機器である。顧客企業が投資を先送りすれば、受注は即座に鈍化する。機械産業は通商リスクと投資循環リスクが同時に作用する構造にある。

■ サプライチェーン再編は加速するか

中長期的には、関税耐性を高める動きが進む可能性が高い。メキシコや東南アジアへの生産移管、米国内組立強化、現地調達比率引き上げ。しかし鋳物や基幹油圧部品などは簡単に移せない。結果として企業の固定費と投資負担は増大する。世界の機械産業は、静かにブロック化へ向かう可能性がある。

■ 問われるのは「関税率」より「予測可能性」

今回の最大の問題は、15%という数字ではない。税率が確定していないこと、発動条件が揺らいでいること、150日後が読めないことである。機械産業は長期受注・長期投資を前提とする産業だ。最も嫌うのは高税率ではなく、予測不能性である。最高裁の違憲判断で幕は下りなかった。むしろ新たな局面が始まった。日本は協調を模索し、ドイツは法的安定性を訴え、企業は実務で耐性を高める。世界の機械産業は今、関税率の議論ではなく、「政策の継続性」という経営リスクと向き合っている。

以上