川崎重工業が8月12日に発表した2023年3月期第1四半期(4〜6月)業績によると、連結受注高は前年同期比1,078億円増加(35%増)の4,120億円、連結売上収益は前年同期比52億 円減収(1.5%減)の3,503億円、事業利益は前年同期比139億円減益(75.7%減)の45億円、税引前四半期利益は前年同期比64億円減益(37.6%減)の106 億円、親会社の所有者に帰属する四半期利益は前年同期比60億円減益(52.6%減)の54億円となった。
連結受注高は、エネルギーソリ ューション&マリン事業、航空宇宙システム事業などの増加により増加となった。連結売上収益については、 モーターサイクル&エンジン事業などが増収となる一方で、エネルギーソリューション&マリン事業、航空宇宙シ ステム事業などが減収となったことにより、全体では前年同期比で減収となった。
事業利益は、航空宇宙システム事業、精密機械・ロボット事業での悪化などにより、前年同期比で減益となった。親会社の所有者に帰属する四半期利益は、為替差損益の改善はあったものの、事業利益の減益などにより、減益となった。
4~6月期における世界経済は、先進国を中心に新型コロナウイルス感染症対策と社会経済活動の両立を模索しており、雇用・所得環境の改善、個人消費の回復、脱炭素に向けた投資や国際間の航空旅客需要の増加など、持ち直しの動きが続いて いる。一方、ウクライナ情勢の長期化や米中関係の緊張増大、資源・エネルギー価格の上昇、サプライチェーン の混乱、欧米の金融引き締め政策の影響等による景気下振れリスクなど、世界経済の先行きに対する不確実性は高まっている。日本経済についても、企業の設備投資や行動制限の緩和を受けた個人消費は回復基調にあるものの、コロナ「第 7波」の拡大や円安進行に伴う物価上昇圧力による景気の減速懸念があり、引き続き注視していく必要がある。
■セグメント別業績
<航空宇宙システム事業>
航空宇宙システム事業を取り巻く経営環境は、防衛省向けについては厳しい防衛予算の中で概ね安定した需要が存在している。民間航空機については、新型コロナウイルス感染拡大により低迷していた航空旅客需要は、アジア等における回復遅れやウクライナ情勢の影響で先行き不透明な状況にあるものの、経済活動再開を優先する諸国が増加してきていることから、回復が進んでいる。
このような経営環境の中で、連結受注高は、防衛省向けや民間航空エンジン分担製造品が増加したことにより、 前年同期に比べ230億円増加の604億円となった。
連結売上収益は、民間航空エンジン分担製造品が増加したものの、防衛省向けや民間航空機向け分担製造品が減少したことにより、前年同期に比べ66億円減収の634億円となった。
事業損益は、民間航空エンジン分担製造品が改善したものの、防衛省向けや民間航空機向け分担製造品が悪化したことにより、前年同期に比べ46億円悪化して89億円の損失となった。
<車両事業>
車両事業を取り巻く経営環境は、新型コロナウイルス感染拡大の影響により国内では鉄道関連投資計画の見直し、 海外では工程の遅れや入札の延期等が現実となりつつある。また、足元への影響は限定的ではあるものの、電子部品等の供給不足や物流混乱、原材料価格の高騰については注視が必要。中長期的には、人口集中による大都市の混雑緩和や環境対策のための都市交通整備、アジア諸国の経済発展に伴う鉄道インフラニーズなど、今後も 世界的に比較的安定した成長が見込まれる。
このような経営環境の中で、連結受注高は、国内向け新型通勤電車などの大口案件を受注したことにより、前年同期に比べ、23億円増加の117億円となった。
連結売上収益は、米国向け車両が減少したことなどにより、前年同期に比べ23億円減収の264億円となった。事業損益は、減収はあったものの、前年同期並みの1億円の損失となった。
<エネルギーソリューション&マリン事業>
エネルギーソリューション&マリン事業を取り巻く経営環境は、世界経済が新型コロナウイルス感染拡大の影響による停滞から正常化に向かう中、回復基調を維持している。国内外の分散型電源需要、及び新興国におけるエネルギーインフラ整備需要は依然根強く、国内ごみ焼却設備の老朽化更新需要も継続している。また、LPG運搬船に関する商談も底堅い状況。更には、世界的にカーボンニュートラルの実現を目指す動きが強まっており、川崎重工が強みとする水素製品をはじめ、脱炭素ソリューションに関する問い合わせや協力要請が増加している。一方、 昨今の原材料価格や資機材・燃料費、輸送運賃の高止まり等による損益への影響には注視が必要。
このような経営環境の中で、連結受注高は、LPG運搬船の受注増加や国内向けごみ処理施設整備・運営事業などの 大口案件の受注などにより、前年同期に比べ636億円増加の1,245億円となった。
連結売上収益は、LPG運搬船の工事量増加はあったものの、国内向けごみ処理施設案件の工事量減少などにより、 前年同期に比べ68億円減収の635億円となった。
事業損益は、持分法損益の改善はあったものの、国内向けごみ処理施設案件の工事量減少などにより、前年同期 に比べ4億円悪化して0億円の損失となった。
<精密機械・ロボット事業>
精密機械・ロボット事業を取り巻く経営環境は、精密機械分野では、中国以外の地域における建設機械市場については堅調に推移しているものの、中国建設機械市場は、ゼロコロナ政策に伴うロックダウン等の影響により需要 が低迷し、全体としては低調に推移した。
ロボット分野では、半導体メーカーの高水準の設備投資が継続する 中で、半導体製造装置向けロボットが好調に推移し、汎用ロボットも、自動化投資の高い需要が続いている。一 方で、電子部品等の供給不足や中国でのロックダウン等、サプライチェーンの課題により供給が制約される状況が 続いたが、現在はロックダウンの影響は解消し、電子部品の供給不足も改善の方向に向かっている。
このような経営環境の中で、連結受注高は、中国建設機械市場向け油圧機器が減少したものの、為替相場が円安 で推移したことや、半導体製造装置向けをはじめとする各種ロボットの増加により、前年同期に比べ28億円増加の 679億円となった。
連結売上収益は、為替相場が円安で推移した影響があったものの、中国建設機械市場向け油圧機器が減少したことにより、前年同期に比べ50億円減収の526億円となった。 事業利益は、減収及びロックダウンによる操業の低下などにより、前年同期に比べ31億円減益の14億円となった。
<モーターサイクル&エンジン事業>
モーターサイクル&エンジン事業を取り巻く経営環境は、新型コロナウイルス感染拡大による市場への影響が継続している。主要市場である米国では、前年度に引き続き、四輪車等オフロードモデルの需要が旺盛であり、欧州市場も堅調に推移しています。一方で、東南アジア市場は前期よりは回復したものの依然として先行きが不透明 な状況が継続している。また、半導体や原材料の不足、物流の混乱等により、製品供給にも影響が及んでいる。
このような経営環境の中で、連結売上収益は、製品供給不足による北米向け四輪車や欧州向け二輪車の減少などがあったものの、北米向け及び東南アジア向け二輪車が増加したことに加え、為替レートが円安に推移したことな どにより、前年同期に比べ125億円増収の1,260億円となった。
事業利益は、増収に加え、前年同期に比べ為替レートが円安で推移したものの、原材料費、物流費の高騰、固定 費の増加などにより、前年同期に比べ20億円減益の128億円となった。
<その他事業>
連結売上収益は、前年同期に比べ30億円増収の183億円となった。 事業利益は、前年同期に比べ3億円増益の13億円となった。
川崎重工グループはグループビジョン2030において、注力するフィールドを「安全安心リモート社会」「近未来モビ リティ」「エネルギー・環境ソリューション」とし、より成長できる事業体制への変革を目指しており、手術支援 ロボットの開発や自動PCR検査事業、更には、配送ロボットや無人輸送ヘリコプターの開発、水素関連プロジェクト の推進など、新事業への取り組みを着実に進めている。
■連結業績予想などの将来予測情報に関する説明
川崎重工は2023年3月期第1四半期よりIFRSを任意適用しているため、2023年3月期の連結業績見通しも IFRS に基づき算定している。売上収益については、前提となる為替レートを1ドル=120円から125円に見直したこと等により、前回(5月10日)公表値から100億円増収の1兆6,900億円となる見通し。
利益面では、各種コスト増の影響や精密機械・ロボット事業における中国建機市場減速の影響はあるものの、為替前提レートの変更等により、事業利益は前回公表値から30億円増益の560億円、税引前利益は520億円、親会社の 所有者に帰属する当期利益は320億円、またROICは5.3%、ROEは6.4%となる見通し。
連結受注高は前回公表値から300億円増加の1兆6,000億円となる見通し。
なお、業績予想における為替レートは、1ドル=125円、1ユーロ=130円を前提としている。
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