日立建機の先崎社長、新年度記者会見で世界の需要動向や中期経営計画などを説明

・過去最高の売上収益、当期利益を目指す

・中計浸透で「トップキャラバン」実施

 日立建機の先崎正文社長は5月10日、新年度メディア合同ミーティング(対面・オンライン併催)を開催し、2022年度を振り返るととともに、23年度における建設機械の世界需要、今年度からスタートした新しい中期経営計画などについて概ね次のように語った。以下、順不同で内容を抜粋。

■先崎社長の挨拶

 2022年度の結果を総括すると、中期経営計画の目標を上回って、売上収益、調整後営業利益ともに過去最高を達成することができたと考えている。2022年3月より、米州で独自展開を再開したが、これが前年度比で大幅に増収したことに加え、これまで注力してきたバリューチェーンおよびマイニングビジネスが実を結んできた結果、大幅な増収が達成できた。旺盛な需要もあるが、それに十分対応し、収益力が付加されてきた。

 2023年度において、中型(コンストラクション)とマイニング(鉱山)関係の需要は、少し下がるかもしれないが、概ね前年度と同じような需要環境、円高の前提条件の背景のもと、当社は、米州事業の独自展開、そしてバリューチェーン事業の拡充などの施策を通して、さらに過去最高の売上収益、当期利益を目指していきたい。

 また、2023年度から始まった新しい中期経営計画では、真のソリューションプロバイダー(提供者)としての成長を目指すべく、4つの経営戦略を柱に据えた。今中計は、トップラインを伸ばすことを目標とするのではなく、市況の浮き沈みにかかわらず利益率を大きく改善していくことを主眼に置いている。結果として、調整後営業利益率13%以上、営業キャッシュフローマージン10%以上といった新しい定量目標を定めた。

 現在、昨年来の資本関係の変化に加え、米州の独自展開を再開したという、まさに当社にとって「第二の創業」といってもよい時期。新しい中期経営計画で掲げた経営戦略をしっかりと進めていきたい。

 また、昨日(5月9日)から中期経営計画を浸透させるべく「トップキャラバン」も始めた。向こう1カ月で30回ほど行う。5月末にはアメリカにも行き、中計を中心に、事業として伸ばすところをさらに拡大していき、当社のソリューション(ハードとソフト、コトとモノのセット)を世界2万5,000人とともに進もうという、トップキャラバンを実施していく。

■質疑応答

・・・・・米州事業のうち中南米についての取り組みは。

 先崎社長(以下、省略):中南米についても、コンパクト、コンストラクション、マイニングに分かれるが、とくに数値目標をもっている訳ではない。コンストラクションでは市場の大きい国、メキシコなどでは代理店との交渉を進めており、うち何か所かは今年度から始められる。南米の一番大きな市場はブラジルだが、特殊な関税もあり少し準備が必要。中計期間中には、いろんな事を進めていくが、優先順位としては、少し下げざるを得ない。やらないということではなく、準備に時間がかかるということ。

 一方、南米のマイニングは、大きな市場というのは誰しもが認めるところで、日立建機としてもぜったいそこに入っていこうと思っている。すでにフットプリント(拠点)としては、連結会社のBradken や、H-E Partsが拠点を有しており、まずはこれらをベースにし、さらに拠点を増やしながら顧客との接点を増やしていきたい。正直に申して、南米のマイニング市場というのは、とても複雑というか「固い(シェア等が固まっている意味か)」。ここに進出するのはやはり準備が必要。今年度から進出するが、準備をしっかり固め、次の中計に向けてしっかり準備をする。

 対して、北米のマイニング市場は、当社に大きく開かれている。まず、そこで実績を上げながら南米のマイニング市場に臨みたい。ダンプトラックが大きな市場なので、導入する機械と、当社のソリューションをセットにするスタイルを確立していく。

・・・・・建機の市場環境と価格競争に関しては。

 当社は市場を選ぶことをしないで、市場が当社を選ぶというふうに考えている。すなわち、当社は世界の全てが「お客様」。つまり顧客のニーズというのは不変だ。例えば、東南アジアでは、新車の価格競争が厳しくなっているが、ライフサイクルコストを見たとき、ConSiteで顧客に対し、故障しないとか、故障予知だとかを提案することで、単純な新車のコストではない、顧客のメリットに訴求する態勢がとれていく。このあたりが、当社の戦い方だと思っている。その戦い方の中で、顧客が機械を選ぶときに、選ばれるよう対応していく。当社は世界の9つの地域事業をやっているが、当社から、どの地域の比率を減らしていくというようなことはない。

 一方、中国は非常に厳しい状態になっている。中国に関しても、日立建機はしっかりとした立場(立ち位置)をつくる。昨年、販売会社も新組織に変え、人事や代理店との関係も変えつつある。代理店の方でも当社に対する期待も高いし、当社も彼らの期待に沿うべく、サービス性の向上や、比較的大きなものへシフトすることも進めている。

・・・・原材料や製品価格の値上げ、その対応策ついては。

 中国の生産拠点としての重要性は、過去からも現在も変わらない。あれだけの人口・面積規模、建機のすそ野もどんどん広がっている。そういうなかで、当社は、製缶部品(鋼板)を中心にヨーロッパへの輸出、日本への逆輸入も進めてきた。加えて、本体の一部、新しい排ガス規制車(中国の規制より高いレベル)をヨーロッパ方面に輸出し始めている。

 鋳物についても、中国には、Bradkenの中国工場があり、そこの鋳物の競争力が非常に高く、そこから世界に向けて輸出している。オーストラリアについても、製缶構造物の板のようなものは、中国から供給している。

・・・・・世界の拠点における稼働状況や投資計画については。

 本体ベースによる世界での生産拠点は、日本、中国、インド、インドネシア、形態は異なるがオランダ、そしてロシアが拠点。部品という面では、Bradken や、H-E Parts拠点を含めると南米、オーストラリアなどにも数多くある。

 現在、日本の拠点は非常に繁忙な状態になっている。中国においても欧州向け本体を生産するようになったことから繁忙感は強いが、設備能力は少し余裕がある。人を採用していけば、もう少し生産できることは間違いないが、採用のタイミングとの問題ある。東南アジアでは、中型建機とマイニング系の部品とがかなり繁忙状態にある。インドも少し市場反転の気配があり、今年度の生産計画も高めている。未知数ではあるが、人材の採用が必要になるぐらいだ。

 このように総じて各拠点とも繁忙状態だが、かといって生産できない状態ではなく、人材を確保していくことが、次期の販売・生産計画に対応することである。工場は利益を出すため、いつも稼働率を高めていくことが必要で、人を採用しながら生産能力を確保している状況だ。

・・・・・生産と投資の方向性は。

 現在、大きな投資は、日本国内で行っており、当社では「再編」と称している。播州工場(兵庫県)は、ホイールローダを龍ケ崎工場(茨城県)に集約・統合し、播州工場は世界の再生(リマン)工場の拠点としていく再編を進めている。ミニ建機の日立建機ティエラ(滋賀県)の生産能力増強も継続的に行っている。

 一方、アメリカの拠点(日立建機アメリカ)については、今中期経営計画中では大きな生産拠点を設けるのではなく、中型ショベルを本格生産するような計画は組んでいない。要望により機械を改造するような形となる。その中で、いまの中国、インドネシア、インド、日本の再編成を行いながら、合理化とともに生産能力の増強を進めていく。

・・・・鉄鋼製品など調達に関する考え方は。

 世界の鉄鋼市況を毎日ウォッチしており、その変動が建機の原価に与える影響は理解している。鉄の場合などは、輸送に関する大きな制約もあり、すぐに対策を打てるものではない。また、グリーンスチールのことは世界の課題であると認識しており、鉄鋼メーカーや政府との話し合っていく必要がある。

・・・・・建設機械の世界需要と競争環境については。

 建設機械の顧客は、部品やサービスを求めており、「壊れない」というサービスを求めている。建機業界は、これまで販売した商品のストックでビジネスを展開している。今後、新車販売が伸びないということではなく、部品・サービスの売上がそれ以上に伸びるということだ。ちなみに、2022年度、日立建機のマイニング売上高は2,531億円、うち新車が1,085億円、部品・サービスが1,445億円。つまり新車より部品・サービスの売上高が利益の源泉となりうる。

・・・・・研究開発投資と電動化については。

 電動化などへの投資も含めて、売上高の3%を研究開発投資としている。この間、売上高が想定以上に伸びたこともあるが、いままで明確にできた訳ではない。研究開発投資は、将来のために継続的やっていかなければならないが、大きな流れは、自社単独ではなく、電気はマイニングでABBと提携、エコパートナーとして取り組んでいる。電動化建機については、欧州で4機種ラインナップすることになっており、一部コストを意識したモデルも開発中で、ラインナップを増やして顧客ニーズに対応していく。

・・・・・世界と日本の建機需要については。

 日本の需要環境は、私が入社した当時(1991年)、営業担当役員によると、世界の油圧ショベル需要は年間10万台。うち日本が2万5,000台で、世界の4分の1だった。それが現在、中国メーカーを含めると約40万台と4倍に増え、日本は2万4,000台前後で推移している。日本国内の建設投資や住宅投資が一定の底堅いものがあり、需要環境が急激に変わることはなく、日本から一定の中古車が東南アジアに出ている構造が変わらない限り、需要は大きく変わることはないだろう。

 世界の需要見通しは、分かりにくいが、中計期間の3年程度でみると、いったん下がるかもしれないが、また元に戻るとみている。世界需要は、今後、人口が増え都市化し、国が栄えることを考えれば、建設機械は「地面とやさしく調和」していくので増えていくと思っている。基本的に、建設機械は成長産業であるという見方は変えていない。

 日立建機の2023年3月期決算説明と中期経営計画