三井E&Sホールディングスが5月11日に発表した2021年3月期(2020年度)連結業績によると、受注高は、連結子会社の三井海洋開発㈱が大型FPSO(浮体式海洋石油・ガス生産貯蔵積出設備)プロジェクトを受注したが、前期と比べて4,201億79百万円減少(△42.2%)の5,766億68百万円となった。売上高は、海洋開発部門において新型コロナウイルス感染症の影響に伴うFPSO建造工事の進捗遅れ等により前期と比べて1,226億43百万円減少(△15.6%)の6,638億34百万円となった。
営業損失は、エンジニアリング部門でインドネシア向け火力発電所土木建築工事における大幅な損失を前期に引き当てたことによる改善がみられた一方で、海洋開発部門において新型コロナウイルス感染症の影響による建造費用増加により、122億43百万円(前期は620億79百万円の営業損失)となった。経常損失は、営業損失の計上及び持分法投資利益が増加したことなどにより、82億23百万円(前期は604億57百万円の経常損失)。親会社株主に帰属する当期純利益は、非支配株主に帰属する当期純損失の計上により、1億34百万円(前期は862億10百万円の親会社株主に帰属する当期純損失)となった。
■連結業績の概況
2020年度の世界経済は、新型コロナウイルス感染症の影響により、依然として厳しい状況が続いているものの、持ち直しの傾向にある。米国では、個人消費や設備投資の増加等により景気回復が続いている。欧州では、新型コロナウイルス感染症の再拡大の影響により経済活動が抑制され、景気の回復は弱い動きとなっている。中国では、経済活動正常化に向けた経済対策や世界的な情報通信機器需要の拡大に伴う輸出及び設備投資等が増加し、景気は回復傾向にある。国内経済においては、新型コロナウイルス感染症による影響が長期化する中、2020年5月の緊急事態宣言の解除後は、経済活動レベルの段階的な引き上げにより、徐々に持ち直しの動きが見られたものの、感染再拡大が深刻化しており、依然として先行き不透明な状況が続いている。
このような状況下、三井E&Sグループは、エンジニアリング事業の海外EPCプロジェクトにおいて、大規模な損失が連続して発生したため、財務基盤が著しく毀損し、自己資本の回復と資金の確保が急務となったが、2019年5月に「三井E&Sグループ 事業再生計画」を策定し、2019年11月に計画の一部見直しを行い、「資産及び事業の売却案件の追加と実行の加速」、「事業構造の改革及び、協働事業に関する他社との協業の促進」等の各施策を進めた結果、資金の確保に関しては、一定の目途が付けられる状況に至った。
事業再生計画の各施策は順次実施しており、2020年10月に「㈱三井E&S鉄構エンジニアリング(2020年10月1日付で三井住友建設鉄構エンジニアリング㈱に商号変更)の一部株式譲渡」および2021年4月に「三井E&S環境エンジニアリング㈱の株式譲渡(2021年4月1日付でJFE環境テクノロジー㈱に商号変更)」を完了している。
また、2021年3月に「三井E&S造船㈱の艦艇事業等の譲渡」の最終契約書を締結、2021年3月29日付で「三井E&S造船㈱の商船事業の一部株式譲渡」の最終契約書の締結に向けて主要な条件に関する合意書を締結しており、事業再生計画は着実に進展していると認識している。
さらに、三井E&Sグループは、2020年8月に2020年度中期経営計画を策定し、「財務体質の改善」、「事業領域の集中と協業」、「経営基盤の強化」を基本方針とした戦略に着手している。事業の集中と協業を明確にし、アライアンスによる市場創出を進め、「全ての機械にデジタル価値を付加する企業」を目指していく。
事業再生計画における各施策の完遂と、2020年度中期経営計画に示す戦略を実行・加速することで、この難局を乗り切り、グループの企業価値向上に向けて取り組んでいく。
■セグメント別の業績概況
<船舶>
一般商船分野においては、新型コロナウイルス感染症の拡大によって海上荷動きが滞り、一時市況が急落したが、コンテナやバルクマーケットについて荷動きが回復し、8月以降堅調に推移している。また、ガス運搬船やタンカー等エネルギー輸送関連も、世界経済の停滞にも関わらず堅調に推移がみられ、コスト競争力のある造船所には大型コンテナ船、大型タンカー、ばら積み貨物運搬船の発注が相次いでいる。
石油・ガス開発市場は新型コロナウイルス感染症の拡大及びそれに伴う原油価格下落により、プロジェクトの計画遅延、中断が相次いだものの、経済活動の再開、産油国の協調減産合意等により石油・ガス需要は回復に向かっている。LNG船、FPSOの需要も底堅く推移するものと考えられる。カーボンニュートラル実現へ向けアンモニアや水素等次世代エネルギーを活用した船舶技術開発も期待されている。
一方、艦船・官公庁船分野においては、艦船、巡視船、漁業取締船、練習船などの特殊船が継続的に発注されており、今後も各省庁における新規船舶の増勢、代替船需要は底堅く続くものと思われる。加えて、深刻な乗組員の不足を背景に各省庁とも省人化、無人化技術の導入が喫緊の課題となっており、三井E&Sグループは、課題解決のキーとなる自律化船、無人機、維持整備管理技術を有していることから、今後、ビジネスチャンスの拡大が期待される。
このような状況下、三井E&Sグループは一般商船分野においては、これまで培ってきたエンジニアリング能力を活用し、国内外のパートナー企業と連携を取りながら三井E&S設計のライセンス供与、環境対応船の開発、設計受託業務などの営業活動を中心に進めており、国内外を問わずエネルギーエンジニアリング分野において収益向上及び社会貢献につながるよう取り組みを進めている。
艦船・官公庁船分野においては、多種多様な船種を開発、設計し、継続的な受注・建造を果たしており、特に設計、現場、品質における若手の練成が進み、前期の引渡し実績船においても客先から高い評価と信頼を獲得している。三井E&Sグループに与えられた一定の評価をもとに、更に新たな商機となるであろう自律化船、無人機、維持整備管理技術とも併せ、積極的な受注活動を図っていく。
受注高は、練習船やばら積み貨物運搬船などを受注したが、前期と比べて112億2百万円減少(△16.3%)の574億96百万円となった。売上高は、建造船工事の減少などにより、前期と比べて227億16百万円減少(△19.7%)の923億94百万円となり、営業損失は、不採算工事の減少などにより、前期と比べて8億38百万円改善の20億21百万円となった。
<海洋開発>
原油価格は、新型コロナウイルス感染症の拡大に伴う原油需要の低下等により、WTIが一時マイナスになったものの、足元では、新型コロナウイルス感染症ワクチンの実用化による経済活動の正常化に対する期待から1バレル60米ドル前後まで回復している。
一方、中長期的には石油会社による深海域を中心とした開発は、エネルギー資源の持続的な供給の観点から継続的に行われると考えられ、FPSO事業は安定した成長が見込まれている。また、FPSOに次ぐ将来の収益源育成に向けては、FPSO事業で培った技術と能力を応用し、浮体式洋上風力発電設備の事業化や水素の原料にもなるメタンハイドレートの回収技術開発を進めていく。
受注高は、FPSO建造プロジェクトなどを受注したが、前期と比べて3,152億92百万円減少(△49.6%)の3,208億10百万円となった。売上高は、FPSO建造工事が進捗したものの、前期と比べて229億49百万円減少(△6.9%)の3,099億49百万円となり、営業損失は、新型コロナウイルス感染拡大に伴う影響を織り込んだことなどにより、前期と比べて168億63百万円悪化の217億83百万円となった。
<機械>
舶用ディーゼル機関については、船腹の需給ギャップが解消されない中での新型コロナウイルス感染症の影響、新たな船舶に対する環境規制の決定時期による新造船需要の低迷もあり船価回復に至っておらず、厳しい事業環境が続いている。期初計画は、165基/375万馬力の生産量を予定していたが、148基/331万馬力に留まる結果となった。来期は125基/300万馬力を予想しているが、底打ち感があり、回復の兆しが見られる。現在、引合いのあるコンテナ船などの主機の他、ガス燃料船用の主機を成長分野と位置付けて営業活動を行っている。
運搬機については、海外市場における新型コロナウイルス感染症の影響が大きく、先行き不安による入札の延期などがあり、受注は厳しい状況が続いている。一方、国内市場においては、東京、横浜等の主要港で大型コンテナクレーンの新規投入が計画されており、地方港においても、7港で新規投入が計画されるなど、新型コロナウイルス感染症の影響は少なく、また、販売を開始したコンテナヤードクレーンの脱炭素化を目指したニアゼロエミッショントランステーナの需要が堅調となっている。
産業機械については、往復動圧縮機において原油価格の低迷、軸流圧縮機・炉頂圧回収タービンにおいて鋼材需要の減衰による投資抑制があり、受注は非常に厳しいものとなった。
プロセス機器については、国内顧客から三井E&Sグループの特殊技術を評価して頂いており、堅調に受注している。産業界の急速な脱炭素化の流れに対応し、水素関連市場への取組みを強化しており、顧客からの評価が高いプロセス機器において顧客製品の製造プロセスへの提案活動を通じてシステムとして提供する事業展開を進め、成長に繋げていく。
ソリューション事業については、レーダ事業、ロボティクス事業に加え、水理実験施設や大型可動構造物、素粒子物理学実験設備などを対象とする設備機械事業にも注力し、事業拡大を図る。
アフターサービスを中心としたLSS事業(製品ライフサイクル対応型事業及び顧客問題解決型事業)については、電子制御機関を中心に環境規制や新燃料対応への部品サービス、レトロフィットビジネスが好調に推移している。今後は遠隔による状態監視や自動診断などAI・ICTを活用した予防保全ビジネスを積極的に展開していく。
受注高は、新造船市況の低迷に伴う舶用ディーゼル機関の受注減少及び新型コロナウイルス感染症の拡大に伴う投資先送りによるコンテナクレーン、産業機械などの減少により、前期と比べて490億38百万円減少(△28.1%)の1,253億19百万円となった。売上高は、造船所での生産調整の影響を受けて舶用ディーゼル機関の引渡しが先送りになっていることなどにより、前期と比べて132億44百万円減少(△7.7%)の1,590億48百万円となり、営業利益は、売上高の減少などにより前期と比べて20億94百万円減少(△17.6%)の98億19百万円となった。
<エンジニアリング>
環境分野については、連結子会社である三井E&S環境エンジニアリング㈱に環境事業を集約していたが、当該子会社を2021年4月1日にJFEエンジニアリング㈱へ譲渡し、撤退した。
バイオマス事業分野については、国内新設事業からの撤退を決定しており、連結子会社である市原グリーン電力㈱の株式持分を㈱タケエイに譲渡した。また、建設中であった市原バイオマス発電㈱向け発電所建設工事については完成・引渡しを行った。
海外インフラ分野については、ベトナムにおいて建設中だった火力発電所土木建築工事について完成・引渡しを行った。現在、インドネシアで建設中の火力発電所土木建築工事について確実な工事遂行に注力している。本工事完了後は、同事業から撤退し、そのリソースを三井E&Sグループの成長の見込める事業に再配置する。
受注高は、前期に化学プラント事業の子会社を譲渡した影響などにより、前期と比べて255億25百万円減少(△52.9%)の227億3百万円となった。売上高は、新規受注を控えた影響に加え連結子会社の減少により前期と比べて311億95百万円減少(△44.8%)の384億26百万円となり、営業利益は、前期に多額の受注工事損失引当金を計上したことにより717億11百万円改善の2億87百万円となった。
■次期の業績見通し
2022年3月期(2021年度)連結業績見通しは、売上高6,700億円(前期比0.9%増)、営業利益50億円、経常利益60億円、親会社株主に帰属する当期純利益30億円を見込んでいる。
船舶セグメントは、2020年度において千葉工場での造船事業を終了したこと及び2021年10月に艦艇事業等の譲渡を予定していることから減収、減益となる見込み。海洋開発セグメントは、既受注FPSOの建造工事が進捗することなどから増収及び大幅な損益改善を見込んでいる。機械セグメントは、新型コロナウイルス感染拡大による影響が引き続き一定程度継続するとして、売上高、営業利益ともに2020年度並みと予想している。エンジニアリングセグメントは、環境エンジニアリング事業を営む子会社を2021年4月に譲渡したことから減収、減益となる見込み。
なお、新型コロナウイルス感染拡大による影響は、現時点で三井E&Sが把握可能な情報に基づいて見込んでいるが、同感染症の流行に伴う社会・経済に対する影響が今後さらに拡大・長期化した場合には、変動する可能性がある。
業績見通しにおける為替レートは1米ドル=110円を前提としている。
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