・自由断面掘削機とコンクリート吹付機を150m離れた遠隔操作室から制御
・建設業の人手不足解消と安全性向上へ新たな一手
竹中土木(東京都江東区)は2月4日、国土交通省東北地方整備局発注の「国道121号湯野上2号トンネル工事」(福島県下郷町)において、山岳トンネル工事で使用する重機の遠隔操作に成功したと発表した。今回、遠隔操作を実現したのは、機械掘削時に使用する自由断面掘削機(ブーム・ヘッダー)とコンクリートの吹付作業に使用するエレクター付コンクリート吹付機の2機種。トンネル切羽(掘削の最先端)から約150メートル離れた遠隔操作室からの制御を可能にした。
■深刻化する建設業の人手不足に対応
建設業は1997年をピークに就業者数が減少し、技能者不足が深刻化している。こうした状況を受け、国土交通省は2024年に「i-Construction2.0」を策定。労働者の減少や熟練技術者の不足に対し、自動施工技術の普及・促進による省人化や安全性の向上を求めている。竹中土木は今回、ICT・AI・ロボット技術を活用した生産性向上を推進するため、山岳トンネルで使用する重機の遠隔化の取り組みを開始した。
■自由断面掘削機の遠隔操作システム
自由断面掘削機による掘削作業は、従来ブレーカでの掘削作業と並行して行われるため、粉塵・高騒音下での過酷な作業環境となっていた。今回開発したシステムでは、トンネル切羽から後方約150メートル離れた遠隔操作室から、粉塵・高騒音の影響を受けずに掘削作業を実施できる。
重機には広角マルチカメラを搭載し、俯瞰カメラ映像と合わせてリアルタイムで伝送。映像・操作信号の超低遅延伝送を実現している。また、電子制御の導入により、操作者は実車と同様の操作パネルで掘削作業が可能で、操作上の違和感を軽減した設計となっている。
■コンクリート吹付機の遠隔操作で安全性向上
コンクリート吹付作業は、一般社団法人日本建設業連合会が2022年5月に策定した「トンネル切羽範囲内立入作業における安全対策指針」において、真に必要な場合を除き「いかなる作業においても一次吹付未施工区間の素掘り面直下は絶対に立ち入ってはならない」と明記されている。同指針では「吹付けロボットの遠隔操作を導入することを推奨」しており、トンネル作業での重機の遠隔化技術の需要が高まっている。
従来の吹付作業では、操作者が掘削直後のトンネル切羽直近で吹付機を操作していた。作業時は、落石や吹付けコンクリートの跳ね返り(リバウンド)の危険があるとともに、高騒音で粉塵も多い中、1~2時間程度の立ちっぱなしの作業となり、極めて過酷な作業環境だった。
新システムでは、トンネル切羽から後方約150メートル離れた遠隔操作室内の安全な環境からコンクリート吹付機の操作が可能となった。切羽付近に設置した3台のPTZカメラ(パン・チルト・ズーム機能付き)と、オペレーター視点の360度カメラ1台の映像をリアルタイムで遠隔操作室に伝送。遠隔操作室で映像を確認しながら実際の操作レバーと同じもので吹付作業を行う。
■LiDAR搭載で出来形管理も遠隔化
注目すべき点として、吹付機に搭載したLiDAR(ライダー)による出来形計測機能がある。遠隔吹付作業後に、LiDARによる計測を行うことで、遠隔からの出来形管理を可能にした。さらに、鋼製支保工の建込み中は、同LiDARを用いて鏡面の押出量計測をリアルタイムで実施。計測値が閾値を超過した場合は、直ちに運転席に設置した警報機により警報を発することができる。これにより、鋼製支保工建込み時の肌落ち災害リスクを低減できるという。
■Wi-Fiと光回線を活用した通信設備
重機を遠隔操作するための通信設備は、トンネル坑内にWi-Fiと光回線を整備。自由断面掘削機については、トンネル坑内だけではなく、数キロメートル離れた工事事務所の操作室からも重機を遠隔操作することが可能となっている。この柔軟な通信システムにより、作業効率の向上とさらなる安全性の確保が期待される。
■協力企業4社と共同開発
今回の重機遠隔化実現には、伊藤忠TC建機(東京都中央区)、ARAV(東京都文京区)、Nexus Solutions(東京都品川区)、金子組(岡山県倉敷市)の4社が協力した。建設機械メーカー、通信技術企業、AI・ロボット技術企業、地場建設会社が連携することで、実用的なシステムの構築に成功した。
■今後の展望:他工種への応用も視野
竹中土木は今後、山岳トンネル工事における重機の遠隔化・自動化をさらに推進し、労働災害ゼロを目指すとしている。将来的には他工種への応用も視野に入れ、安全性・効率性の向上、働き方改革、人材育成、CO₂削減などをテーマに取り組みを進化させていく方針。
建設業界全体で深刻化する人手不足と安全性向上の課題に対し、ICT・AI・ロボット技術を活用した遠隔操作技術は有効な解決策の一つとなる。今回の竹中土木の取り組みは、建設機械の遠隔操作技術の実用化に向けた重要なマイルストーンとなりそうだ。業界各社の動向が注目される。
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