2025年6月6日、米国の農業・建設機械大手ジョンディア(Deere & Company)は、一部で流れていた「米国での製造から撤退する」とのうわさを否定し、今後10年間で米国内製造に200億ドル(約3兆円、150円換算)規模の投資を行うと発表した。
同社のジョン・メイ会長兼CEOは、「顧客に価値を提供するためには、製品やソリューション、製造能力への継続的な投資が不可欠だ」と述べたうえで、「米国市場における大胆な投資は、グローバル競争の中でもイノベーションと成長を追求する姿勢の表れだ」と強調した。
現在、ジョンディアは米国内16州以上にまたがる約60の工場・オフィス拠点で、3万人超の従業員を雇用。農業・建設・造園業など幅広い分野に向けて機械を製造・供給しており、「1837年から米国で製造を続けている。我々のものづくりは、まだ始まったばかりだ」とコメントしている。
■背景と経緯:SNS発の誤情報と過去の再編が生んだ憶測
今回の発表は、SNSや一部メディアで拡散されていた「ジョンディアが米国での製造から撤退するのではないか」といった憶測・誤情報に対する公式な否定声明と位置づけられる。
1837年創業のジョンディアは、米国中西部の農地開拓とともに発展してきた、アメリカ製造業の象徴的存在である。現在では農業機械のみならず建設・林業機械やドローン、エンジンなど幅広い産業インフラを提供するグローバル企業へと成長している。
こうした撤退説のうわさが生まれた背景には、同社が過去に実施した製造機能の一部移管や再編がある。たとえば2022年には、アイオワ州のウォータールー工場における部品製造の一部をメキシコへ移すと発表し、国内製造の縮小と受け取られかねない動きも見られた。また、AIや自動運転などを活用した次世代農業機械の導入に伴い、既存工程の自動化・効率化が進められており、人員整理や設備再構成といった動きもあった。
さらに、米国の人件費高騰やサプライチェーンの変化、政治的な関税圧力など、製造業を取り巻く環境の変化も、「米国内製造の空洞化」や「海外移転」といった憶測を生む要因となっていた。
■戦略的投資で示すアメリカ製造業への決意
しかし実際には、ジョンディアは米国を中核市場と位置付けており、今回の200億ドル投資もその意志の現れである。これは工場の最新化や新技術導入、人材育成などを通じて、米国に根差したものづくりをさらに強化する狙いがある。
ジョンディアはAIや自動運転技術などの研究開発にも積極的であり、年間2,000億円超を投じて「農機のアップル」とも評される革新性を発揮している。同社CEOのジョン・メイは「米国市場への継続的な投資は、イノベーションと成長、そしてグローバル競争力の維持を意味する」と強調。単なる農業機械メーカーから「農業のOS」を目指す戦略は、今後の米国製造業の方向性を象徴している。
高度な製造技術の導入や施設の刷新、研究開発の強化を通じて、グローバル競争の中でも米国内製造の基盤を維持・強化する戦略といえる。
今回の発表は、雇用や地域経済、米国製造業の未来にとっても大きな安心材料となり、ジョンディアが「支える企業」として顧客や社会に貢献し続ける姿勢を示している。
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