三菱重工、過去最高益を達成し10兆円超の受注残高を記録

・エネルギー・防衛事業が牽引、脱炭素社会への貢献加速へ

 三菱重工業は5月28日、「2024事業計画推進状況説明会」を開催し、伊藤栄作社長CEOが2024年度の事業実績と今後の経営方針について説明した。同社は、受注、売上収益、事業利益、キャッシュフローのいずれも過去最高を更新し、特にエネルギーおよび防衛事業の好調が計画を大きく上回る要因となり、受注残高は10兆円を超えたことを明らかにした。

 2024年度は、強化された事業基盤と財務基盤を最大限に活用し、事業成長と収益力強化の両立を目指す年として位置づけられていた。蓋を開けてみれば、サービス事業の拡大や生産性向上といった多岐にわたる施策が奏功し、その成果に確かな手応えを感じているという。

 一方で、足元の事業環境については、相互関税などによる世界的な景気後退の懸念や安全保障を巡る不確実性など、先行きの不透明感が指摘された。また、カーボンニュートラルに関する政策の変化、特に地域特性に合わせた現実的なエナジートランジションへの理解が深まっていることにも言及。三菱重工は、こうした不確実性への備えと同時に、市場の変化へ柔軟に対応し、新たな事業機会の捕捉・創出に注力していく方針を示した。

 今後の事業見通しとして、三菱重工は基盤技術と最先端の知見を組み合わせ、変化する社会や顧客ニーズに応えていくことを経営方針の柱に据える。既成概念にとらわれない新たな価値創造を通じて、社会の進歩に貢献する姿勢を強調した。

 具体的な取り組みとしては、社会課題解決と脱炭素社会の実現に向けた技術開発を加速させる。深刻化するトラックドライバー不足や労働環境改善に対応するため、トラックドライバーの作業時間や待機時間削減に資するソリューション開発を推進する。

 脱炭素分野では、水素関連技術開発が大きく進展。6気筒500kWクラスの水素エンジン発電セットにおいて、水素100%燃料を用いた運転で定格出力(435kW/1,500回転)を達成したと発表した。これは、製品化に向けたプロセスを加速させ、水素利用拡大による脱炭素社会実現への貢献を目指す重要な一歩となる。

 また、電動車への移行が進む自動車市場を見据え、PHEV(プラグインハイブリッド車)向けターボチャージャや、FC(燃料電池)向け電動ターボ式エアコンプレッサの開発を推進。さらに、地球温暖化係数の低いR32冷媒を採用したビル用マルチエアコン「LXZシリーズ」の追加や、熱源総合制御システム「エネコンダクタ」の新モデル市場投入など、環境負荷低減と省エネルギーに貢献する製品開発にも注力している。

 中期経営計画「MTBP2027」では、2026年度に売上高5.7兆円以上、事業利益4,500億円超、ROE12%以上の達成を目指す。特に「Innovative Total Optimization(全体最適と領域拡大の実践)」という独自の経営手法を軸に、社内外の知見や技術、IT基盤を横断的に連携させて生産性を高め、成長機会の最大化を図る。

 三菱重工は、今回の過去最高業績を弾みに、不確実な世界情勢の中にあっても、技術革新と社会貢献を両輪として持続的な成長を目指す構えだ。特にエネルギー転換と安全保障の分野で、その存在感を一層高めていくことが期待される。

 三菱重工の経営方針