【余談】NHK『探検ファクトリー』、ミニショベルのクボタ枚方製造所を紹介

NHK は9月13日(土)、人気番組『探検ファクトリー』でクボタ建設機械の主力工場、枚方製造所(大阪府枚方市)を紹介した。運転者(オペレーター)がミニショベルを使ってグラスにワインを注ぐ繊細な作業の演出に始まり、アーム・ブーム・バケット合計4本のシリンダーを、油圧ホースで繋ぎコントロールバルブで油量を制御するなど油圧システムの重要性を説明、またロボットではできない細部の溶接や、入念で細やかな検査工程の大切さなど、番組は丁寧に描いた。

1974(昭和49)年、日本国内を対象に生産を始めた「ミニバックホー」(Mini Backhoe、クボタでは長年そう呼ぶ)は、バブル崩壊で内需が減少してきたこともあり、海外に活路を求めた。当初は、先行した農業機械の海外販売網を活用して細々と輸出をスタートしたが、2000年以降、海外、とくにアメリカで認知・評価され市場が形成された。余談だが、ヨーロッパにおける竹内の機械とも似ているが、2000年以降に製作されたアメリカの映画やテレビドラマでは、街中に置かれたクボタのミニバックホーを目にしたほど、自然に市街地に溶け込んでいた。それが、いまや同工場で生産される製品の約8割が輸出され、アメリカ以外でもヨーロッパ、アジアの国々に輸出され、クボタは同分野で23年連続世界一のシェアを有するに至った。

『探検ファクトリー』は、魅力あふれる工場や工房、その周辺の町を漫才コンビ・中川家とすっちーが“探検”する工場見学バラエティー。高度な技術や職人技、さらに面白社員や名物社長などを発見し、“日本のもの作りの底力”“働く人の情熱”を紹介する人気の番組。NHKは、「新プロジェクトX」で建設機械 起こせ!IT革命 〜“エレキ部隊”の下剋上〜(建機遠隔管理システム「Komtrax」開発の舞台裏を描いた)で取り上げたばかりだが、建設機械の社会的認知度を高め、若年層や一般消費者に建機の魅力を発信する「建設機械の日」(11月19日)が3ヶ月後に迫るなか、この種の番組ができることは歓迎すべきことである。

 NHK「探検ファクトリー」(番組を見るにはNHKプラスにログイン必要、配信期限:2025年9月20日)

補足:クボタ建機事業50周年記念誌を発行、ミニバックホー世界シェア22年連続No.1の軌跡を振り返る

クボタは、建設機械事業50周年を記念した記念誌「クボタ建機50年史」を2024年4月(公開は2024年12月23日)に発行した。同誌では、1974年の初代ミニバックホー「KH-1」の量産開始から現在まで半世紀にわたる事業の歩みと、2030年に向けた長期ビジョン「GMB2030」への取り組みを概ね下記のように紹介している。

■事業規模は売上高6,411億円、海外比率93%超

2023年12月末時点での建機事業の売上高は6,411億円(クボタ全体の約21%)、従業員数は3,669名となっている。特筆すべきは海外比率の高さで、93.1%と高度にグローバル化した事業構造を持つ。主力のミニバックホー(6t未満)では2002年から2023年まで22年連続で世界シェアNo.1を維持しており、50ヵ国以上で販売展開している。

■創業期の挑戦から世界トップシェアへ

同社の建機事業は、ドイツのアトラス社(ATLAS GmbH)と技術提携したこともあるが、高度成長期の1974年に全旋回式小型油圧ショベル「KH-1」の生産開始でスタート。当時は米の減反政策を背景に農機以外への事業拡大が求められており、手作業を機械化する同社の技術力を活かした新分野への進出だった。

開発当初は「どれだけ深く掘ればいいかも分からない状態」(記念誌インタビューより)からのスタートだったが、技術者が現場に通い詰めて顧客の声を直接聞く開発手法により、市場ニーズに合致した製品を生み出した。1978年には早くも海外進出を果たし、これが現在の世界シェアNo.1の原点となっている。

■1990年代の危機を乗り越え急成長

事業展開は順風満帆ではなく、1990年代半ばには売上不振による事業撤退の危機に直面し、赤字が10年続く困難な時期を経験した。しかし2000年以降は一転して大きく成長軌道に乗り、生産台数は飛躍的に増大している。

2005年には欧州市場向けに7tクラス(後の8tクラス「KX080」)の開発に着手。「6tクラスと7tクラスの間には非常に大きな壁があった」(同)というが、設計基準の大幅見直しにより克服し、新市場開拓に成功した。

■北米市場でマテハン製品を強化

2007年からは北米市場でのマテハン事業拡大を目指し、コンパクトトラックローダ(CTL)の開発を開始。開発期間わずか1年という短期間で製品化を実現し、2010年に市場投入した。その後、2014年にホイールローダ、2015年にスキッドステアローダと相次いでラインナップを拡充し、北米市場でのフルライナー体制を構築した。

北米では農機部門のディーラー1,100社のうち700社が建機も販売するという強固な販売網を持ち、これが同社の大きな競争優位性となっている。

■2030年ビジョンで次世代技術を展開

長期ビジョン「GMB2030」では、「社会インフラソリューションNo.1カンパニー」を目指し、i-Construction(ICT施工)、安全性と信頼性、カーボンニュートラル、DX推進の4つを重点分野と位置づけている。

ICT分野では、トプコン社との協業による「ICT Navigator Package」や、ザクティ社との「AI SAFETY PACKAGE」など、他社との連携によるソリューション提案を強化。新世代ミニバックホー「A333」では電子制御油圧システムを搭載し、操作性と作業性を大幅に向上させた。

カーボンニュートラルへの取り組みでは、2024年春から欧州市場に電動ミニバックホーを投入予定。既存のディーゼルエンジンをモーターに置き換えるアプローチも検討しており、顧客の初期投資負担軽減を図る方針だ。

■グローバル生産体制を拡充

製造面では日本の枚方・堺製造所に加え、北米アメリカ(GPM)、アジア(無錫)各国、欧州ドイツ(KBM)に生産・開発拠点を展開。枚方製造所では2000年から2023年にかけて生産台数が約10倍に増加しており、新棟建設による生産能力増強を進めている。

今後はASEAN・インド市場を「第3の柱」として事業展開を図る方針で、農機と建機のシナジー効果創出を目指している。

■技術者が現場主義貫く企業文化

記念誌では複数の技術者・営業担当者へのインタビューを掲載。「営業だけが開発要望を伝えるのではなく、技術者自らが市場に赴き、顧客の生の声を直接聞いて開発を行う」(建設機械事業部副事業部長・渡辺史郎氏)という現場主義の企業文化が、同社の競争力の源泉であることが強調されている。

また、「会社が社員に優しいから、社員も人に優しい技術・製品を生み出すことができる」(建設機械技術第二部長・田島誠士氏)として、人を中心とした技術開発への取り組みが紹介されている。

建設機械事業部長の湯川勝彦氏は記念誌の挨拶で、「次の50年も世界から必要とされる事業であり続けられるよう『On Your Side』の精神でステークホルダーの皆様とともに歩んでまいる」と述べ、さらなる事業発展への決意を示している。

 クボタ建設機械の50年史(2024年4月発行)をベースに作成

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