米国関税拡大に日欧建機業界が危機感、総額1兆円超の輸出に打撃

米国が8月18日から鉄鋼・アルミ派生品に対する50%追加関税を約400品目に拡大適用したことを受け、日本と欧州の建設機械業界が深刻な影響を懸念している。関税措置は建設機械本体や部品を直撃し、両地域合わせて1兆円を超える対米輸出が危機に瀕している。(経産省の米国関税ページ

日本:二重の関税負担に直面、業界全体で対応に苦慮

経済産業省が9月1日に公開した「米国関税措置の影響と対応」によると、日本の建設機械業界は二重の関税負担に直面している。建設機械本体への相互関税15%に加え、通商拡大法232条に基づく鉄鋼・アルミ派生品への50%追加関税が新たに適用された。

最大手のコマツは2025年度純利益見通しを4,396億円から3,090億円へと大幅に下方修正し、セグメント利益への影響を908億円と想定。内訳はコスト増による750億円の影響が大きな割合を占めている。(第1四半期における説明)

業界が直面する課題は多岐にわたる。鉄鋼・アルミ含有部分の価値計算方法が不透明なため、各社とも追加的な影響の把握に時間を要している。また、価格改定による製品価格上昇で需要減少への懸念が高まっており、鉄鋼含有分の価値を適切に示せない場合は製品価格全体に50%関税がかかる可能性もある。

日本建設機械工業会は9月5日、山本明会長が経産省に要望書を提出。建設機械・部品の関税適用除外を米国に働きかけるよう求めた。同業界の国内生産出荷額は年間約3.5兆円で、その7割にあたる約2.4兆円が輸出に回り、特に北米市場は輸出全体の約半分を占める重要市場となっている。

欧州:28億ユーロの輸出が危機、業界団体が緊急対応要請

欧州建設機械委員会(CECE)は9月8日、今回の関税拡大に強い懸念を表明した。2024年にEUから米国への建設機械輸出額は34億9,000万ユーロ(約6,000億円)で、EU域外輸出全体の27%を占めた。このうち約80%にあたる28億ユーロ相当(約4,800億円)が新関税の対象となる見込みだ。

CECEのリカルド・ヴィアッジ事務局長は「欧州委員会が米国政府と緊急に交渉し、建設機械輸出を232条関税の適用範囲から除外するよう求める」と訴えた。実質的な関税率は従来の15%から最大50%近くまで跳ね上がる可能性があり、欧米間の建機貿易に深刻な影響を与えると予想される。

ドイツ機械工業連盟(VDMA)も8月27日に強い批判を表明。会長のベルトラム・カヴラート氏はEU委員会のウルズラ・フォン・デア・ライエン委員長宛てに書簡を送付し、米国との解決策を見出すよう求めている。407の新品目が追加対象となったことで、多くの機械メーカーに衝撃が走った。

米国経済への逆風も懸念

関税措置は日欧の輸出企業だけでなく、米国経済にも負の影響をもたらす可能性が指摘されている。米国建設業界は欧州製の高性能建機に大きく依存しており、関税導入により輸入品価格の上昇に伴って米国製機械の価格も押し上げられる恐れがある。

さらに、米国政府が関税対象コードのリストを4か月ごとに見直す方針を示していることで、市場予測は一層困難になっている。機械の鉄鋼・アルミ含有量を算定する手続きはメーカーと米国税関双方にとって大きな負担となり、誤算による法的リスクも増大すると懸念されている。

景気減速局面にある米国の建設業界にとって、機械価格上昇は追加的な逆風となる可能性が高く、日欧の業界団体は米国経済全体への悪影響も含めて関税措置の見直しを求めている。

今後の展望

日欧の建設機械業界は、各国政府を通じた外交努力による関税措置の撤回や適用除外を目指している。一方で、関税が継続した場合の対応策として価格転嫁を検討せざるを得ない状況にあるが、需要減少への懸念から慎重な判断が求められている。

業界関係者は「建設機械は米国のエネルギー・資源開発やインフラ整備に不可欠な基盤であり、関税措置は両国の利益に反する」として、早期の解決を期待している。関税措置の影響は広範なサプライチェーンにも及ぶため、今後の推移が注目される。

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