矢崎総業、静岡県掛川市に新工場建設、国内回帰で電動車部品の生産を強化

 矢崎総業(東京都港区)は6月30日、静岡県掛川市のジヤトコ掛川工場跡地に新工場を建設すると発表した。2026年中の稼働開始を目指し、電動車向けの高圧部品の生産能力を大幅に強化する。グローバル企業でありながら国内投資を積極化する背景には、電動化への迅速な対応と、地政学リスクなどを考慮した生産体制の再構築という戦略的な狙いがある。

■新工場設立の背景と狙い
 電気自動車(EV)の普及が加速する中、自動車部品の電動化対応は喫緊の課題となっている。EVに不可欠な高圧部品は、電流に耐え、発熱を抑える必要があるため、従来の部品に比べて大型化する傾向にあり、より広い生産スペースが求められる。

 矢崎総業は、この課題に対応するため2023年頃から新たな土地取得を検討。既存の開発・生産拠点からのアクセスが良好で、幹線道路や高速道路にも接続しやすいジヤトコ掛川工場跡地(96,000 ㎡)を選定し、2025年3月27日に取得した。隣接する掛川ティーライフの施設も賃借し、生産能力の強化を図る。 

■「ものづくり」の原点回帰
 世界46の国と地域に拠点を展開する矢崎総業が、なぜ今、日本国内への投資を強化するのだろうか。そこには以下の2つの理由がある。

・電動化対応とものづくり力の強化
 EVの普及スピードや規模には不透明な部分もあるが、矢崎総業は電動化への迅速な対応を重要な戦略課題と位置付けている。バッテリーおよびモーター周辺機器など、電動化関連製品を幅広く取り扱っており、バッテリーメーカーの主要拠点である中国、韓国、日本の近傍に拠点を構えることで、バッテリーメーカーとの協業を通じて開発力・技術力を磨く狙いだ。これにより、将来的な海外展開の際には、バッテリーメーカーと共に進出できる体制を整えたいと考えている。

・リスク分散に向けた土台づくり
 海外事業には関税や自然災害、地政学的リスクなど、不確実性が伴う。これらのリスクを最小限に抑えるため、各地域で完結して生産できる体制の構築が不可欠である。まずは本社機能や開発拠点が集約されている日本国内で生産体制の基盤を整えることが合理的であり、これにより、将来的にニーズが高まった地域で迅速に事業を展開できる柔軟性を確保する。

 また、人件費の高い日本に生産拠点を戻すことが可能となった背景には、自働化の進展がある。今回の投資は、「いつでも(マルチパスウェイ等のトレンド変化)」「どこでも(国内外の各拠点)」「なんでも(多様な製品)」に対応できる体制を国内で再構築する、10年、20年先を見据えた戦略的な取り組みと位置付けられる。

■今後の展望
 新工場を含め、矢崎総業で生産する高圧ジャンクションブロックの売上は、今後5年間で現在の約3倍に拡大する計画。また、掛川ティーライフで生産予定のCCS(Cell Contacting System)についても、同期間で約2.4倍の売上を見込んでいる。

 さらに、2028年には開発機能も新工場に移転し、開発機能と製造機能の密接な連携を図ることで、製品開発から生産までの一貫体制を強化していく方針。今回の国内投資は、矢崎総業が日本の「ものづくり」の強みを再認識し、電動化時代のグローバル競争を勝ち抜くための重要な一歩と言える。

<新工場概要>
所在地:静岡県掛川市淡陽16(ジヤトコ掛川工場跡地)
事業内容:高圧ジャンクションブロックの製造
稼働開始予定:2026年中

 ニュースリリース