日立建機の平野社長、コロナ禍の需要動向や取り組み状況を語る

 日立建機の平野耕太郎社長は5月10日、新年度メディア合同ミーティング(対面・オンライン併催)を開催し、2020年を振り返るととともに、2021年度、また中期経営計画、稼働状況や取り組み、将来的な考え方や方向性などを語った。

 以下、順不同で内容を抜粋。

■2020年度を振り返って

 2020年春の段階では、先が見えない状況だった。過去に前例のない状況の中、まずは在庫を溜めない、債権の回収をしっかり行い、キャッシュフローを出していこうと考えた。日本および海外の工場では生産をストップした。有難いことに、米国、中国、アジア等で想定した以上に需要が戻ってきた。下期以降、生産が立ち上がり、2020年末から21年初にかけて米国、欧州が住宅需要もあって小型建機が動き出した。

 ただ、マイニング(鉱山機械)の本体もさることながら、修理サービスも少し後回しにしたいとの話が出て、部品サービスの収益が上がらず利益面では後れをとった。だが、キャッシュフローは計画を達成できた。

■2021年度の見通しについては

 2021年度は、米・欧では油圧ショベル需要は戻ってくると考えているが、中国やアジアは前年度に比べて伸びてこないだろう。中国は少し厳しい状況になるだろうと見ている。

 マイニングは、もう少し様子見のユーザーが多く、21年度下期後半から動き出してくるであろうと見ている。2022年度になれば、本格的に戻ってくると見ている。そういう前提で業績見通しを作成した。しっかり需要を取り込んで業績につなげ、ステークホルダーに応えていきたい。

■中期経営計画と設備投資計画については

 基本的な項目は変わりなく、バリューチェーンを強化する。つまり製品以外の売上げを5割に引き上げる基本方針は変わりがない。コロナで先行きが見通せない中、ユーザー自身の資産をどう効率化することだと思う。どれだけ日立建機がソリューション(サービス)をかけられるかである。

 そういう中、工場の再編については、効率化を一段と進め、22年度までに形をつくっていきたい。この間、技術の進歩も早くて、工場関係の投資を少し後回しにして、開発関係の投資資金を潤沢にして22年以降を見据えた形で進めたい。

 工場の再編は、海外の再編についてはほぼ2019年度でめどが立ったので、次に国内をやろうとした。国内の生産関係の再編では、今まで本体組立をしている工場が、日本で5カ所あったのを最初は3カ所にしようとした。土浦、常陸那珂臨港、滋賀(日立建機ティエラ)の3工場だ。当初、土浦に油圧ショベルとホイールローダを全部まとめようとした。まず、竜ケ崎の既存設備を使って、播州工場(大型ホイールローダ)のすべてを土浦に持ってこようとしたが、それだと土浦工場が満杯になり柔軟性にかけ、コスト的にも難しいことから、ワンクッションおいて今の5カ所を4カ所体制とした。

 二つ目は、開発関係の集約である。工場を2工場、つまり土浦と小型建機の滋賀(ティエラ)に落ち着いた。開発関係はもとどおりの形で変わりない。

 投資計画は、2021年度で約1,100億円。設備関係は営業部門も含め全体で600億円。残りの500億円はレンタル機となる。

■レンタル関連の投資については。

 賃貸用資産として21年度は500億円を計画している。これからどうなっていくのかは、難しいが日本は底堅い。米・欧は、ユーザーからレンタルの要望が強く、こちらを少し増やしていこうと思っている。一方、中国とアジアについては、需要もそうだが、21年度のレンタルの状況は厳しいと見ている。中国では、代理店がレンタルの注文を受けると、日立建機が代理店にレンタルする方法だ。工事が続けば購入することになるか、長期レンタルになるかである。年度ではいえば、500億円の中で運用していきたい。今後どうなるかは難しい。レンタルについては、長期的には、まだまだすべての機械がレンタルに変わるのは時間がかかるのではないか。

■現在の工場の稼働状況については

 日本国内はフル稼働している。2020年度も日米欧、中国を除く全世界は需要は少し下がった。売上高から見ると、代理店が在庫を相当絞った。ユーザーはコロナ禍で新規購入を絞った。その結果、日立が販売する部分の需要は21年春先から買いに入っている。この結果、工場が忙しい。ただ、インドやアジアのコロナが厳しくなっているので、状況を見ていきたい。

 インドは、非常にコロナの感染者が増えている。工場は稼働しているが、従業員や家族の健康が第一なので、コロナ対策をしっかりしながら様子を見ながら稼働している状況である。

 心配なのは、インド国内各地でロックダウンが行われており、工事がストップしていることもあり得る。機械の購入が手控えられることもあり、5~6月の需要が落ちてくるではないかと心配している。ただ、20年も前半は厳しかったが、後半にはエッセンシャルビジネスであるため需要が戻ってきた。21年も夏前までは厳しいが、その後は本格的に戻ってくるのではと期待している。年度で見た場合、今の時点で大きく変更はしていない。

■中国の需要見通しと中国メーカーへの対抗策について

 中国メーカーは品質、性能的にも力を付けてきている。中国メーカーの機械は、どういう客層がどういう機械を使っているか市場調査したところ、土木に特化にした機械が多いことが分かった。

 日立建機の場合、全世界共通だが、日米欧に対応したアタッチメントを付けた多機能機械である。やはり、土木を中心にした客からすれば、例えば、解体など他の機能は無駄な機能となる。2020年、バケットを付けて掘削に特化した土木専用の機械を3機種(6トン、12トン、20トン)出したところ、20年度は計画通りの販売台数となった。

 現在、1台1台モニターし、ユーザーの声を聴きながら2~3年かけて一定のボリュームに達した段階で、製品を見直し、アジア市場に出していこうと考えている。つまり、日米欧向けをベースとした機械と、中国、アジアなど新興国向けの土木専用機という2つ機械という考え方である。

 もう一つは、製品だけでなく、レンタルや中古車の販売も課題となってくる。今まで以上にバリューチェーンを打ち出していこうと思っている。

 中国の需要については、2020年度は春節が2回あったことがポイント。新型コロナで時期がずれて駱駝のこぶが二つあった状態だ。足元の稼働状況や引き合い状況は大きく変わっていないが、新規需要よりも買い替え需要に入っていくのではないかと思っている。現地工場の生産の方も柔軟に対応できるが、需要が転換点になっているように思う。

 中国製中古車が出ていない。かつて、日本の中古車が東南アジアと中国に出ていた。欧米もエリア内で一定の中古車循環があり、その中で一定の新車需要となっている。中国は、新車の稼働を吸収するだけの機械需要があったのだが、確たるデータはないが、そろそろ循環型になっていくのではないかと見ている。

■マイニング事業について

 日立建機にとってマイニング事業は非常に重要なビジネスである。大きくは二つある。一つには、AHS(ダンプトラック自律運行システム)をもう少し拡げていきたい。現在、ユーザーはAHSだけでなく、CO2削減をなんとかしたい。AHS自身もCO2削減はできるが、一歩先をみると、電動であったり、あるレベルになればAHSで良いのか、AHSはどのようなものになるのか、といった問い合わせが多くなっている。日立建機は技術的な分野で一歩先に行きたい。この前のABBとの協力などもそうだが、電動とAHSをどう組み合わせていくかだ。

 次は、油圧ショベルの電動化に取り組んでいきたい。いまも有線タイプはあるが、これを進化したものや、電動化には多くの技術課題がある。少しずついろんな技術を取り入れていく。

 二つ目は、地域的戦略だ。やはり南米の事業が弱い。北・中・南米は米ディア社が担当しており、部品パーツを日立が供給している。ここを日立建機がサポートすることで、事業を強化していく。南米ユーザーにも要望があるので、南米ビジネスを強化していく。

■日立製作所が株式放出との話が報じられている点について

 どういう形にしていくのが望ましいのか。昨年秋以降メディアに取り上げられているが、いまところ日立製作所から方向性や指示はない。日立建機は、製品を使っているユーザーに迷惑をかけない、つまり事業をしっかりやっていくことだ。日立製作所とは、販売面の関係はなく、購入品ではマイニングでいくつかある。技術面では、通信、情報技術で日立製作所の力を使ってきている。これからも使わせてもらいながらやっていこうと思っている。今までも有償で使っていたので、これからも使わせてもらう。

 この間、スマートキャップ社、バラハ社、昨年もクリサリックス・ベンチャー・キャピタルのファンドに出資するなど、小さい形ながらも出資し、技術の習得を図りなら事業を進めている。こういった日立建機の取り組みについては、日立製作所からも協力してもらっているので、その点では心配していない。

■半導体不足やコンテナ運賃上昇についての影響は

 半導体に関しては、建設機械も多く使っているが、今のところ半導体が足りなくて生産ができないことはなく、一定量は確保している。コンテナ関連、つまり船便は、非常にうまくコントロールできている。那珂港、東京、横浜の港をうまく使っている。小型は大阪、神戸、名古屋港を分散して使っている。コンテナと入荷量を見ながらコントロールしている。運賃の上昇が年度ベースの業績を大きく影響することはない。3月は、非常に計画以上に船を集められて、小型建機を欧米向けに計画以上に出荷することができた。

■カーボンニュートラルへの対応について

 油圧ショベルでいえば、CO2削減については、日米欧、中国でも強くなっている。ただ、パワーの関係でミニショベルなどが開発の中心となっている。20トン以上になるとバッテリーでは容量が足らなく、燃料電池や水素といった話になってくる。建機の場合も小型と中型と大型という形で開発いくかと思う。マイニングになると、運行管理のような内容とセットとなるので、いくつかのパターンを組み合わせて進めていきたい。日立建機は、エンジンを持っていないので、いろんな企業とタッグを組みながら取り組んでいきたい。

 2021年5月10日会見より