IHI、2020年度売上は11.9%減の1兆1,129億円 21年度予想は6%増の1兆1,800億円

 ㈱IHIが5月13日に発表した2021年3月期(2020年度)連結業績は、新型コロナウイルス感染拡大の影響を大きく受ける結果となった。受注高は前年度比14.3%減の1兆970億円となり、売上収益についても、民間向け航空エンジンの大幅な減収により、11.9%減の1兆1,129億円となった。
 損益面では、営業利益は、ライフサイクルビジネスの拡大、資源・エネルギー・環境での前年度までの採算性低下が概ね収束してきていること、固定費の削減等や投資不動産の売却による増益はあったものの、前述の民間向け航空エンジンの減収などの影響が大きく、198億円減益の279億円となった。税引前利益は、持分法による投資損益の改善や、為替差損益が好転したことなどにより、減益幅は15億円に縮小し、276億円となった。親会社の所有者に帰属する当期利益は、48億円増益の130億円である。


■経営成績等の概況
 2020年度におけるわが国経済は、新型コロナウイルス感染症の影響により経済活動が制限されているため、依然として厳しい状況にある。また、世界経済についても、一部の地域や産業においては回復傾向が見られるものの、変異株の感染が拡大していることもあり、全体としては低迷する状況が続いた。
 新型コロナウイルス感染拡大については、その収束の兆しが未だ見えない中、旅客需要の低迷やエアラインの経営状況悪化が続いており、IHIグループの主力事業である民間向け航空エンジンにおいて、エンジン及びスペアパーツの販売が大きく減少するなど、大きな影響を受けている。国内線については、北米等ワクチン接種が進む国において、夏期以降に旅客需要改善が期待される一方で、国際線については、依然として入国制限の緩和が進まず、回復に向けた動きに遅れが生じている。国内線に加え、ワクチン接種が進む先進国間での国際線も旅客需要が高まり、エンジン整備の需要が増加してくるのは2022年度以降と想定されており、IHIグループにおける事業の回復には数年の期間を要すると見込まれる。
 一方で、車両過給機においては、中国で自動車産業が早期に回復傾向となったほか、一部に経済活動制限の影響が残る米国や欧州でも5月中旬から生産活動が再開されており、総じて販売台数は徐々に持ち直している。熱・表面処理においても、堅調な中国市場に辛りされて、回復に向かいつつある。
 このような状況の下、IHIグループとしては、新型コロナウイルス感染拡大の影響への対策として、2020年度夏期初より、設備投資・研究開発費等の一時凍結・抑制や、総費用・固定費の圧縮、成長分野・ライフサイクル事業への機動的な人材リソースのシフトなどに、全社を挙げて取り組んできた。
 IHIグループは、2020年11月に、中期経営計画「グループ経営方針2019」で定めた基本的なコンセプトを継承しつつ、2022年度までの期間を環境変化に即した事業変革への準備・移行期間と位置づけ、「プロジェクトChange」という取り組みを策定・実行している。「プロジェクトChange」の下、環境変化に打ち勝つ事業体質への変革、財務戦略の実行を通じ、収益基盤の強化とライフサイクルビジネスの拡大を着実に推し進め、成長軌道への回帰を早期に実現するとともに、持続可能な社会の実現に資する成長事業の創出に向けた取り組みを加速し、事業ポートフォリオの変革を推進していく。2020年度では、その投資原資の確保のため、投資不動産の売却を実施している。

 IHI2021年3月期データ


■報告セグメント別の事業環境
<資源・エネルギー・環境>
 パリ協定にて世界の平均気温上昇の上限や温室効果ガス排出量と吸収量のバランスについて長期目標が掲げられる中、日本でも「2050年カーボンニュートラル化」の実現に向け法改正案が閣議決定されるなど、脱CO2への流れが加速している。それに伴い、環境負荷低減に係る課題は、地域やお客様により多様化しつつも、将来の脱C02化につながるテーマが増えてきている。
 この事業領域では、既存エネルギーインフラの高効率化やカーボンニュートラル/カーボンフリー燃料の利用を進めるとともに、カーボンリサイクルに関連する開発を加速し、2050年カーボンニュートラルの実現に向け取り組んでいく。
く社会基盤・海洋>
 国内におけるインフラ老朽化や災害の激甚化への対策として、維持・修繕・補修などの保全工事の割合が増加し、新設の大型プロジェクトは減少していく傾向にある。建設現場では、労働人口の急減に伴い、作業の標準化を進めたうえでのICT活用による効率化や働き方改革が政府主導で加速している。
 海外市場は、先進国ではインフラ老朽化による保全工事の需要が継続する一方、新興国では新設需要が旺盛であるものの、ODAによる案件組成から民間企業が社会インフラの運営・維持に関与するスキームが増加している。
 この事業領域では、インフラ建設のみならず、橋梁・トンネルを軸に計画・運営・保守・保全まで含めたライフサイクル型事業を国内及びグローバルに展開・拡大していくことで、強靭で持続可能な社会インフラシステムの提供に取り組んでいく。
<産業システム・汎用機械>
 中国を皮切りに自動車産業において市況は回復段階に入っているものの、新型コロナウイルス感染拡大による先行き不透明感から、一部を除き産業システム関連における設備投資は様子見の状況にあり、世界全体では感染拡大以前の水準に回復するのは2022年度以降と想定している。
 一方で、環境負荷低減ニーズの高まり、生産人口の減少、消費者ニーズの多様化、デジタル化の進展といった社会変化はますます加速しており、それは顧客における電動化の推進や省人化・自動化の推進といった形で顕在化している。ライフサイクルで顧客に寄り添い、迅速かつ適切に社会と顧客の幅広い課題に対応していく必要がある。
 この事業領域では、新型コロナウイルス感染拡大による事業活動への影響を最小化し、早期回復に向けた取り組みを進めていくとともに、それを土台として、製品開発はもとより、ソリューション提案やデジタルを活用したサービスの高度化など、ライフサイクルにわたってお客さまの多様なニーズに応えることによって、産業インフラの発展に貢献していく。
<航空・宇宙・防衛>
 旅客需要の回復には今後数年を要することが想定され、事業への引き続きの影響が避けられない状況の中、この環境変化に打ち勝つ事業体質の構築に向け、需要変動に応じた生産体制の見直しやリソースのシフト等によるコスト構造の強化を推進し、新たな成長の機会としていく。
 また、IHIのエンジンは、比較的新しいタイプの航空機に搭載されており、燃費を始め運用コストにおける優位性から優先的に運用が再開され、アフターマーケットでの収益の早期回復が期待される。
 旅客需要の回復期における顧客の航空機運航再開を万全の態勢で支えるべく、アフターマーケット分野での対応強化に最優先で取り組んでいくとともに、独自技術・ものづくり力の高度化を推し進め、より高効率・低燃費の新型エンジンを開発していく。さらには、その先に予想される巨動化や持続可能な航空燃料の導入を見据え、安全・快適で環境への負荷を低減させる製品・システムの開発に取り組んでいく。


■連結業績見通しについて
 新型コロナウイルス感染拡大による経済活動への制約が徐々に解消され、世界経済の回復が期待されるが、変異型の感染拡大に加えて、米中の政治、経済の対立や地政学リスクが世界経済の復興を阻む要因となり得るなど、引き続き景気の先行きについては不確実性が多く存在している。また、地球規模の気候変動問題に対する国際的な関心の高まりや、企業のサステナビリティを重視するESG投資の拡大等、全世界において脱CO2への流れが急加速している。
 これらの環境変化のスピードに対応すべく、IHIグループは、前述のとおり、「プロジェクトChange」の下、損益分岐点の引き下げ等によるコスト構造の強化や事業構造改革を通じた収益基盤のさらなる強化と、ライフサイクルビジネスの拡大を着実に推し進めることで成長軌道への回帰を早期に実現するとともに、資産売却を実施することで十分な投資原資を確保し、脱CO2・循環型社会の実現などの社会課題の解決に資する成長事業の創出に向けた取り組みを加速し、事業ポートフォリオの変革を推進していく。
 このような状況の下、2022年3月期の連結業績については、民間向け航空エンジンで引き続き新型コロナウイルスの影響が残る中、上記の取り組みを進めることで、売上収益1兆1,800億円(前期比6.0%増)、営業利益700億円(同150.3%増)、税引前利益600億円(同117.3%増)、親会社の所有者に帰属する当期利益350億円(同167.3%増)となる見通しである。
 業績見通しにおける為替レートは、1米ドル=105円を前提としている。


 IHIの2021年3月期決算短信
 決算説明資料
 決算説明経営概要