三井E&S、24年度売上は4.4%増の3,151億円、25年度予想は7.9%増の3,400億円

 三井E&Sが5月13日に発表した2025年3月期(2024年度)連結業績によると、受注高は、前年度と比べて847億12百万円増加(+25.1%)の4,216億99百万円、売上高は、物流システム事業において大型工事が順調に進捗したことにより、前年度と比べて132億37百万円増加(+4.4%)の3,151億12百万円となった。営業利益は、物流システム事業の損益が改善したことなどにより、前年度と比べて35億円増加(+17.8%)の231億30百万円、経常利益は、持分法による投資利益の計上及び金融費用の大幅な減少などにより前年度と比べて70億44百万円増加(+34.0%)の277億56百万円、親会社株主に帰属する当期純利益は、関係会社株式売却益の計上などにより、前年度と比べて140億23百万円増(56.0%)の390億74百万円となった。

■連結業績の概況
 2024年度の世界経済は、安定性を保ってはいるものの、米国の好調をアジア及び一部欧州の弱さが相殺するなど、その基盤の強さは国・地域により異なる。そのような状況下、米国の新政権が「米国第一」を方針に、相互関税の導入や不法移民対策等を矢継ぎ早に実施し、その保護主義的かつ予見不可能な政策で世界経済に影響を与え、特に米中対立は激化の様相を呈している。一方、国内経済は、家計所得の改善による個人消費の持ち直しや企業業績及び設備投資の伸びなどによるゆるやかな回復を想定しているが、直接間接を問わず米国の政策から受ける影響は無視できない状況にある。

 三井E&Sグループの舶用推進システム事業と関連性の高い造船業界では、期近船台が完売し、商談が4年以上の先物まで進むなど、国内造船所は十分な手持ち工事量を確保している。また、物流システム事業についても、米国では関税の影響が想定されるものの引き続き優位性は維持しており、アジア地域の物流需要も堅調、国内においても新設、増設に加え、老朽化更新などの需要が堅調と、主力事業の受注環境は総じて良好と認識している。ただし、米国の相互関税に対する各国の対応、金利・為替の急激な変動等、先行きの不確実性は高まっている。それぞれのリスクに対しては、有利子負債の圧縮や為替予約等を通じて適切に対応しておりますが、当面は予断を許さない状況が続くものと認識している。

 このような状況下、2024年6月に実施した三井海洋開発の株式の一部売却等によって得た約700億円の資金は、事業戦略、財務戦略、及びステークホルダーへの利益還元の3点から、以下の用途に段階的に充てて実行している。

① 物流システム事業の米国含めた世界市場展開に必要な投資、舶用推進システム事業に関連する重要部品の技術開発や製造に必要な投資、及びサプライチェーンの強化に必要な投資

② A種優先株式の償還、有利子負債の大幅な圧縮による財務健全性の向上、並びにこれに伴う金融費用の大幅な低減

③ 一般株主への利益還元及び人材育成や住宅支援等の制度改革を軸とした人的資本への投資

①については、米国を含む海外向けクレーン・ビジネスの柔軟性向上と短納期対応の実現に向けクレーン輸送船の保有計画を進めている。②については、2024年7月にA種優先株式の全部取得及び消却を完了したほか、有利子負債の大幅な圧縮並びに借入金の短期から長期への一部転換を実施し、三井E&Sグループの流動比率は大幅に改善した。③については、利益還元として2024年8月及び2025年2月に配当予想を上方修正し、人材育成の一環として博士人材向け支援制度を導入し、その他にも人事制度、教育制度の全面的見直し、三井E&S並びに三井E&Sグループ内での人材流動化を図っている。今後も各種投資の継続的な実施、利益成長に伴う更なる財務基盤の強化や利益還元の段階的な拡大を可能とする好循環を生みだし、三井E&Sグループの進化と持続に向けた企業価値向上に繋げていく。
 一方、為替や市況など三井E&Sグループをとりまく事業環境は大きく、かつ急激に変化を続けている。三井E&Sグループは、事業基盤の強化及び変化の激しい事業環境を踏まえ、3年後の姿を固定するのではなく常に更新し続け、成長し続ける姿を描くローリング式中期経営計画として「三井E&S Rolling Vision 2024」を2024年8月に策定した。この計画のもとで、中核事業の舶用推進システム事業・物流システム事業を「グリーン」と「デジタル」の切り口で発展させる戦略を継続している。

 舶用推進システム事業では、アンモニア燃料について、三井E&Sを含む日本5社連合とMAN Energy Solutionsの6社間で、アンモニア燃料船の商用化に向けた共同開発を進めることに合意し、覚書を締結した。また、三井E&Sの三井-MAN B&W エンジン生産量は累計1億2千万馬力を2024年11月に達成し、2025年2月には世界初アンモニア焚き大型低速二元燃料エンジン及び燃料供給装置商用機の試験運転を開始した。今後も世界初号機となるMAN B&Wアンモニア焚機関及びアンモニア燃料供給装置等周辺システムを供給し、舶用推進システムサプライヤーとして海上物流分野で脱炭素社会の実現に持続的に貢献していく。

 物流システム事業では、三井E&Sと三井E&Sの子会社パセコ社(本社:米国 カリフォルニア)が、ブルックフィールド社(本社:カナダ トロント)と、米国カリフォルニアにおいて港湾クレーンの最終組立を行うための検討を進めている。米国での新政権発足に伴い、脱炭素化の流れは一時的に後退する可能性はあるものの、港湾物流事業の米国市場環境は大きく変化しないものと想定しており、引き続き米国の港湾インフラの安全確保と脱炭素化の社会課題解決に当社が貢献できることを期待している。その第一段として、2024年2月に米国政府が発表した重要な商業用港湾に配備されている中国製のクレーンに対するサイバーリスク管理対策にかかる指令文書公示後、三井E&S初の米国のカリフォルニア州ロングビーチ港向けに、将来のゼロエミッション化を見据えたニアゼロエミッション型タイヤ式門型クレーン(三井パセコトランステーナ)8基を2024年11月に受注している。

 さらに、中核事業の周辺領域において新しい製品やサービスを推進する事業を成長事業と位置づけており、2024年10月に洋上水素ステーション用途の高圧大流量往復動圧縮機を1台受注した。引き続き、脱炭素化を念頭に置いた新製品やサービスの開発に注力していく。その他、船体汚損管理サービス、港湾クレーンのドローンによる点検サービス及び港湾ターミナルの運営効率化など、デジタル技術高度化による保守メンテナンスサービスの分野でのビジネスを拡大させることにより人口縮小社会の課題解決に取り組み、更なる企業価値向上に取り組んでいく。

 三井E&S2025年3月期データ

■セグメント別の連結業績
(成長事業推進)
 脱炭素分野では、中核事業の周辺領域で新しい製品やサービスを推進しており、水素燃料船に水素供給を行う日本初の洋上水素ステーション向けとして、新規に開発した高圧大流量水素圧縮機を国内で初受注した。また、国内製鉄所向け高炉用送風機の大型案件を受注したほか、国内外のSAF(Sustainable Aviation Fuel:持続可能な航空燃料)製造プラント用途や水素関連用途での往復動圧縮機の引き合いにも多数対応中であり、世界的な脱炭素化の流れに三井E&Sの技術を活用し、水素関連市場への取り組みを強化していく。
 デジタル分野では、港湾における荷役業務の効率化を目的とし、コンテナターミナルの荷役計画や荷役機器に関する各種データの収集、整理、分析、及び運用手法を組み合わせることで、デジタル化による効率向上、持続可能な港湾維持、国際競争力強化を支援する港湾デジタルソリューションの開発を進めている。港湾機能の維持、生産性向上・強化の必要性は、今後ますます高まってくると予想され、これら製品・サービスの提供を通じて、労働人口減少対策や国際競争力強化へ貢献していく。

 受注高及び売上高は、産業機械製品や建設機械用エンジンの減少などにより、それぞれ、前期と比べて8億75百万円減(△1.9%)の459億53百万円、7億92百万円減少(△1.9%)の400億17百万円となったものの、営業利益は、産業機械製品の採算が改善したことなどにより、前期と比べて9億48百万円増加(+16.1%)の68億31百万円となった。 

(舶用推進システム)
 GHG排出量削減需要により二元燃料エンジンの受注が増加しており、二元燃料エンジンの受注割合は2023年度の10%から、2025年度は20%まで伸びる見通し。
 2024年度はメタノール焚きエンジンの受注が増加し、2015年以来となるメタノール焚きエンジンを納入した。また、MAN Energy Solutions (MAN)ライセンスエンジンのみならず、Winterthur Gas & Diesel (WinGD)ライセンスのメタノール焚きエンジンの需要も伸びており、玉野工場では両ライセンスのエンジンの試運転が可能な運転設備の増強を進めている。
 アンモニア焚きエンジンに関して、2025年2月に世界初となる大型低速2サイクルエンジン商用機のアンモニア燃料による試験運転を開始した。他社に先駆けて安全性や信頼性向上のための各種試験を実施し、ゼロエミッション船の普及に向けたエンジン並びに燃料供給装置を市場投入する。また、三井E&S玉野工場及び連結子会社である三井E&S DU 相生工場の一体運営により、両工場でMAN/WinGD両ライセンスエンジンの柔軟な生産体制を構築し、顧客ニーズに対応した高品質なエンジンを供給していく。アフターサービスについては、環境規制対応の需要などにより受注・売上ともに好調で、2025年度以降も電子制御エンジンのドック工事の増加により、高水準が続くものと見込んでいる。

 受注高は、大型エンジンや二元燃料エンジンの案件が増加したことなどにより、前期と比べて652億61百万円増加(+44.2%)の2,129億32百万円となった。売上高は、前期並みの1,355億6百万円(前期:1,340億33百万円)となり、営業利益は、アフターサービス事業が好調に推移したことなどにより、前期と比べて10億45百万円増加(+16.2%)の74億76百万円となった。

(物流システム)
 ベトナムにおける大型案件の連続受注、バングラデシュのODA案件など、海外での受注は好調を維持している。国内においても主要港、地方港ともに需要が堅調であり、国内外合わせ2期連続で過去最高の受注高となった。
 新エネルギー・産業技術総合開発機構(NEDO)と共同で実証を行っている世界初のゼロ・エミッショントランステーナ(水素燃料電池パワーパック駆動のトランステーナ)については、米国ロサンゼルス港にて実証事業を開始し、想定を上回る燃費効率を実現している。国内においても、東京港及び横浜港にて既設トランステーナを水素燃料電池パワーパックに換装、神戸港では水素エンジン発電機に換装し、それぞれ稼働実証を行っている。引き続き、脱炭素社会へ向け製品の商業化を進めていく。

 また、米国での港湾インフラの安全確保に貢献するために、Build America Buy America Act(BABA)への準拠に関して、既にクレーンを構成する調達品のうち55%の米国製品の採用及び米国におけるクレーンの最終組立については検討を終えたが、米国の政権交代により戦略の見直しが必要となっていることから、米国の政策を引き続き注視し、事前検討・準備を進めていく。

 アフターサービス関連では、老朽化更新に伴う既設機の改修工事が好調なことに加え、国内及び米国・東南アジア・アフリカなど国内外のパーツサプライが受注・売上ともに好調で昨年に続き過去最高を記録した。クレーンリモートモニタリングシステムは、国内の地方港を中心に既設の搭載に加え、新設クレーンにも搭載を開始しており、メンテナンスサービスの拡充を進めていく。
 受注高は、国内を始めアジア諸国や米国など海外でも大型案件の受注が続き、過去最高の受注高を記録した前期と比べて55億39百万円増加(+7.8%)の761億12百万円となった。売上高は、大型工事の順調な進捗などにより、前期と比べて151億30百万円増加(+31.8%)の627億67百万円となり、営業利益は、売上高の増加や大型工事の採算改善などにより、前期と比べて28億99百万円増加(+94.9%)の59億54百万円となった。この結果、受注高、売上高及び営業利益いずれも過去最高を記録した。
(周辺サービス)
 周辺サービス事業においては、国内子会社におけるシステム関連の安定した受注と売上により牽引された。しかし、海外子会社での受注契約時期の遅延や工事採算の悪化により、利益面で前期を下回る結果となった。
 受注高は、予定していた案件を順調に獲得した結果、前期と比べて149億44百万円増加(+20.9%)の865億62百万円となった。売上高は、前期並みの751億93百万円(前期:741億41百万円)となり、営業損益は、海外子会社における長期契約工事の将来コスト増加分を反映した影響などにより、前期の23億54百万円の利益から16億15百万円の損失となつた。
(海洋開発)
 三井E&Sの持分法適用関連会社であった三井海洋開発及びその関係会社において、FPSOの建造工事の順調な進捗による収益計上などにより、持分法による投資利益は、37億57百万円となった。前期と比べて26億9百万円減少(△41.0%)したのは、2024年6月に三井海洋開発の株式の一部を売却し、持分法適用の範囲から除外したことに伴い、同社グループに係る持分法による投資損益の認識が2024年1月から3月までの3ヵ月分となったことによる。

■今後の見通し
①対処すべき課題
 三井E&Sグループは、2022年度から前倒しスタートした2023年度中期経営計画で掲げた2025年度の経営数値目標を2023年度に前倒しで達成した。さらに、2024年度は中核事業の工事の順調な進捗、営業外損益の改善などから通期の業績予想を上方修正した。一方で、三井E&Sグループは、事業基盤の強化及び変化の激しい事業環境を踏まえ、3年後の姿を固定するのではなく常に更新し続け、成長し続ける姿を描くローリング式中期経営計画として「三井E&S Rolling Vision 2024」 (以下「RV2024」という。 )を2024年8月に策定した。
 
 RV2024において策定した以下の財務戦略、人材戦略、事業戦略を着実に実行し、翌年度にはその結果を反映したRolling Visionを新たに策定することで、持続的な成長と企業価値の向上を実現していく。

■次期の業績見通し
 2026年3月期(2025年度)の連結業績見通しは、売上高3,400億円(前年度比7.9%増)、営業利益240億円(同3.8%増)、経常利益230億円(同17.1%減)、親会社株主に帰属する当期純利益200億円(48.8%減)を見込んでいる。

 売上高については、2024年度までに受注した製品における製造の進捗を踏まえ、2024年度と比べ増収としている。営業利益については、2024年度と比べ増益を見込んでいるが、米国の政策が依然先行き不透明であることを鑑みた水準としている。経常利益については、関係会社株式売却に伴って持分法による投資利益が減少する見込みであること、親会社株主に帰属する当期純利益については、これに加え、2024年度に一過性の関係会社株式売却益を計上したことにより、それぞれ減益を見込んでいる。

 業績見通しにおける為替レートは1米ドル=140円を前提としている。

 三井E&S の2025年3月期決算短信

 決算説明資料