日本産業機械工業会、政策当局に対し政策を提言、総会決議を公開

 日本産業機械工業会は6月3日、2022年5月23日に行われた総会決議を公開した。以下、原文。

決議 (2022年5月23日 於 定時総会)

 一般社団法人日本産業機械工業会

 世界経済は、ロシアのウクライナ侵攻とそれに伴う経済制裁、更にコロナウイルスの新たな変異株等によって不確実性が増している。国内経済は緩やかな回復が続いてきたものの、資源・原材料価格の高騰や需給の逼迫等により、先行きの不透明感が増している。

 こうした中、わが国の経済再生を進めていくためには、ウィズコロナ・ポストコロナにおける新しい経済社会の構築に向け、官民で経済再興に取り組む必要がある。

 また、わが国が宣言した2050年のカーボンニュートラルを目指すためには、国際情勢を踏まえたエネルギーミックスの実現や、省エネルギー対策の更なる推進が必要である。

 更に、新型コロナウイルス感染症拡大局面においては、人流・物流が停滞し、ITの活用によるビジネスモデルや働き方を変えていく、いわゆるデジタルトランスフォーメーション(DX)の必要性を顕在化させた。
 加えて、半導体などの重要部品の供給不足や資源・原材料価格の高騰が製造業に影響を及ぼしており、機械産業の基盤の強化や経済安全保障のためには、強靭なサプライチェーンを構築する必要がある。

 我々産業機械業界は、感染拡大の防止に向けた取り組みを徹底し、新型コロナ収束後の社会を見据え、生産性向上や競争力強化を図る必要がある。

 こうした認識のもと、当工業会は政策当局に対し以下の政策を提言する。

1.新型コロナ対策に関する施策
(1)新型コロナ対策については、ワクチン接種の加速や、治療薬の提供、医療提供体制の整備等、次なる波の到来に備えると共に、欧米の動向を踏 まえ、パンデミックからエンデミックへの移行を踏まえた対応を進めること。

(2)今後の水際対策については、科学的知見に基づき、各国の入国管理の動向も踏まえ、新たな変異株にも対応可能な体制を整備しながら、入国管理の緩和を図ること。

(3)民間企業の社員が海外出張しやすい環境を整えるため、海外渡航用の新型コロナワクチン接種証明書が使用可能な国・地域の拡大に向けた相手国政府への働きかけを継続すること。

2.資源・原材料価格の高騰、需給逼迫に関する施策

(1)資源・原材料価格の高騰等が国民生活や企業活動に影響を及ぼしている。供給対策が必要なレアメタル等の資源国への働きかけや代替調達に関する支援など、必要な対策を図ること。

(2)半導体等の供給不足の問題は、自動車産業のみならず、我々産業機械業界においても顕在化している。コロナ関連にて不足、不都合が生じてい る生産設備への投資を促進させる「サプライチェーン対策のための国内 投資促進事業」等の対象分野の拡大を図ること。また、部品在庫の積み増しに対する税制措置等の支援を行うこと。

(3)資源・原材料価格の高騰を反映し、社会インフラ整備等の公共工事については、設計単価や請負価格等を速やかに見直すこと。

3.カーボンニュートラル、循環型経済等のエネルギー・環境問題に関する施策

(1)2050年カーボンニュートラル実現に向けては、官民一体となったイノベーションの創出が不可欠であり、昨年創設されたグリーンイノベー ション基金はもとより、引き続き大規模かつ積極的な財政支援と、産業 界の自主的な技術開発や設備投資を後押しする支援策のさらなる強化を図ること。

(2)エネルギー政策の基本であるS+3Eにおいて、改めて安定供給の重要性が高まっており、ベースロード電源である原子力発電については、安全性を大前提とした再稼動を早急に進めること。

(3)再生可能エネルギーの比率を引き上げることは重要である一方、当面の間の電力の安定供給の鍵を握る火力発電については、高効率化・低炭素 化による活用を推進するなど、現実的かつ合理的なエネルギーミックスを実現すること。

(4)脱炭素化に不可欠な熱源としての水素・アンモニアや、CCS・CCUSに関するイノベーションを加速すると共に、利活用を推進すること。

(5)より多くの事業者が省エネ投資に積極的に取り組めるよう、省エネ効果や脱炭素効果の高い製品・サービスを評価・認証する仕組み等を整備す ると共に、これら省エネ投資への税制優遇措置等の支援を拡充すること。

(6)開発途上国における、既設の石炭発電設備に対する排ガス処理装置(脱硫、脱硝装置等)に対する資金調達が困難になっており、政府系金融機関の融資を支援すること。

(7)石油精製、化学、鉄鋼、電力等の多様な産業が集積するコンビナート全体のカーボンニュートラルを促進するため、脱炭素エネルギーや炭素循 環マテリアルの受入・生産・供給等の共同利活用の実現に向けた設備投資や技術実証等に対する各種支援を充実させること。

(8)循環型経済への移行を加速させるため、プラスチック・レアメタル等の国内循環の強化に向けた民間設備投資等への支援策を充実させること。

(9)製品に内蔵されたリチウムイオン電池が、リサイクル施設で火災の原因となっている。国内製品においては、必ず分解して取り外せる仕様と し、マークを付けることを義務化すること。海外製品においては、分解できない製品は、輸入規制等を行うこと。

4.産業競争力強化に関する施策について

(1)わが国産業のデジタルトランスフォーメーション(DX)を加速し、新たな成長、働き方改革を実現していくため、IoT・AI技術に関する 技術者の育成、DXに関する研究開発等への支援をより一層強化するこ
と。

(2)労働力不足へ対応するために、様々な製造現場や工事現場でのIT活用や自動化設備の本格的な導入に向けて、その実証・普及に関する支援の強化を図ること。

(3)少子高齢化に伴う生産年齢人口の減少により労働力確保が懸念される中、多様な人材の活用が不可欠であり、女性・高齢者の雇用環境の整 備、外国人材の活用拡大等、各種施策を総合的に進めること。併せて、
弾力的な働き方ができるよう労働規制のさらなる緩和を図ること。

(4)国際標準化においては、企業が単独で対応することが困難であり、業界全体としての取り組みが重要度を増しているものの、人材、費用等が大 幅に不足している。国際標準化活動における幹事国・議長業務、専門人 材雇用に係る費用への手当て、国内対応委員会の活動等、産業界に対する政府支援を大幅に充実すること。

(5)深刻化するサイバー攻撃への対処は、企業単位では限界があり、セキュリティー確保に向けた更なる規制や防御の取り組みを図ると共に、インセンティブ付与等による中小企業対策をより強化すること。

(6)為替の急変動を回避しつつ適正な水準を実現するため、各種施策を機動的・戦略的に展開すること。

5.経済安全保障に関する施策

(1)サプライチェーン強靱化や基幹インフラの信頼性確保など経済安全保障への対応を推進すること。

(2)経済安全保障推進法についは、過度な規制強化とならないよう、産業界の意見を反映した政令条例等の整備を進めていくこと。

6.防災・減災・国土強靱化に関する施策

(1)気象災害は激甚化・頻発化し、また、南海トラフ、首都直下型地震等の大規模地震の発生も予想される。防災・減災・国土強靱化のための緊急 対策や社会インフラの老朽化対策等の公共投資への各種優遇施策を着実に実施すること。

(2)自然災害以外の要因も踏まえた企業のBCP対策に伴う設備投資等への税制優遇措置等の支援策の拡充を図ること。

○当業界のなすべき事項(決意)

1.わが国の再生、競争力の強化

(1)新型コロナウイルス感染拡大の防止に向けた取り組みを徹底するとともに、コロナ下のニーズの変化を捉え、新たな価値創造や構造改革に挑戦していく。

(2)日本経済の成長力を押し上げるために、イノベーションの加速やDXの推進により、他国をしのぐ高付加価値製品・サービスを追求し、ウィズコロナ・ポストコロナにおけるわが国産業の競争力強化に貢献する。

(3)「2050年カーボンニュートラル」の実現に向けて、脱炭素化に向けた水素等の次世代エネルギー・電力システムに必要となる革新的技術の開発に取り組む。

(4)産業機械の標準化・規格化を推進し、市場のグローバル化への対応を図ると共に、更なる産業の発展を目指す。

(5)「適正取引の推進に向けた行動計画」に基づき、より良い企業間取引の構築と、サプライチェーン全体の付加価値・生産性向上を目指す。

(6)顧客、投資家、従業員及び社会からの期待に応え、産業界の一員として法令の遵守を含めた社会的責任を果たしていく。

(7)産業振興に寄与する対策を検討し、取りまとめた上で政策当局に提言していく。

2.地球環境問題への対応

(1)脱炭素社会の実現に貢献する省エネ機器の普及促進に努める。

(2)循環経済の推進に向けて、廃棄物の適正処理やリサイクルに関するイノベーションを加速するとともに、日本の先進的な製品やソリューションを国外に発信・展開し、世界のグリーン成長に貢献する。

(3)事業活動に伴う廃棄物の排出削減・リサイクル率向上、揮発性有機化合物(VOC)の使用削減を推進すると共に、「環境活動報告書」の内容の充実を図る。

3.国際協力・国際交流の推進

(1)コロナ下で中断・延期した海外インフラ・プロジェクトの再開等に政府と連携して取り組むとともに、現地メーカや団体等との技術交流、啓発・普及活動を推進する。

(2)ウクライナ情勢及び対露経済制裁に関する情報収集や海外駐在員の派遣等、海外ビジネス環境に関する動向調査を実施する。

(3)海外の産業機械業界との協調関係をより強化する。

4.その他

(1)経済対策、税務問題、労務問題、法務問題等を検討し、業界の発展に資する意見を取りまとめる。

(2)従業員、企業、業界の組織的努力により安全意識をさらに向上させ、産業事故を未然に防止し、職場のゼロ災害達成を目指す。

 ニュースリリース