・過去最高益へ順調な進捗
川崎重工業は2月9日、2026年3月期第3四半期(25年4〜12月期)の決算を発表した。売上収益は前年同期比1,540億円増の1兆5,614億円、事業利益は同33億円増の824億円となり、受注・売上・利益の全てで第3四半期として過去最高を記録した。通期予想に対する進捗率は57%(前年度55%)と順調に推移している。通期業績予想は、事業利益1,450億円(過去最高)を据え置いた一方、為替差益の実現により親会社所有者帰属利益を80億円上方修正し900億円(過去最高見込み)とした。米ドルに対する為替前提レートは1ドル145円を維持している。
■セグメント別動向:明暗が分かれる事業環境
航空宇宙システムは売上収益3,888億円(前年同期比343億円増)、事業利益307億円(同13億円増)となった。防衛省向けやボーイング向けが増加し増収増益を達成。民間機向けの航空旅客需要は回復から成長フェーズへ移行しており、機体・エンジンともに需要が増加している。防衛省の抜本的な防衛力強化方針のもと、防衛予算のGDP比2%達成前倒しなど、今後の更なる需要増と採算性改善が期待される。
車両事業は、ニューヨーク市交通局向け新型地下鉄電車の受注などにより受注高が2,446億円増加の2,857億円。売上収益は1,767億円(同340億円増)、事業利益67億円(同25億円増)となった。12月には同交通局からR268型地下鉄電車378両(約2,250億円)を受注。完納後は同交通局保有車両の約56%が川崎製となる見込み。
エネルギーソリューション&マリン(ES&M)は各分野で好調が継続。売上収益2,992億円(同382億円増)、事業利益393億円(同142億円増)と大幅な増収増益を達成した。エネルギー事業や船舶海洋事業の採算性改善が顕著で、通期予想も35億円上方修正し615億円とした。脱炭素社会実現に向け、世界最大級40,000㎥型液化水素運搬船の造船契約を1月に締結するなど、新たな事業機会を獲得している。
精密機械・ロボットは、中国建設機械市場向け油圧機器の増加などにより売上収益1,825億円(同136億円増)、事業利益91億円(同58億円増)となった。中国市場は不動産不況の長期化で低迷していたものの、輸出機を中心に回復が本格化。特に鉱山用大型機やアフリカ・東南アジア向け輸出機の注文が増加している。
一方、パワースポーツ&エンジン(PS&E)は米国関税政策の影響を大きく受けた。売上収益は4,522億円(同349億円増)と増収を達成したものの、関税コストの上昇(約94億円)に加え、米国パワースポーツ市場における競争環境激化を背景とした採算性の低下、増産投資に伴う固定費増加などにより、事業利益は63億円(同224億円減)と大幅減益となった。通期予想も95億円下方修正し205億円とした。
■地域別状況:北米・アジアで販売拡大
地域別売上収益では、日本が6,055億円(構成比38.8%)、米国5,143億円(同32.9%)、アジア2,107億円(同13.5%)となった。前年同期比では米国が673億円増、アジアが168億円増と海外市場での売上が拡大している。
北米市場では、航空宇宙システムのボーイング向けや車両事業の地下鉄電車、PS&Eの四輪車などが牽引。アジア市場では精密機械・ロボットの油圧機器、ES&Mの船舶海洋事業などが好調に推移した。
■経営の重点施策:技術革新と事業基盤強化を推進
各事業セグメントで独自の成長戦略を展開している。
航空宇宙システムでは、旺盛な需要に対応するサプライチェーンおよび増産体制の再整備を進める。防衛力強化に向けた7つの重視分野への取り組みを推進し、NEDOグリーンイノベーション基金を活用した脱炭素技術開発にも注力。風力発電ブレード前縁補修分野で英国BladeRobots社と戦略的パートナーシップを締結するなど、新たな事業領域の開拓も進めている。
車両事業では、地域鉄道向けに電気式気動車「GreenDEC」を開発。一般的な電車との部品共通化により保守管理性を向上させるとともに、水素対応を見据えた構造を採用。車両導入から状態監視・運用支援・部品供給に至る鉄道のライフサイクル全体をサポートする体制を構築し、アフターセールス伸長戦略を推進している。
ES&Mでは、神戸工場内に低濃度CO₂分離回収技術の実証設備を完成させた。工場の自家発電設備など多様な排出源への展開が期待される。また、博多と壱岐・対馬を結ぶ超高速旅客船「川崎ジェットフォイル」を8年ぶりに受注し、持続可能な社会インフラへの貢献を強化している。
精密機械・ロボットでは、建機向け新製品開発や水素関連事業・防衛事業の強化を推進。ロボット分野では、2025国際ロボット展に「フィジカルAI」を実装した看護師補助ロボット「Nurabot」、4脚型オフロードモビリティ「CORLEO」、ヒューマノイドロボット「RHP Kaleido 9」などを出展し、次世代ロボットの事業化加速を図っている。台湾の鴻海科技グループ(FOXCONN)との協業も進め、ソーシャルロボット分野での競争力強化を目指す。
PS&Eでは、伊藤忠商事グループとの協業を推進。4月に米国でユーザー向けファイナンス会社を合弁設立し、12月現在35州で事業を開始。2026年度早期の全米展開を目指している。また、アジア・中南米・中近東・アフリカ等の新興市場における新規市場開拓を共同で推進中だ。
■今後の見通し:外部環境の変化に機動的に対応
2025年度通期業績予想は、売上収益2兆3,400億円(前期比9.9%増)、事業利益1,450億円(同1.3%ぞ、利益率6.2%)、親会社所有者帰属利益900億円(同2.3%増)を見込む。事業ごとに強弱はあるものの、全体としては概ね想定線で推移している。
米国関税政策によるコスト上昇(約183億円)や米国パワースポーツ市場における競争環境激化などの逆風がある中、価格適正化や固定費の低減、円安効果などでカバーする方針。
同社は、航空宇宙からロボット、水素エネルギーまで幅広い事業ポートフォリオを持つ総合重工業メーカーとして、技術革新と事業基盤強化を両輪に、持続的な成長を目指している。特に、カーボンニュートラル社会実現に向けた液化水素サプライチェーン構築や、AIを活用した次世代ロボットの事業化など、新たな成長領域への積極的な投資が注目される。
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