㈱IHIが5月19日に発表した2020年3月期連結業績によると、受注高は前期比1.8%減の1兆3,739億円、売上高は同6.5%減の1兆3,865億円となった。損益面では、ボイラ・原動機の減収、民間向け航空エンジンの検査プロセスの厳格化に伴う減収やプログラム費用の追加負担の影響に加え、車両過給機で主に欧州での販売台数が減少したことなどにより、営業利益は、216 億円減益の607億円となった。経常利益は、関連会社であるジャパンマリンユナイテッド㈱の業績悪化に伴う持分法投資損失の計上などにより減益幅が拡大し、334億円減益の322億円。親会社株主に帰属する当期純利益は、270億円減益の128億円となった。
■経営成績の概況
2019年度におけるわが国経済は、年度後半までは、設備投資の緩やかな増加や雇用・所得環境の改善に支えられ、総じて安定的に推移した。世界経済については、全体としては緩やかな成長が続いたものの、中国や欧州の景気に減速傾向がみられたことに加え、米中貿易摩擦、英国のEU離脱問題、地政学的リスクの高まりなど、政治面においても不安定な状況が続いた。2020年1月以降は、世界的な新型コロナウイルス感染拡大により、製造業の一時的な操業停止や、人の往来制限による消費の落ち込みが生じ、国内及び世界各国の経済は 急速に悪化し、極めて厳しい状況にある。
新型コロナウイルス感染拡大の収束が見通せない状況下において、IHIグループでは、従業員と従業員の家族、ステークホルダーの安全・健康を最優先にしつつ、在宅業務の徹底など、感染拡大防止策を講じた上で、事業活動を継続している。
一方で、このような厳しい環境下で、民間航空機エンジン事業において、旅客需要の急減やエアラインの経営状況の悪化の影響を受けるほか、車両過給機事業において、自動車需要の減少や、自動車会社の工場生産停止の影響を受けることなどが想定される。また、他の事業においても、外出自粛などの感染拡大防止策の長期化により、進行中案件の建設工程での遅延が懸念される。
こうした新型コロナ ウイルス感染拡大の影響を最小限に抑えるべく、リスクマネジメントの強化や事業体質の転換など、経営環境の変化に柔軟に対応した施策を講じていく。
■セグメント別の事業環境
<資源・エネルギー・環境>
パリ協定で世界の平均気温上昇の上限や温室効果ガス排出量と吸収量のバランスについて長期目標が掲げられる中、気候変動への対策の動きや脱炭素への世の中の流れが想定以上に加速している。それに伴い、社会や お客さまの抱える課題も地域ごと・発展段階ごとに多様化しており、再生エネルギーや分散型電源の普及とエネルギー安定供給のためのエネルギーマネジメントへの動きが加速してきた。
この事業領域では、必要とされるエネルギーの安定供給に向けた社会インフラへの対応、並びに脱CO2・循環型社会に向けた枯渇性資源の有効活用、再生エネルギー・分散エネルギーの利用促進、再生可能資源の利活用等を通じて、地域・顧客ごとに最適な総合ソリューションの提供に取り組んでいる。
<社会基盤・海洋>
国内においては、高速道路未整備区間やリニア中央新幹線などの発注により新設の需要が見込まれるものの、昨今の災害の激甚化や進行するインフラ老朽化から、強靭化・長寿命化のニーズが急速に高まっており、保全事 業へのシフトが加速している。また、管理者・技術者不足の対応策として規制改革も進んでおり、ICT/IoTの活 用等による事業全体の効率化・省人化が求められている。海外においては、欧米やアジア・中東において、インフラ投資効率化や環境配慮の観点から、設計・建設から運営・維持管理までを包括したコンセッション事業が普及し、橋梁・トンネルが含まれる道路・鉄道建設プロジェクトが進展している。
この事業領域では、橋梁・トンネルを軸に、計画・運営・保守・保全まで含めたライフサイクル型事業を、国内およびグローバルに展開・拡大し、強靭で持続可能な社会インフラシステムの提供に取り組んでいる。
<産業システム・汎用機械>
デジタル技術の伸長に伴う自動化の進展や、サプライチェーンのグローバル化といった産業システム全般の大きな変化は年々加速している。一方で、自動車産業では中国に端を発した世界的な市況の低迷と、それに付随 した関連部品産業の落ち込みから、IHIの主力分野の車両過給機事業、熱・表面処理事業でも需要の低迷が見られた。加えて、新型コロナウイルス感染拡大による経済活動の停滞の長期化を受け、世界的な自動車需要の減少が想定される中、IHIの自動車関連事業においても大きな影響を受ける懸念がある。事業活動への影響を最小化し、回復期に向けた早期立ち上げの準備を進めている。
この事業領域では、顧客とともにオペレーション(事業運営)の最適化をライフサイクルで徹底追求することで、産業インフラの高度な発展を実現していく。IHIの持つ知見と実績を掛け合わせながら、変化に柔軟に対応した事業プロセスを土台に、顧客の事業におけるリードタイム短縮、人手不足、ノウハウ・技術力 の低下などの課題に対して、デジタルトランスフォーメーション等を活用した自動化・電動化、環境負荷低減に取り組んでいる。
<航空・宇宙・防衛>
これまでのIHIの民間航空機エンジン事業は、世界の航空機需要の成長の中で、小型から大型までの幅広いク ラスのエンジン開発・量産に参画し、独自技術・ものづくり力の高度化により事業拡大を図ってきた。また、不適切検査が発生した民間航空機エンジン整備事業においては、再発防止策を確実に進め、強靭な品質保証 体制の再構築に取り組んでいる。
一方で、今回の世界的な新型コロナウイルス感染拡大は、国際的な航空輸送需要の急減とエアラインの業績・財政状態の悪化をもたらしており、回復にも一定の期間を要することが想定される。このためエンジン及びスペアパーツの販売減少が見込まれ、IHIの事業への大きな影響も避けられない状況にある中、需要変化に応じた生産体制の見直しやリソースのシフトを進めていく。
また、IHIのエンジンは、比較的新しいタイプの航空機に搭載されており、燃費をはじめ運用コストにおける優位性から優先的に運用が再開され、アフターマーケットでの収益の早期回復が期待される。旅客需要の回復期における顧客の航空機運航再開を万全の態勢で支えるべく、アフターマーケット分野での対応強化に最優先で取り組んでいく。加えて、その先に見込まれる市場の成長軌道への回復に向けた準備を進めるとともに、航空業界の一員として、高効率・低燃費の新型エンジン開発などを通じた環境負荷低減への取り組みに貢献していく。
■今後の見通し
連結業績見通しについて 今後の喫緊の課題は、企業経営において新型コロナウイルス感染拡大の影響を最小にとどめることにある。IHIは、それに対応した施策を適時、適切、かつ迅速に行っていく。
一方、以前から続く、米中の対立による通商問題や地政学的緊張の高まりが、有望市場の新興国をはじめとする世界経済の動向にも影響するなど、引き続き景気の先行きについては不確実性を高める懸念要素があり、十分 な注意が必要である。加えて、地球規模の気候変動・大規模災害・世界人口の増加・資源の枯渇化等のグループを取りまく社会課題に対して、長期的な展望で持続可能な社会の実現に向けた取り組みを引き続き加速させていく。2年目を迎える中期経営計画「グループ経営方針2019」の下で、持続可能な社会の実現に貢献すべく、ライフサイクルを 視点で社会と顧客の課題に真正面から取り組み、新たな価値を創造する企業へと大きく変革していくことを目指す。
また、今回の新型コロナウイルス感染拡大により、これまでの価値観が変化し、社会や生活者の行動が変容することで、企業の事業基盤の再構築、デジタル化の進展等がより一層加速していくことが想定される。「グループ経営方針2019」で定めた目指す姿について、「アフターコロナ」の新たな常態に対応する持続可能な企業の在り方を再確認し、事業の方向性の見極めと構造改革及びポートフォリオマネジメントの推進に取り組む。
新型コロナウイルス感染拡大の業績への影響については、民間航空機エンジン事業において、旅客需要の急激な減少やエアラインの経営状況悪化により、エンジン及びスペアパーツの販売が減少するなど、業績への大きな 影響が避けられない状況にある。
また、自動車産業における中国市場での早期回復期待はあるものの、世界的な自動車需要の減少や自動車会社の工場生産停止の影響により、車両過給機の販売も減少することが想定され る。しかし、現段階でその影響額を合理的に算定することが困難なことから、2021年3月期連結業績見通しについては、未定とした。今後、連結業績見通しの算定が可能となった時点で速やかに 開示する。
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