信越化学工業は7月24日、米国子会社シンテック社(本社:テキサス州ヒューストン、会長、創業者:金川千尋)が塩から塩化ビニル樹脂(PVC)の一貫工場の新設を開始すると発表した。場所はルイジアナ州の現有工場に隣接する敷地で、更地での新規工場建設となる。
PVC原料のモノマーにして19億ポンド(860千トン)/年、苛性ソーダで660千トン/年を生産する工場の建設に必要な許可を取得し、第1期目の工事に着手した。第1期目の工事で増加する生産能力はPVC6.4億ポンド(290千トン)/年、苛性ソーダ270千トン/年。建設投資額は14.9億ドル(約1,654億円、111円計算)の見込みで、シンテック社の自己資金で賄う。完工は2020年末を目指す。第1期工事完了時点の生産能力は、PVC71.4億ポンド(3,240千トン/年)、苛性ソーダ1,570千トン/年となる。
シンテック社は世界最大のPVCの生産能力を有し、今回の新設工場を完成させると、そのPVCの生産能力は年産3,240千トンに達する。ちなみに、日本全体のPVCの市場規模は1,040千トン(2017年度)であり、シンテック社の生産規模はその3倍を超える。汎用樹脂である塩ビは、その生産能力が大きいほど規模の利益を獲得することができる。
シンテック社の昨年度の経常利益は前年比75%増の6.73億ドルで過去最高となり、信越化学の連結決算での最高益の更新に大きく貢献した。
1974年に米国テキサス州でPVCの操業を開始したシンテック社は、カントリーリスクが相対的に少ないと考えられる米国内に事業基盤を確立し、ルイジアナ州プラックミンに、広大な工業用地を所有している。シンテックはルイジアナ州政府及び地元自治体と良好な関係を築き、地元の強い支持と理解を得ている。
シンテック社が2004年にルイジアナ州での一貫工場建設を決定した時点では、シェールガス・オイルにより米国のエネルギー事情が一変することは全く予想されていなかった。その後の米国のシェールの展開には目覚ましいものがある。シェールガスを経済的に採掘する技術が実用化され、米国産の天然ガスの生産量は飛躍的に拡大した。現在、高止まりを続けている原油を原料とするエチレンに対し、米国の天然ガスを原料とするエチレンは優位性を確立し、シンテック社はエチレンの調達コストの面での競争力も獲得した。
シンテック社は、ルイジアナ州のプラックミンでPVCを一貫生産する工場を2008年に竣工させてから、3回にわたり増設・増強を実施し、現在ではエチレン工場の建設も進めている。その間、世界のPVC需要はほぼ世界のGDPの伸びに沿って伸長してきた。業界の集計によると、PVCの世界需要の規模は2017年に43百万トン/年にまで達している。その一方で、PVCの供給能力は需要の伸びほどには増加していないことから、世界的に稼働率は上がってきた。今後もこの傾向が続くと見込まれる。苛性ソーダについても同様で、2017年の時点で77百万トン/年である世界需要は供給を上回るペースで伸びてきており、その傾向が続くと見込まれる。
シンテック社は米国の有利な原料事情を取り込みながら、北米及び世界の需要増加に着実に応えるとともに、後続の能力増強を適時行っていく考え。
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