・次世代製鉄技術への挑戦、鉄鋼業界の脱炭素化へ大きな一歩
プライメタルズ テクノロジーズ(Primetals Technologies ):2025年9月25日
オーストリア・リンツのフェストアルピーネ敷地内で、画期的な水素ベース製銑技術の産業規模実証プラント建設が正式に始動した。9月25日に開催された起工式には政界・産業界の要人が参集し、鉄鋼業界の脱炭素化に向けた歴史的な節目を祝った。
このプロジェクトは、プライメタルズ テクノロジーズが世界的鉱業企業リオ ティント、オーストリアの鉄鋼大手フェストアルピーネと協力して推進する、CO2ネットゼロを目指す革新的な製鉄技術の実用化への取り組みである。
■革新技術「HYFOR + Smelter」の威力
今回建設される実証プラントの核心技術は、プライメタルズ テクノロジーズが開発した水素ベース微粉鉱石還元技術「HYFOR」と電気製銑技術「Smelter」の組み合わせだ。
HYFOR技術の最大の特徴は、微粉鉄鉱石を直接処理できることで、従来必要だったペレタイジング工程を省略できる点にある。低温還元ガスと捕集粉塵のリサイクルにより高い金属化率を実現し、直接還元鉄(DRI)やホットブリケットアイアン(HBI)を効率的に生産する。
一方、Smelter技術は再生可能エネルギーで稼働する炉で、DRIを溶融・還元して溶銑や銑鉄を製造するとともに、セメントクリンカー代替材として利用可能な高付加価値スラグも同時生産する。
■実証プラントの仕様と稼働計画
建設される実証プラントは処理能力毎時3トンで、2027年末の稼働開始を予定している。プラントは既設のH2Future電解プラントから供給される認証済みグリーン水素を使用し、高炉と同等品質の溶銑をCO2ネットゼロで生産することを目指している。
フェストアルピーネのHerbert Eibensteiner CEOは「2050年までのCO2ネットゼロ達成という長期目標に向け、世界で唯一のHy4Smel実証プラントの建設開始により、グリーンスチール分野における当社の技術革新力が改めて実証される」とコメントしている。
産官学連携による強力な推進体制
このプロジェクトには強力な産官学連携体制が構築されている。リオ ティントは実証プラントに必要な鉄鉱石の70%を供給し、技術支援も担当する。また、総合商社の三菱商事がプライメタルズ テクノロジーズと戦略的パートナーシップを締結し、共同出資者として参画している。
資金面では、オーストリア連邦政府がKommunalkredit Public Consultingの「Transformation of Industry」プログラムやAustria Wirtschaftsserviceの「Twin Transition」活動を通じて支援。さらに欧州連合(EU)も、クリーン スチール パートナーシップ内の欧州連合石炭・鉄鋼研究基金やクリーン水素パートナーシップを通じて事業を後押ししている。
■業界転換への期待と課題
プライメタルズ テクノロジーズのアレクサンダー・フライシャンデル博士 (Dr. Alexander Fleischanderl) CTO兼グリーンスチール責任者は「鉄鋼業界は急速な転換を迫られている。何世紀にもわたり製銑の基盤であった石炭ベースの高炉は、著しい環境負荷となっている。HYFORとSmelterは、まさにこの課題に応えるソリューション」と技術の意義を強調する。
HYFORとSmelterは2028年から商業利用が可能となる見込みで、低品位から高品位まであらゆる鉄鉱石に対応できる柔軟性を持ちながら、世界供給の大部分を占める低~中品位鉱石に重点を置いた設計となっている。
リオ ティントのRafael Azevedo Iron Ore Sales and Marketing Atlantic General Managerは「流動層および電気製銑技術が鉄鋼業界の転換を支える可能性について大きな期待を寄せている」とし、この技術が業界全体に与える影響への期待を表明している。
鉄鋼業界の未来を占う試金石
今回の実証プラント建設開始は、鉄鋼業界の脱炭素化に向けた具体的な一歩として業界内外から注目を集めている。プライメタルズ テクノロジーズは10年前からHYFORの開発を進め、2021年以降、ドナヴィッツのパイロットプラントで50回以上の試験を成功させるなど、技術の確立に向けて着実に歩みを進めてきた。
2027年末の稼働開始に向け、この実証プラントが示す成果は、世界の鉄鋼業界の未来を大きく左右することになりそうだ。CO2ネットゼロという野心的な目標達成に向けた挑戦が、いよいよ本格化している。
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