日立建機はこのほど、情報誌「TIERRA+(ティエラプラス)」No.131(2020年5月)を発刊した。今号の特集は、「5Gでどう変わる?」。
「5Gでどう変わる」次世代の通信システム「5G」サービス。
スマートフォンがサクサク快適に使えるようになるようだけれど5G(第5世代移動通信システム)で暮らしはどう変わるのか、詳しく知らないという人も多い。さらに5Gの導入により、さまざまな産業のビジネスも変わりつつある。今号では、5Gにまつわる基礎知識を解説するとともに、5Gで変わる近未来の姿と、建設機械業界の取り組みが分かりやすく紹介されている。特集は、野村総合研究所の亀井卓也氏と日立建機株式会社 研究・開発本部 旋回開発センタ長の枝村学氏のインタビューがメインで掲載されている。
「ティエラプラス」の最近号がまだ更新されていないので、最強のスマホ・アプリでテキスト化してみた。いまは4Gだが、5G時代になると、もっとリアルに再現できるのかと思うと5G時代も悪くない。
現在、世界的な建設機械メーカーの多くが、通信会社と協力して5Gに積極的に取り組んでいるなか、興味深いので一足早く紹介してみた。(当サイトでも「5G」で検索してみてください。)
以下、原文より。
■202X年 5Gがある日常
「結局、5G で何ができるの?」という疑問を抱いている人も多いだろう。5Gが、私たちの生活を具体的にどのように変えていくのか、話題の書籍『5G ビジネス』の著者である、野村総合研究所の亀井卓也氏に聞いた。
5Gがどのような時代をもたらすのかをイメージするには、「5G時代にはどんなデバイスが普及するのか」を考えるとわかりやすいでしょう。
ひとつは「グラス型デバイス」。メガネ状のデバイスを装着することで、拡張現実「AR」をメガネ越しに透かして見せたり、デバイスに搭載された多数のセンサーによって、仮想空間と現実空間を融合する「MR(ミックスドリアリティ)」を実現します。
このところの新型コロナウイルスの影響で、リモートワークに踏み切る企業も増えましたが、「ビデオ会議よりも対面の方がやりやすい」といった意見は根強くあります。グラス型デバイスに超高解像度な動画を5Gを介してやりとりすることで、遠くの相手が目の前にいるような感覚を得ることができます。ただ会話をするだけならビデオ会議でも事足りますが、MRグラスを介せば、遠くの人と「共同作業」できることがポイント。例えばバーチャルなデスクの上に立体的な設計図を表示し、それを複数の人間で検証しながら、その場で修正を加えるようなイメージで、実際に会わなければ難しいと考えられていた作業がリモートで行えるようになるのです。米マジックリープ社が開発しているスマートグラスは、このような未来を実現しつつあります。
もうひとつは、おなじみのスマートフォン。5G時代のスマホでは、これまで以上に「スマホ推し」になり、多彩なカメラによるマルチレンズが標準になります。「そんなに高性能なカメラ機能はいらない」と思う人もいるでしょうが、これらはキレイな写真を撮るためだけにあるわけではありません。これからの時代、スマホのカメラは「目」の代わり、あるいは「目」を超えるもの。高精細な映像を5Gでネットのデータベースに常時接続していれば、漢字の読み方から商品の値段まで、カメラが捉えたあらゆるモノに関する情報を検索することなく瞬時に取得できます。
また、マルチレンズはさまざまなセンサーとしても機能し、前述のメガネのようなMRデバイスとしてスマホを活用するのがトレンドになるでしょう。
このような、これまでになかったテバイスの登場で、私たちの生活は大きく変わっていくのです。
野村総合研究所
ICTメディア・サービス産業コンサルティング部
テレコムメディアグループマネージャー
亀井卓也氏:東京大学大学院工学系研究科修了後、2005年に野村総合研究所入社。現在は情報通信業界における経営管理、事業戦略・技術戦略の立案および中央官庁の制度設計支援に従事。著書に「5Gビジネス」(日本経済新聞出版社)。
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■5Gで変わる建設機械と建設現場
5G の登場で特に期待が大きい分野のひとつが、建設機械の遠隔操作だろう。日立建機が描く未来の建設機械と建設現場の姿を、同社で先端技術開発を担う枝村学が語った。
・土木建設現場のICT 施工の推進力として
土木建設現場では、i-Construction、すなわち、3次元設計データに基づくICT施工が普及し、ICT建機には、半自動で掘削を制御できる機能が搭載されるようになった。5G(第5世代移動通信システム)やその他のデジタル技術により施工現場はどう変わっていくのだろうか?
「ICT施工は、画像データや3次元設計データの活用が基盤となります。今後は5Gにより、リアルタイム性の高い大容量通信が可能となることが大きいですね」。こう話すのは、日立建機の研究・開発本部 先行開発センタでセンタ長を務める枝村学だ。
「通信が困難だった山間部などの大規模施工現場においては、『ローカル 5G』サービスの適用が期待されます。数km四方であれば安定した高速通信が可能で、高セキュリティである点が土木工事現場に適しています」
ローカル 5G とは、通信事業者による5G とは別に、企業や自治体などが自らエリアを限定して、プライベートのネットワークを構築できるようになるサービスだ。2019年12月の一般社団法人電子情報技術産業協会(JEITA)の発表によると、このローカル 5Gの日本市場は2030年には約1.3兆円の需要額となる見通し。自動運転車や建設機械、ドローンをはじめとするIoT機器や、製造分野向けのソリューションサービスが需要を牽引すると予測されている。
・新時代のオペレータ視点で遠隔操作の技術開発に挑む
5Gの有望な用途のひとつが建設機械の遠隔操作だ。「5Gは、高精細な映像のような重たいデータを扱うのに必要な『広帯域』、リアルタイム性の高い『低遅延』、同時に複数の建設機械がつながる『同時多接続』が特長です。エリアや接続性の問題がクリアされれば、建設機械の遠隔操作を進化させる重要な要素となるでしょう」
土木建設業での人手不足や若手の確保も大きな課題となっているなかで、働きやすい環境整備や安全性確保への解決策としても、遠隔操作への期待は大きい。日立建機は、1992年の雲仙普賢岳の噴火災害復旧工事など、危険度が高かったり、大量の粉じんが発生するなどの理由で人が入れない環境下における建設機械の遠隔操作に取り組んできた。
2013年には、業界に先駆けインターネット環境での遠隔操縦技術の開発を行っている。それは現在も変わらず、現場に出向いてお客さまに寄り添い、その声から5年先、10年先の現場に求められる姿を描く。驚異的なスピードで進化する各種のデジタル技術の進展を見極めながら、次世代遠隔操作技術の開発を進めている最中だ。
ただし、「私たちが進めている遠隔操作技術の開発は、現在の実機でのオペレーションをそのまま置き換えるものではない」と枝村は強調し、こう続ける。
「現在のオペレータの『匠の技』をシステムに代替させるのではありません。遠隔操作を専任とするオペレータを前提とし、操作性や生産性をより高めて最大のパフォーマンスを生む新しい施工文化や環境を築くことを、私たちの開発の姿勢としています」
操縦する人が従来の実機オペレータではないのなら、操作のインタフェースとなるコントローラも、従来のコックピットにとらわれない、全く新しい形状となっていくかもしれない。
・お客さま価値の最大化を念頭に「人と機械の協調」を築く
5Gに代表される高速通信技術や、AI(人工知能)、高度センシング技術等の建設機械、建設現場への適用が急ピッチで進められている。その一方で、枝村は現場で「人がやるべきこと」「機械がやるべきこと」「人による遠隔操作で機械がやるべきこと」などのパターンの中から、どの組み合わせが一番現場で効率が良く、メリットがあるのかを見極めることが大切だと説く。
「日立建機がめざしているのは、単に人を排除した完全自動化や、人と機械が一緒に作業する『協働』ではありません。人と人、人と機械、機械と機械が相互に情報をやりとりする中で、さらに高い価値を生み出す『協調』なのです」
『協調』による人と機械の最適な関係、さらに、『協調』によって実現する安全で効率が良く人に快適な現場、これこそ建設業界で現在進められている、本来の意味でのi-Construction全面活用の姿だ。
この激しい変化の波の中において、今後も必要になるのは“人間ならでは”のクリエーティブな能力だ。「仕事全体を見渡し、効率が良い現場での段取りを考えたり準備をしたりする力は、人間ならではの強みです。先行開発センタでは、人のクリエーティブな面と新しい技術とをいかに融合させるかを考え、相乗効果を生み出すことを追求していきたい」と話す。
近い将来、都市のオフィスなどから各現場の機械を動かすことができれば、土木建設業界の労働環境や安全性は格段に向上するだろう。遠隔操作の発展は、働き方改革にも貢献するソリューションとして、今後目が離せない存在だ。
日立建機株式会社
研究・開発本部 先行開発センタセンタ長
枝村学