IHI、24年度売上は23.0%増の1兆6,268億円 25年度予想は1.4%増の1兆6,500億円

 IHIが5月8日に発表した2025年3月期(2024年度)連結業績によると、受注高は前期の一時的な減少の反動もあり、前期比27.2%増の1兆7,511億円、売上収益は前期での一時的な減少の反動に加えて、民間向け航空エンジンでのスペアパーツ販売の増加や東南アジアにおける大型発電所プロジェクトの進捗のほか、為替円安の影響などにより、23.0%増の1兆6,268億円となった。営業利益は事業構造改革費用や不適切行為に関連した費用の計上等の影響はあったものの、民間向け航空エンジンの大幅な増収により、2,136億円増益の1,435億円(前期△ 701億円)、税引前利益は1,384億円(同△723億円)、親会社の所有者に帰属する当期利益は1,127億円(同△682億円)だった。

 2024年度の世界経済は、欧州経済はエネルギーなどのコスト高や中国の内需減速を受けて低迷、中国経済は不動産市場の停滞に伴い低調な動きが継続する一方で、米国経済が牽引する形で全体としては緩やかに回復した。わが国経済についても、物価上昇の影響を受けながらも、雇用・所得環境の改善を背景に緩やかに回復している。

 主力事業である航空・宇宙・防衛事業において、民間向け航空エンジンでは、旅客需要の堅調な推移に伴ってスペアパーツ販売が一段と拡大している。防衛事業では、防衛力の抜本的強化の政府方針のもと、防衛予算が大きく増加しており、IHIグループにおいても継続して大型案件への受注対応を進めている。今後見込まれる民間向け航空エンジンや防衛事業、宇宙事業の需要拡大に応えていくため、リソース確保を含む生産能力の増強とともに、世界トップレベルの生産効率実現に向けた取り組みを進めていく。出荷済みのPW1100G-JMエンジンに関する追加検査プログラムについては、引き続きプログラムパートナーとともに整備能力増強を図り、地上駐機数の低減に向けた対応を進めている。顧客であるエアラインへの負担軽減及び信頼回復に取り組んでいく。

 中核事業におけるライフサイクルビジネスは、2024年度においては案件の端境期にあり一時的に減少しているが、中長期的に見れば安定的に成長が見込めるため、IHIグループの収益への貢献や投資原資の創出を図るべく、引き続き拡大に向けて取り組む。

 車両過給機事業においては、近年のEV化の動きによってドイツ欧州拠点での受注量減少が見込まれることから、当該欧州拠点の機能をイタリア所在の子会社に集約した。他地域グループ会社への生産移管等によって、欧州域内の自動車メーカー向けの供給責任を果たしていく。

 また、事業ポートフォリオ改革の取り組みとして、中核事業の一部である運搬機械事業、芝草・芝生管理機器事業及び連結子会社であるIHI汎用ボイラ、IHI建材工業について、事業の譲渡を決定した。ボラティリティを抑えながら安定的・持続的に成長できるポートフォリオを構築するため、引き続きスピード感を持って改革を継続していく。

 原動機事業のエンジン試運転記録に係る不適切行為については、不適切行為に関する事実関係の確認が終了し、NOx放出量確認結果への対応方針を策定したことから、2024年8月21日に国土交通省へ調査報告書を提出し、同10
月30日にIHI及びIHI原動機としての再発防止策を策定・公表した。2025年2月7日からは対象の顧客へ燃費補償実施の案内をしている。

 交通システム事業の除雪装置における不適切行為については、事実関係及び原因究明の調査結果を踏まえ、対象機種の除雪性能試験を網羅的に実施し、顧客への対応並びに再発防止策の策定を行った。

 2023年9月に公正取引委員会の立ち入り検査を受けた機械式駐車装置事業の件については、2025年3月24日に、独占禁止法に違反する行為があったと認定された。IHI運搬機械は、公正取引委員会に対し、課徴金減免制度の適用申請を通じて自主的に違反行為を申告した。その後一貫して公正取引委員会の調査に協力してきたため、課徴金の免除が認められ、また、排除措置命令も受けていない。

 不適切行為に対してIHIグループは、社長をはじめとする経営幹部からのメッセージ発信、社内規程の見直し、コンプライアンス教育の強化、人事ローテーションの推進、職場対話活動の実施等、再発防止の徹底に取り組み、不適切行為を起こさせない仕組み作りや組織風土の見直しなどの取り組みを進めてきた。コンプライアンス遵守を真の企業文化として定着するよう真摯に努め、ステークホルダーの皆さまからの信頼回復に一丸となって取り組んでいく。

■セグメント別の事業環境
<資源・エネルギー・環境>
 エネルギー供給上の地政学的リスクや各種コスト上昇、米国の政権交代に伴う政策変更など不確実性が高まる中で、エネルギーの安定供給を確保するためのエネルギー安全保障の重要性が高まっている。一方、中長期的な対応としての脱炭素化に向けた大きな潮流は変わっていない。今後、経済成長だけでなくDXやGXの進展によるエネルギー需要は一層の拡大傾向にあり、安定供給と脱炭素を両立させるエネルギー源、特に原子力等への注目が高まっている。

 この事業領域では、燃焼時にCO₂を排出しないアンモニアの利活用促進やインフラ整備とともに、原子力発電の再稼働、放射性廃棄物処理や除染廃炉など原子力事業の着実な展開、CO₂を資源として循環利用するメタネーショ
ン等のカーボンリサイクル技術の普及に取り組んでいる。また、既設のエネルギー・産業インフラにおいては高効率での稼働維持やデジタル技術を活用したメンテナンスの効率化など、環境負荷低減に資する付加価値の高いライフサイクルビジネスを展開する。こうした取り組みを顧客とともに推進し、エネルギーの安定供給及びカーボンニュートラル社会への移行に貢献していく。

<社会基盤>
 国内におけるインフラの老朽化や気候変動による自然災害の激甚化への対策として国土強靭化計画が引き続き推進されている。道路ネットワーク機能強化、老朽化橋梁の維持・修繕や流域治水の推進に加え、予防保全型インフラメンテナンスへの転換がさらに進展している。一方、建設分野における人手不足は依然として深刻で
あり、2024年4月から適用された建設業の時間外労働の上限規制の影響も継続している。このため、省人化・自動化技術の導入やDXの推進を通した生産性向上への取り組みがますます重要となっている。

 この事業領域では、国内外において、交通インフラ、防災・減災、水管理の分野で顧客の価値向上に向けたライフサイクルビジネスの拡大をさらに進めていく。加えて、AIやIoTを活用した点検・モニタリング技術など、デジタル技術を活用した革新的なソリューションを提供することで、強靭で持続可能な社会インフラシステムの構築に貢献していく。

<産業システム・汎用機械>
 産業界全体における資材価格と人件費の高騰は常態化しており、中国や欧州の景気減速、また米国の政権交代に伴う政策変更などによる国際サプライチェーンの変化など、市況は不透明な状況。その一方で、産業界におけるカーボンニュートラルへのニーズの高まり、先進国における労働生産人口減少による人手不足などが、産
業分野の中長期トレンドとして捉えられている。

 この事業領域では、脱炭素や人手不足等の産業界が抱える課題をビジネス機会と捉え、顧客のライフサイクルに応じた価値提供を拡大していく。加えて、自動化・省人化ニーズやモビリティ変革等における市場環境の変化に即応した付加価値の高いソリューションを提供することで、持続可能かつカーボンニュートラルな産業界の発展に貢献していく。

<航空・宇宙・防衛>
 民間向け航空エンジン事業では世界の旅客需要が堅調に伸びる中、アフターマーケットでの収益が拡大を継続している。また、防衛予算の増額、宇宙産業の市場拡大の流れを受け、防衛・宇宙事業においても、新たな価値創造を図り、競争力向上を目指す。一方で、サプライチェーンの混乱や物価高騰、米国の政権交代に伴う政策変更など地政学的な環境の変化は継続しており、将来の事業環境は依然として不透明なところもある。環境の変化に打ち勝つ事業体質構築に向け、デジタル基盤の活用等による生産効率改革、業務構造改革をさらに推進し、成長を加速していく。

 この事業領域では、出荷済みのPW1100G-JMエンジンに関する追加整備への対応に加え、今後の需要拡大への対応を進めているが、特にサプライチェーンの強靭化や、鶴ヶ島工場における修理棟建設などアフターマーケット分野での対応強化に注力している。加えて、次期戦闘機(GCAP)用エンジンの国際共同開発 や現行のPW1100G-JMの改良プログラムに独自技術をもって貢献するとともに、将来のカーボンニュートラルに向けた航空機の軽量化や電動化、グリーン燃料の活用などの次世代航空機に関する技術の開発を進めている。

■連結業績見通しについて
 世界経済は、先行きが不透明な状況が続く中、ウクライナや中東情勢を巡る地政学的リスクや中国経済への懸念に加え、米国新政権の政策動向の不確実性について注意する必要がある。米国の関税政策によってサプライチェーンの混乱や価格転嫁に伴う物価高騰など景気下振れリスクが懸念されている。わが国経済についても、雇用・所得環境が改善する中で緩やかに回復していくことが期待される一方で、その影響について引き続き注意する必要がある。

 IHIグループは、2023年度を初年度とする3か年の中期経営計画「グループ経営方針2023」に基づく取り組みを進めている。不確実性が高い経営環境が継続する中でも持続的な高成長を実現する事業へ変革するため、3か年の中期経営計画の最終年度となる2025年度では、成長をけん引する航空エンジン・ロケット分野の成長事業と、将来の事業の柱として期待されるクリーンエネルギー分野の育成事業、市場成長が見込めてかつ資本効率の高い事業への戦略的な経営資源のシフトを実行していく。

 成長事業である航空エンジン・ロケット分野では、確実に世界の航空機需要の伸びが予想される中で、民間向け航空エンジンにおける小型 ~大型・超大型クラスのベストセラーエンジンの開発 ・量産事業に参画している。今後の需要増加が期待されるアフターマーケットでの事業拡大を目指しており、整備事業については、自動化やDX高度化等により生産性向上を図り、高品質なサービスを迅速に提供する取組みを進めている。民間航空機用エンジン整備拠点の一つである鶴ヶ島工場においては2026年度に新修理棟の稼働の開始を予定しており、付加価値の高い部品修理需要の取り込みを加速していく。また、成長が見込まれる防衛関連事業や宇宙関連事業の拡大を目指し、生産能力の強化や必要な技術開発を進めていく。

 育成事業であるクリーンエネルギー分野については、IHIグループの技術力を活かしながら、燃料アンモニアに関する製造から貯蔵・輸送及び利活用に至るまでのバリューチェーンの構築を進め、カーボンフリーな世界の実現に貢献していく。

 中核事業である資源・エネルギー・環境、社会基盤、産業システム・汎用機械の各分野では、市場成長が見込め、IHIの強みが活かせる事業については安定的なキャッシュ創出に向け必要なリソースを投入するとともに、収益性・効率性の低い事業に関しては引き続き事業構造改革を推進し、事業ポートフォリオの変革を通して継続的な成長を実現する。

 2026年3月期の連結業績については 、売上収益1兆6,500億円(前期比1.4%増)、営業利益1,500億円(同4.5%増)、税引前利益1,350億円(同2.5%減)、親会社の所有者に帰属する当期利益1,200億円(同6.4%増)となる見通し。

 業績見通しにおける為替レートは、1米ドル=140円を前提としている。

 IHIの2025年3月期決算短信
 決算説明資料
 決算説明経営概要