日立建機、マイニング事業を加速、2030年度に売上6,000億円超へ

・フル電動ダンプは2027年製品化、ハイブリッドは2030年実用化

日立建機は2月19日、「マイニング製品開発責任者ミーティング」を開催し、持続可能な鉱山運営を支える製品・ソリューションの開発戦略を公表した。執行役マイニングビジネスユニット副ビジネスユニット長の兼澤 寛氏が「脱炭素と生産性を中心に、実証データと市場戦略に基づき」説明した。脱炭素化需要を取り込みながら、2030年度に売上収益6,000億円以上を目指す方針を明確にした。

■事業環境:ダンプトラックの脱炭素化が最重要課題

鉱山業界では、A社・B社・F社・D社など大手各社が2050年までにCO2排出量の「ネット・ゼロ」を掲げ、中期目標として2030年前後に30〜33%削減を宣言している。同社の分析によると、鉱山全体のCO2排出量のうち運搬工程が約40%を占め、ダンプトラック1台あたりの年間CO2排出量は約3,000トンに達する。マイニングショベル1台に対してダンプトラックは数台〜十数台が稼働することから、「ダンプトラックの脱炭素化こそが業界全体のCO2削減に直結する」と同社は位置づける。

電動化に向けた技術アプローチは多様化しており、水素燃料エンジンや燃料電池など選択肢が広がっているが、兼澤氏は「ACドライブシステムの車体をベースに、様々な動力源に対応できる製品開発を着実に進める」と述べ、当面はバッテリーによるフル電動方式とディーゼルハイブリッド方式に照準を絞る方針を示した。

こうした環境変化に対し、日立建機は「フル電動ダンプトラック」「ハイブリッドダンプトラック」「デジタルソリューション」の三本柱で対応する。コスト低減・環境負荷低減・生産性向上という顧客課題の複雑なバランスに対して、デジタルとイノベーションで解を提供していく構えだ。

■数値目標:現状比約45%増、2030年度6,000億円超を照準

売上収益の実績は直近年度(2024年度)で約4,172億円。マイニング事業が全社売上収益に占める比率は24〜32%の水準で推移してきた。2030年度には6,000億円以上を目標として掲げており、現状比で約44%の増収を目指す計算になる。

成長の柱は「米州市場の開拓」と「ダンプトラックの拡販」の二点だ。マイニングショベルは累積市場シェア約3割と高水準を維持する一方、ダンプトラックは参入以来約1割程度にとどまっており、成長余地が大きいこの領域での脱炭素需要の取り込みを最大の成長ドライバーと位置づけている。

■フル電動ダンプトラック(2027年度製品化目標)

ダンプトラックの電動化で各社が直面する課題は主に3つある。①バッテリー重量による積載量の低下、②充電停車による稼働率の低下、③電力使用量の変動幅増加に伴う大容量充電インフラの必要性、である。

同社はこれを「走行しながら充電するトロリー給電方式」で解決するコンセプトを採用した。バッテリー搭載量を最小限に抑えることで車体コストと重量増を抑制しながら積載量を確保し、停車不要で高稼働率を実現する。また、架線下を通過するダンプトラックに順次充電することで電力使用量の変動幅を小さく抑えられる点も特長だ。

重電大手ABBとの協業のもと、長寿命・高安全性のチタン酸リチウムバッテリーを採用し、2021年のMoU締結から共同開発・実証試験を経て、2027年度中の製品化を目指す。

スピード開発を可能にした要因として兼澤氏は、①当社ACドライブ駆動技術の活用、②鉄道など電動領域で実績を持つABBとの協業、③長寿命・高安全性バッテリーの採用、④トロリーダンプ運用実績が豊富なファースト・クォンタム社(First Quantum Minerals Ltd.)とのパートナーシップ、の4点を挙げた。

実証試験はザンビア共和国カンサンシ銅鉱山(ファースト・クォンタム社)にて2024年6月から2025年8月にかけて世界初の顧客現場での実施に成功した。同鉱山はトロリー架線設備が既設で、ザンビアの電源に占める再生可能エネルギー比率が92%という条件のもと、CO2排出量ゼロを達成したほか、総走行距離4,143km・総運搬量3万トン以上を記録。加速性能と静音性の向上も確認された。

実証試験では走行ルートに応じた充電率シミュレーション技術も確立した。シミュレーション値と実測値の誤差はプラスマイナス2%以内に収まり、鉱山ごとに最適な運用計画と架線設計の提案が可能となった。電気代が安価なザンビア(0.036USD/kWh)では、10年間の運用コストがディーゼル式比で50%以上削減できる見通しも示された。

現在は2027年度の製品化に向けたブラッシュアップを進めている。充電効率向上と架線下走行速度の改善(生産性)、バッテリーのリース・再利用モデル導入によるコスト低減(経済性)、定置充電式への対応追加(柔軟性)、配車管理とエネルギーマネジメントの連携(運用最適化)の4点が主な改良項目だ。

ターゲット市場は、トロリー式が多く稼働するアフリカ・中南米・中央アジアおよびカナダなど、電力供給インフラが充実し再生可能エネルギーが豊富な地域としている。

■ハイブリッドダンプトラック(2030年度実用化目標)

フル電動化が難しい地域向けには、既存のEH4000AC-3にバッテリー・充放電制御器を後付け(レトロフィット)するハイブリッド方式を展開する。ディーゼルエンジンで発電した電力に加え、下り坂の回生ブレーキで得たエネルギーをバッテリーに蓄えて有効活用することで、燃料消費量とCO2排出量を共に10%以上削減する。新規インフラ投資が不要なため顧客の導入障壁が低く、フル電動ダンプトラックに次ぐCO2排出量低減のキーアイテムと位置づけている。また、ネット・ゼロエミッションへの移行期間における橋渡しとなるブリッジング技術としても有効と兼澤氏は強調した。

開発は日立グループとのオープンイノベーションで推進し、鉱山ごとの走行パターンやバッテリー状態に合わせたシステムの最適化を実現する。2025年11月に設計を開始し、2027年10月に南アフリカの鉱山で実証試験を開始、2030年の実用化を目指す。本実証事業はUNIDO(国際連合工業開発機関)の「グローバルサウス諸国への技術移転を通じた産業協力プログラム」に採択されている。

ターゲット市場は電気代が高いオーストラリア・米国など。同地域では10年間の運用コストをディーゼル式比10%以上削減できると試算している。

■デジタルソリューション

リアルタイムデータ分析プラットフォーム「LANDCROS Connect Insight」は、従来の「Consite Mine」が1日1回のデータ取得にとどまっていたのに対し、ほぼリアルタイムで稼働データを取得・分析し、改善提案をコンサルティングとして提供する点が特徴だ。走行ルート・車両別の燃料過大箇所の特定、パラメーターチューニングによる最適機械仕様の提案、待ち時間削減のための運行管理最適化の3つのアプローチで燃料消費量・CO2排出量の低減に直接貢献する。

さらに2025年11月にカナダのリズミックソリューション (Rithmik Solutions)へ出資し、AIを活用したアセットヘルス管理の高度化を進めている。現在は車体ごとの異常検知が可能だが、今後はAIが車体ごとの健全性を機械学習し、個々の車体基準値による状態診断を実現する。将来的にはパフォーマンス低下要因をAIが文章で自動生成する機能の実装も目指している。

■中長期ロードマップ 「Zero Emission・Zero Downtime・Zero Entry」

同社の中長期ビジョンは「鉱山機械のサポート中心から鉱山運営全体の最適化へ」の転換を掲げる。M&Aによってウェンコ(Wenco)社・BRADKEN (ブラッドケン)パーツ社をグループに迎え入れたことで、採掘から選鉱に至るマイニングオペレーション全域の多様なタッチポイントを拡大してきた。

今後はLANDCROS Connect Insightを基盤に、鉱山全体のアセット管理、温室効果ガス排出量の見える化、自動化システムの拡張、運行管理システムの充実など、鉱山運営の最適化に向けたソリューション提供を強化する。
自動化については現在Phase2(長距離遠隔+部分自動)にあり、Phase3(自動化拡大+AHS連携)、Phase4(掘削積込オペレーションの完全自動化)へと段階的に進化させる計画だ。「Zero Emission(GHG実質ゼロ)」「Zero Downtime(ダウンタイムゼロ)」「Zero Entry(入鉱者ゼロ)」の三つのゼロを将来の事業目標として位置づけ、電動化・自動化・デジタル化を三位一体で推進することで、鉱山全工程での付加価値提供を目指していく。​​​​​​​​​​​​​​​​

マイニング事業説明会資料