JA全農、生産者が機能を厳選した60馬力級トラクターを農機メーカー4社に開発要求

 JA全農は9月29日、国内農機メーカー4社(井関農機、クボタ、三菱マヒンドラ農機、ヤンマー)に対し、指定した仕様書にもとづく60馬力クラスのトラクターを2018年6月までに開発するよう要求したと発表した。

 JA全農は、生産者の所得向上に向け、物財費の削減・労働費の低減・生産性の向上に資する技術普及の3つの柱でトータル生産コストの低減に取り組んできた。米生産費については、1俵あたり2万円(1985年・ピーク時)から1.5万円(2015年)、10ha以上の大規模農家では1.2万円(同)への引下げを図ってきた。こうした中で、農業機械の普及は、労働時間の大幅削減につながり、生産コスト低減に貢献してきたが、米生産費に占める農機コストは約2割と依然大きく、生産者からは農機価格引き下げの要望が強く出されている。

 現在、JA全農では、生産者からの要望に応え、5070馬力クラスの大型トラクター約450型式から1~2型式に絞り込み、機能を厳選した低価格モデルのトラクターを生産者に提供する取り組みを進めている。

 具体的には、①農業者3団体(日本農業法人協会、全国農協青年組織協議会、全国農業青年クラブ連絡協議会)と全農による資材事業研究会の場で徹底した議論、②生産者モニターによる必要機能の検証、③JAグループ職員による1万名を超える生産者アンケート結果にもとづくニーズ分析を行い、今回の開発要求をとりまとめた。

 農機メーカー4社に要求した仕様は、生産者が厳選した自動水平制御、自動耕深制御、倍速ターン機能を備えたキャビン付トラクターであり、2018年7月製品発表、201810月供給開始するよう開発を求めた。JA全農は、メーカー各社より提案のあった製品の中から、要求した要件を満たした最も安価な製品を共同購入型式として選定し、生産者に供給する。

 共同購入の目標台数は全国1,000台(20182020の3か年)とし、今秋より、TAC1・県域担い手サポートセンター※2とも連携をはかり、生産者への提案活動をスタートさせ、2018年3月末までに共同購入事前申込みをとりまとめる。

 この取り組みは、まずは、機能簡素化の要望が強かった大型トラクターより着手するが、順次、機種・クラスの拡大を進める。

 また、JAグループでは、こうした農機価格引き下げの取り組みとあわせて、「所有」から「共同利用」への転換や、修理・アフターサービス体制の整備による長持ち使用により、農機コストを削減し、生産者の所得向上に取り組んでいく。

1 TACTeam for Agricultural Coordinationの略。全国各地のJAJA全農が組織する農業コーディネートチーム。約1,800名が約9万戸の担い手農家・法人を日常的に訪問し、意見・要望に応えている。

2 県域担い手サポートセンター:JAの総合力を発揮した個別支援や事業提案(生産・販売・購買・資金対応・農業リスク対応・会計・税務・労務管理など)を実施している。

 ニュースリリース

<参考ニュース>

■政府一体で「農業競争力強化プログラム」を策定

 農林水産省は2017年4月、建設機械メーカーを対象にした農業事業への参入支援に乗り出すと発表した。建機国内最大手のコマツや石川、福井両県と、この地域の大規模農家、京都大学が参加する共同研究機関に約1億8,000万円を補助金を出し、コメの生産コスト4割削減を目指す。異業種を含めたメーカー間の競争を促し、国際的に割高とされる日本農機のコストを引き下げる狙いといわれる。


 農機よりも耐久性が高い建設機械であるブルドーザーの利点を生かし、汎用性のあるトラクターに改良、農繁期はトラクターや種まき機に、農閑期は建機として使う。コマツ製のブルドーザーが水田を高精度で測量し、地ならしから代かきまで1台でこなす。

 コマツの建設機械は、情報通信技術の活用などで建設現場の生産性向上で実績があり、この技術などを活用することで、農業分野での生産性向上を目指す。ブルドーザーの耐久稼働時間は、15年相当で約8,000時間で同4,000時間のトラクタの約2倍あるとされる。
 

 日本の農業機械はクボタとヤンマーの2強が出荷額の8割を占め、寡占が一因となり1台あたりの価格は海外に比べて割高だといわれる。政府・与党が昨年まとめた農業改革案で、農機のコストを下げるために新規参入を促す方針を盛り込んでいた。
 

 農水省によると、日本の農業は、新規就農者の確保や担い手への農地集積・集約化といった国内農業の構造改革に取り組むことや、今後拡大が見込まれる世界の食市場を取り込んで日本の農林水産物・食品の需要を拡大することが重要な政策課題となってきていることから、昨年11月、政府一体で「農業競争力強化プログラム」を策定した。

 「農業競争力強化プログラム」全13項目のなかで、肥料や飼料、農薬、機械などの価格引下げが謳われており、生産コストを下げて農業者の手取りを多くすることが課題だとされている。米農家の場合、肥料や農薬、機械といった生産資材を購入する費用は、生産コストの約3~4割を占めており、生産資材を1円でも安く調達できる環境の整備が重要だとされる。
 

 うち農業機械については大手メーカーの寡占状況で、メーカー間のシェアも変わらないなど適切な競争が生じにくいといった構造的な課題を抱えている。このような業界構造になっている背景には、古い規制の存在やコスト意識が高くない農業者が多くいるといったことが挙げている。これらの業界の生産性を向上させるため、生産資材に関する規制や基準の見直し、生産銘柄の絞り込み等を行うとともに、関係事業者の事業再編や事業参入を促進していくとしている。