㈱三井E&Sホールディングス(以下、三井E&S)が5月12日に発表した2020年3月期(2019年度)連結業績によると、受注高は、子会社の三井海洋開発㈱が大型プロジェクトを受注したことなどから、前期と比べて2,867億20百万円増加(+40.4%)の9,968億48百万円となった。売上高は、海洋開発部門の進行基準工事売上高が増加したことに加えて船舶、機械部門で増収となったことなどにより、前期と比べて1,299億73百万円増加(+19.8%)の7,864億77百万円となった。
一方損益面については、営業損失は、船舶、機械及びエンジニアリング部門で改善や損失の減少がみられた一方で、海洋開発部門の三井海洋開発㈱が海外プロジェクトにおいて損失を計上したことなどにより、620億79百万円(前期は597億3百万円の営業損失)となった。経常損失は、営業損失の計上に加えて持分法投資利益が減少したことなどにより、604億57百万円(前期は505億2百万円の経常損失)となった。親会社株主に帰属する当期純損失は、税金等調整前当期純損失の計上に加えて非支配株主持分利益が減少したことなどにより、862億10百万円(前期は695億99百万円の親会社株主に帰属する当期純損失)となった。(数値表記は原文)
■経営成績の概況
2019年度の世界経済は、新型コロナウイルスの流行に伴い、各国の経済活動自粛要請などの影響で景気が急減速している状況にある。米国では、良好な雇用・所得環境を背景に景気の回復が続いていたが、米中貿易摩擦問題に加えて、新型コロナウイルスの感染拡大による国家非常事態宣言の影響などにより企業活動の停滞・労働市場の悪化が景気後退リスクになっている。欧州でも、雇用・所得環境の改善で景気が持ち直していたが、英国のEU離脱問題に加え、新型コロナウイルス感染拡大によるサービス業や個人消費の腰折れが懸念されている。アジア諸国でも、中国における工場の操業停止や外出自粛などによる景気の下振れに伴い、周辺国への景気鈍化の影響も懸念されている。わが国経済においても、景気の先行き不安による株価下落・円高などの金融市場の混乱が見られることに加え、政府の緊急事態宣言に伴う外出自粛や休業などにより消費者マインド・経済活動が委縮するなど、新型コロナウイルスの影響による景気悪化の懸念が高まっている。
このような状況下、三井E&Sグループは、17中計(2017年4月から2020年3月までの経営計画)の最終年度にあたり、三井E&Sグループが目指す将来像や方向性、2025年度までの今後の7年間にわたる会社のあり方を示す長期ビジョン「MES Group 2025 Vision」の達成に向けて、「環境・エネルギー」、「海上物流・輸送」、「社会・産業インフラ」の3事業領域に注力し、「経営基盤の深化」と「グループ経営の深化」を進めていた。
しかし、エンジニアリング事業の海外EPCプロジェクトにおいて、大規模な損失が連続して発生したため、三井E&Sグループの財務基盤は著しく毀損し、自己資本の回復と資金の確保が急務となった。そのため、2019年5月に新たに「三井E&Sグループ 事業再生計画」を策定し、2019年4月から2023年3月までを事業再生計画期間として、財務基盤の健全化に向け、財務・収益体質の強化、及び事業構造の変革を推し進めている。
なお、事業再生計画については、第2四半期連結会計期間に発生したインドネシアにおける火力発電所土木建築工事の追加損失を受け、資産売却や固定費削減など必要な施策を拡大、加速する等、2019年11月に一部見直しを行った。その結果、資金の確保に関しては一定の目途が付けられる状況に至った。グループ事業の再編成により、グループの総合力発揮を加速することで、この難局を乗り切り、引き続きグループの企業価値向上に向けて取り組んでいく。
■報告セグメント別の概況
<船舶>
一般商船分野においては、ここ数年の新造船発注量の減少による需給バランス改善と、米中貿易摩擦の鎮静化による海上荷動き増の予測から船主の発注意欲が改善され、2020年の旧正月明けに市況が回復局面に入り新造船需要が増加すると期待されていたところに、新型コロナウイルスの世界的な感染拡大が発生し経済活動が停滞したため海上荷動きが大きく減少し、市況の急落が見られている。
液化ガス船においても同様で、世界経済減速の懸念からLPG・LNG需要は減少する見通し。一定量の新造船LNG商談は継続して行われているものの、市況の状況から成約が遅れる可能性も懸念されている。一方、小型LNG船は徐々に数を増やしてきており、欧州地域では、中小型LNG船による二次輸送計画も相次いで発表されており、これら船型の新造船需要が期待される。
経済活動の停滞は資源開発船分野においても影を落とし、原油需要の急減傾向が顕著なことから、浮体式石油・ガス生産貯蔵設備(FPSO/FSO)の整備計画も不透明感が増してきており、今後の景気動向への注意が必要な状況である。
一方、艦船・官公庁船分野にあっては、近年、艦船、巡視船、漁業取締船、練習船などの特殊船が継続的に発注されており、今後も各省庁における新規船舶の増勢、代替船需要は底堅く続くものと思われる。加えて、深刻な乗組員の不足を背景に各省庁とも省人化、無人化技術の導入が喫緊の課題となっており、三井E&Sは、課題解決のキーとなる自律化船、無人機、維持整備管理技術を有していることから、今後、ビジネスチャンスの拡大が期待される。
このような状況下、三井E&Sグループは一般商船分野においては、引き続き省エネ船の先行ヤードとしての強みを活かして採算改善を図りながら選別的な受注を進めていく。また、船主のニーズを喚起する新しいガス燃料船などの新船型の開発も進める一方で、海外の協業先への委託建造などのスキームも活用して今後の新造船事業の展開を図る。
艦船・官公庁船分野においては、多種多様な船種を開発、設計し、継続的な受注・建造を果たしており、特に設計、現場、品質における若手の練成が進み、前期の引渡し実績船においても客先から高い評価と信頼を獲得している。三井E&Sグループに与えられた一定の評価をもとに、さらにあらたな商機となるであろう自律化船、無人機、維持整備管理技術とも併せ、積極的な受注活動を図っていく。
受注高は、新造商船の受注が模様眺めで低調に終わったこと等により、前期と比べて445億9百万円減少(△39.3%)の686億98百万円となった。売上高は、これまでの造船市況低迷期に受注を抑制した影響で年間計画操業量を抑えたものの、防衛省向け艦船を含む官公庁船等において増加したことにより、前期と比べて182億32百万円増加(+18.8%)の1,151億11百万円となり、営業損失は、従来から進めているコスト改善施策が奏功し、前期より52億52百万円改善の28億59百万円の損失となった。
<海洋開発>
原油価格は、中東での地政学的リスクの高まりによる供給不安や米中摩擦への懸念が薄らいだこと等によりWTIは2019年12月末まで1バレル50-60米ドル台で推移した。しかしその後、新型コロナウイルス感染拡大の影響を受けて原油需要が急減したことに加え、主要産油国の思惑により協調減産が進まないことなどから、大幅な下落を伴う極めて不安定な値動きをしている。
一方、中長期的には石油会社による深海域を中心とした開発は、エネルギー資源の持続的な供給の観点から継続的に行われると考えられ、FPSO事業は安定的な成長が見込まれている。三井E&SグループはFPSO事業の拡大に向け、グループ全体でのリソース融通やEPC(設計・調達・建設)などの協業を強化していく。
受注高は、大型チャータープロジェクトの新規受注、既存プロジェクトの仕様変更及びオペレーションサービス等により、前期と比べて3,819億2百万円増加(+150.2%)の6,361億3百万円となった。売上高は、FPSO建造工事の進捗等により、前期と比べて1,104億40百万円増加(+49.6%)の3,328億98百万円となり、営業損失は、FPSO建造工事において見積りを上回った費用に対する引当金を計上したことなどにより49億19百万円(前期は148億94百万円の営業利益)となった。
<機械>
舶用ディーゼル機関については、船腹の需給ギャップは依然解消されておらず、また資機材費の上昇により厳しい事業環境が続いています。玉野機械工場における生産量は200基/362万馬力となった。来期は大型機関の生産量が増えることから165基/375万馬力を予定している。また、NOx三次規制対応機関が急増しており、来期は生産量の45%を占めるまで増加する予定。今後、舶用機関においても地球温暖化への対応が求められており、ガス燃料機関への需要が見込まれている。厳しい事業環境の中ではあるが、多燃料化、短納期化、デジタル技術を活用したアフターサービスなど、多様化する顧客ニーズに応えるため、必要な設備投資を進めている。
運搬機については、東南アジアやアフリカなどの新興国で引き続き港湾の新設や増設が多数計画されておりコンテナクレーンの堅調な需要がある。今期はマレーシア、フィリピン、ベトナム(東南アジア)向けに加えてアンゴラ(アフリカ)向け、ポルトガル、スウェーデン(ヨーロッパ)向けの大型案件を受注した。また国内向けでも遠隔自動操作用コンテナヤードクレーンの大型案件を受注した。受注台数は、海外向けでガントリークレーン13基、ヤードクレーン55基、多目的クレーン2基、国内向けでガントリークレーン5基、ヤードクレーン35基、製品クレーン1基となった。来期の受注案件においても引き合いは堅調だが、新型コロナウイルス感染拡大の影響により顧客ターミナルのコンテナ荷役量が減っていることから、海外顧客においては一部で一時的な投資の先送りが発生している状況。
産業機械については、特殊材料大型反応器や回転乾燥機等の石油化学向けプロセス機器の受注が順調に推移した他に、韓国向け高炉送風機3基の更新案件を受注した。石油精製・石油化学関連設備である往復動圧縮機の引き合いは増加傾向にあるが、競合他社との競争で厳しい受注環境が続いている。また、新型コロナウイルス感染拡大の影響による経済停滞に加え、原油価格の下落により、案件の先送り増加が懸念されるが、実施が確定している案件もあることから、これらの受注に注力していく。
社会インフラについては、プレストレスト・コンクリート(PC)橋梁の受注は国土交通省向けと高速道路会社向けを中心に好調に推移したが、鋼製橋梁の受注は国内における総発注量の落ち込みもあり低調となった。一方、沿岸製品については浮桟橋を中心に可動橋やケーソンの受注も好調に推移した。また、老朽化したトンネル・道路・橋梁など社会インフラの劣化・損傷度の調査・診断作業の効率化が喫緊の課題となっているが、その重要ツールとして自社開発のレーダ探査技術、撮影技術の強化・差別化に取り組んでおり、新たに市場投入した複合探査車とトンネル撮影車により受注を拡大している。
アフターサービスを中心としたLSS事業(製品ライフサイクル対応型事業及び顧客問題解決型事業)については、舶用部品マーケットが好調に推移したことから、ディーゼル部品の受注が好調だったこと、製鉄所、石油精製プラント、発電設備用機器向けの定期点検作業や補修工事の受注も好調に推移したこと、また、コンテナクレーン新設に伴う既設機の移設・解体工事やクレーン安定稼動に向けた改修工事などにより、受注高・売上高ともに前期から増加した。なお、アフターサービスにおける新型コロナウイルス感染拡大の影響については、今のところ顕著な影響はないが、世界経済が縮小している状況が長引けば、大きな影響を受ける懸念がある。
受注高は、舶用ディーゼル機関、コンテナクレーン及びアフターサービス事業などが堅調に推移したことにより、前期と比べて69億39百万円増加(+3.7%)の1,922億72百万円となった。売上高は、舶用ディーゼル機関や各種産業機械の引渡しが増えたこと及びアフターサービス事業などの増加により、前期と比べて135億13百万円増加(+7.2%)の2,004億49百万円となり、営業利益は、アフターサービス事業の好調などにより、前期と比べて31億12百万円増加(+30.5%)の133億23百万円となった。
<エンジニアリング>
環境・エネルギー分野においては、環境事業を三井E&S子会社である三井E&S環境エンジニアリング㈱へ集約し、風力発電建設事業においては撤退を決定した。
石油・化学プラント分野においては、化学プラント関連事業の子会社である三井E&Sプラントエンジニアリング㈱をJFEエンジニアリング㈱へ譲渡した一方、既受注工事においては確実な工事遂行に注力し、ルイジアナ州向け石油化学プラント工事を完成・引渡しをした。
バイオマス発電事業分野においては、国内新設事業からの撤退を決定した。また、既受注工事の市原バイオマス発電㈱向け発電所建設工事の確実な工事遂行に向け引き続き注力している。
海外インフラ分野については、インドネシア向け火力発電所土木建築工事において大幅な損失が発生した。この損失の最小化に引き続き努めるとともに、インドネシア及びベトナムで進行中の他の火力発電所土木建築工事の確実な工事遂行に注力している。既受注工事完了後は、同事業から撤退し、そのリソースを三井E&Sグループの成長の見込める事業に再配置する。
受注高は、事業再生計画に伴いバイオマス・風力発電案件の新規受注を控えた影響及び前期に国内石油化学プラント大型工事の受注があったこと等から、前期と比べて106億99百万円減少(△18.2%)の482億28百万円となった。売上高は、風力発電などの大型工事が終了したものの、子会社で化学プラントの建設工事が進捗したことから、前期と比べて6億48百万円増加(+0.9%)の696億21百万円となり、営業損失は、前期に引き続きインドネシア向け火力発電所土木建築工事での大幅な損失計上等があったものの、損失額は減少し、前期と比べて82億47百万円改善の714億23百万円の損失となった。
■今後の見通し
①対処すべき課題
三井E&Sグループは、エンジニアリング事業の海外大型EPCプロジェクトの損失により、財務基盤を大きく毀損したことから、この回復を急務としている。また、造船事業やエンジニアリング事業など既存事業の収益も悪化しており、不採算事業からの撤退や新たな収益の柱となる成長事業の育成が必要と考えている。このような状況のもと、三井E&Sグループは、ステークホルダーの信頼回復に向け「三井E&Sグループ 事業再生計画」を定め、財務基盤の回復及び収益体質の強化を目指し、総力を挙げて取り組んでいる。
(財務体質及び収益体質の強化)
事業、資産の売却を実行した結果、資金の確保に関しては一定の目途が付けられる状況に至った。今後、固定費の削減、不採算事業の整理・撤退により利益率の改善を進め、さらに事業構造の変革を推し進めることにより、財務体質及び収益体質の強化を図る。
(事業構造の変革)
「MES Group 2025 Vision」の「環境・エネルギー」、「海上物流・輸送」、「社会・産業インフラ」の3事業領域から、機械事業、海洋事業を注力事業と位置付け、グループ内の連携を強化する。また、造船事業、社会インフラ事業は、グループ外企業との協業・提携により成長を目指す。
ⅰ.機械事業、海洋事業の強化
グループ内の事業再編に伴う人員再配置と並行し、研究開発部門、アフターサービス部門については、人材リソースの強化を進めている。今後は舶用推進システム全般への拡張、LSS事業の強化、海外への事業展開による収益力強化を図っていく。
ⅱ.造船事業、社会インフラ事業の再編
造船事業は、千葉工場における商船新造事業からは撤退し、玉野艦船工場における艦艇・官公庁船の建造及び修繕を主体とした事業と、商船を対象としたエンジニアリングと委託建造事業にポートフォリオを変革していく。
社会インフラ事業は、橋梁等の建設事業のリソースを集約し、協業による競争力の強化と市場規模の拡大を図っていく。
ⅲ.エンジニアリング事業の再編
社長直下にエンジニアリング事業管理室を設立し、エンジニアリング事業のガバナンス体制の再構築を進め、既受注の発電土木プロジェクトの遂行と収益改善を進めている。また、化学・発電プラント等のエンジニアリング事業の整理とそれらの事業に関連する人員の再配置を進めている。
三井E&Sグループは、2019年度からの4年間を、事業基盤を再構築し、飛躍に向かい力を溜める期間と位置付け、これらの施策に総力を挙げて取り組み、逆風に強い経営体質を構築していく。
②次期の業績見通し
次期の連結業績見通しは、売上高6,300億円、営業損失100億円、経常損失70億円、親会社株主に帰属する当期純利益0億円を見込んでいる。
船舶セグメントは、建造隻数が減少することから減収となる見込み。損益面では、採算の改善や固定費の削減などにより営業損失は改善する見通し。
海洋開発セグメントは、新規プロジェクトを受注したが、新型コロナウイルスの影響による建造工事の遅れや原油価格の下落による石油開発会社の開発計画見直し等により減収・減益となる見込み。
機械セグメントは、引き合い豊富なコンテナクレーンや大型舶用ディーゼル機関の生産等により当連結会計年度並みの売上高となる見込み。
一方、損益面では、依然として船価の回復は鈍く、製品価格の引き下げ圧力は継続すると見込まれることから、減益となる見通し。
エンジニアリングセグメントは、事業売却及び新型コロナウイルスの影響による海外大型石炭火力発電所土木建築工事の進捗低下により減収となる見込み。損益面では、2019年度の営業損失から大幅に改善する、事業再編に伴う一時的な操業不足から営業損失となる見通し。
なお、事業再生計画に伴う所管変更により、社会インフラ事業を機械セグメントからその他セグメントへ変更する。
また、新型コロナウイルス感染症拡大による影響は、現時点で三井E&Sが把握可能な情報に基づいて見込んでいるが、同感染症の流行に伴う社会・経済に対する影響が今後さらに拡大・長期化した場合には、変動する可能性がある。
業績見通しにおける為替レートは1米ドル=110円を前提としている。
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