川崎重工 、23年4〜12月期売上収益は2.7%増の1兆 2,290億円、通期予想は6.6%増の1兆8,400億円変えず

 川崎重工業が2月9日に発表した2024年3月期第3四半期累計(4〜12月)業績によると、連結受注高は前年同期比1,864億円減少の1兆2,901億円、連結売上収益は前年同期比 327億円増収の1兆2,290億円、事業利益は前年同期比801億円減益の7億円、税引前四半期損益は前年同期比900億円悪化の179億円の損失、親会社の所有者に帰属する四半期損益は前年同期比659億円悪化の134億円の損失となった。

 川崎重工2024年3月期第3四半期データ

 世界経済は、米国では良好な雇用情勢や所得環境により、個人消費を中心に堅調さを維持しているものの、金融 引き締めによる景気減速が懸念されている。更に、不動産不況の長期化による中国経済の低迷、地政学リスクの 増大など、世界経済の先行きは不確実性が高まっている。国内においては、個人消費やインバウンド需要に加え、好調な企業収益、それに伴う設備投資などにより景気回復が続いているが、今後の物価上昇に伴う消費マインドへの影響が懸念される。

 このような経営環境の中で、第3四半期連結累計期間における同社グループの連結受注高は、航空宇宙システ ム事業などで増加となったものの、車両事業、精密機械・ロボット事業などでの減少により、全体でも減少となった。連結売上収益については、精密機械・ロボット事業などが減収となったものの、車両事業、エネルギーソ リューション&マリン事業などでの増収により、全体でも前年同期比で増収となった。

 利益面に関しては、事業利益は、エネルギーソリューション&マリン事業などでの増益はあったものの、航空宇宙システム事業、パワースポーツ&エンジン事業、精密機械・ロボット事業などでの悪化により、前年同期比で減益となった。親会社の所有者に帰属する四半期損益は、事業利益の悪化などにより、前年同期比で悪化となった。

■セグメント別業績の概要

<航空宇宙システム事業>

 航空宇宙システム事業を取り巻く経営環境は、防衛省向けについては抜本的な防衛力強化という防衛省の方針の もと、今後の需要増が期待される。民間航空機については、航空旅客需要はほぼコロナ前水準に回復しており、 機体のコロナリバウンド需要が旺盛なことから、機体・エンジンともに需要が増加している。このような経営環境の中で、連結受注高は、防衛省向けや民間航空機向け分担製造品が増加したことなどにより、 前年同期に比べ1,317億円増加の3,325億円となった。

 連結売上収益は、防衛省向けや民間航空機向け分担製造品、民間航空エンジン分担製造品などが増加したものの、 民間航空エンジンの運航上の問題に係る損失を一括計上したことなどにより、前年同期に比べ30億円減収の2,355億 円となった。事業損益は、防衛省向けや民間航空機向け分担製造品などの増収による増益はあるものの、民間航空エンジンの運航上の問題に係る損失を一括計上したことなどにより、前年同期に比べ492億円悪化して355億円の損失となった。

<車両事業>

 車両事業を取り巻く経営環境は、新型コロナウイルスの収束により利用者数が回復し、国内外で鉄道車両への投 資が再開しつつある。一方で、足元への影響は限定的ではあるものの、電子部品等の供給不足や物流混乱、原材料価格の高騰については、収束が見えつつも注視が必要。中長期的には、海外市場では都市交通整備、アジ ア諸国の経済発展に伴う鉄道インフラニーズなど、今後も世界的に比較的安定した成長が見込まれる。このような経営環境の中で、連結受注高は、ニューヨーク市交通局向け新型地下鉄電車等の大口案件を受注した 前年同期に比べ2,525億円減少の418億円となった。

 連結売上収益は、国内向け車両が減少したものの、米国向け車両が増加したことなどにより、前年同期に比べ434 億円増収の1,358億円となった。事業利益は、国内の操業低下があったものの、増収による増益などにより、前年同期に比べ18億円増益の26億円 となった。

<エネルギーソリューション&マリン事業>

 エネルギーソリューション&マリン事業を取り巻く経営環境は、世界的なカーボンニュートラルの実現を目指す動きの影響を強く受け、同社が強みとする水素製品をはじめ、脱炭素ソリューションに関する問い合わせや協力要請が増加している。また、国内外の分散型電源需要及び新興国におけるエネルギーインフラ整備需要は依然根強く、国内ごみ焼却設備の老朽化更新需要も継続している。一方、発電設備の稼働に必要な燃料ガスの供給安定性など足元の状況に不透明感があるほか、昨今の原材料価格や資機材・燃料費の高止まり等による受注、売上収益へ の影響には注視が必要。このような経営環境の中で、連結受注高は、防衛省向け艦艇用機器などの受注はあったものの、国内向けごみ処理施設整備・運営事業の大口案件やLPG/アンモニア運搬船の受注の多かった前年同期に比べ206億円減少の2,812億 円となった。

 連結売上収益は、LPG/アンモニア運搬船を中心とした船舶海洋分野やエネルギー分野を主要因として、前年同期に比べ219億円増収の2,343億円となった。事業利益は、船舶海洋分野の増収等による増益、エネルギー分野の増収による増益などにより、前年同期に比べ 73億円増益の166億円となった。

<精密機械・ロボット事業>

 精密機械・ロボット事業を取り巻く経営環境は、精密機械分野では、中国以外の地域における建設機械市場については堅調に推移したが、中国建設機械市場は、不動産不況の長期化等の影響により需要が低迷した。ロ ボット分野では、半導体製造装置向けロボットの需要の低迷が底を打ち、2024年度からAI関連やグリーン投資関連等の新たな需要を取り込みつつ、回復していく。一方で、一般産業用ロボットは、最大の需要国である中国の景況が依然として低調であり、在庫調整が長期化しているが、人件費上昇や労働力不足による自動化需要は確実に高まっている。このような経営環境の中で、連結受注高は、中国建設機械市場向け油圧機器や産業用ロボット全般が減少したことなどにより、前年同期に比べ399億円減少の1,576億円となった。

 連結売上収益は、中国建設機械市場向け油圧機器や産業用ロボット全般が減少したことなどにより、前年同期に比べ204億円減収の1,587億円となった。事業損益は、減収に加え、操業低下の影響などにより、前年同期に比べ118億円悪化の43億円の損失となった。

<パワースポーツ&エンジン事業>

 パワースポーツ&エンジン事業を取り巻く経営環境は、主要市場である米国と欧州では需要は堅調に推移してい るものの、前年度のサプライチェーン混乱が収束し各メーカーの供給量が増えた結果、市場競争が激化している。また、中国経済の減速を受けて、レクリエーション需要が弱まっていることから全般的に中大型二輪市場が縮 小しつつある。

 このような経営環境の中で、連結売上収益は、北米向け四輪車と欧州向け二輪車が増加したものの、中国、東南 アジア向け二輪車と汎用エンジンが減少したことなどにより、前年同期に比べ93億円減収の4,044億円となった。事業利益は、減収に加え、固定費の増加や、米国向け四輪車に係るリコール関連費用(※)の計上などにより、 前年同期に比べ217億円減益の320億円となった。

※ 米国向け四輪車の一部機種におけるリコールに関し、米国消費者製品安全委員会から制裁金を課す旨の通知を 受領したもの。

<その他事業>

 連結売上収益は、前年同期並みの602億円となった。事業利益は、前年同期に比べ18億円減益の15億円となった。

 川崎重工グループは「グループビジョン2030」において、注力するフィールドを「安全安心リモート社会」「近未来 モビリティ」「エネルギー・環境ソリューション」とし、手術支援ロボットをはじめとする医療・ヘルスケア事業、 配送ロボットや無人輸送ヘリコプタの事業化、カーボンニュートラル社会の早期実現に向けた水素事業や電動化の 推進など、社会課題ソリューション創出への取組を着実に進めている。

 更に、能登半島地震の被災地のいち早い復興への支援に協力するとともに、今後可能性が高まる様々な自然災害 へ対応できる支援パッケージの充実に努めていく方針。

■連結業績予想などの将来予測情報に関する説明

 2024年3月期の売上収益は、エネルギーソリューション&マリン事業における増収の一方、精密機械・ロボット事業における販売見通しの引き下げにより、前回公表(11月8日)据え置きの1兆8,400億円となる見通し。事業利益は精密機械・ロボット事業の減収に伴う減益や、パワースポーツ&エンジン事業における米国向け四輪 車に係るリコール関連費用の計上などがあるものの、航空宇宙システム事業やエネルギーソリューション&マリン事業の収益性改善などによる増益により、前回公表から30億円増益の430億円となる見通し。税引前利益は210億円、親会社の所有者に帰属する当期利益は120億円、税後ROICは1.5% 、ROEは2.0%となる見通し。

 連結受注高は、航空宇宙システム事業における防衛省向けの増加やエネルギーソリューション&マリン事業における国内向けごみ処理施設の増加により前回公表値から400億円増加の1兆9,500億円となる見通し。

 なお、業績予想における為替レートは、1ドル=140円、1ユーロ=150円を前提としている。

 川崎重工業の2024年3月期 第3四半期決算短信

 第3四半期決算説明資料