国際協力機構(JICA)は9月15日、デリーでインド政府との間で、4事業、総額1,442億5,400万円を限度とする円借款貸付契約(Loan Agreement: L/A)に調印したと発表した。
今回円借款契約を調印した事業には、日本の新幹線の技術とノウハウを活用してインド中西部ムンバイ-アーメダバード間(約500km)に建設される予定の高速鉄道を適切に運営・維持管理するための人材を育成する体制作りを行う事業が含まれる。あわせて、デリー首都圏とムンバイを結ぶ貨物専用鉄道の電気機関車調達により、輸送ネットワークの整備を支援する。中西部グジャラート州においては、Make in India(インドでのものづくり)政策推進のための投資環境改善や、環境や労働者の安全・衛生面に配慮した船舶産業の持続的な発展を支援する。これらの事業を通じて、インドの社会・経済の発展を包括的に後押しする。
■対象事業は以下の4件。
(1)ムンバイ・アーメダバード間高速鉄道研修施設建設事業(借款金額:104億5,300万円)
(2)貨物専用鉄道建設事業(電気機関車調達)(借款金額:1,084億5,600万円)
(3)グジャラート州投資促進プログラム(借款金額:168億2,500万円)
(4)グジャラート州アラン及びソシヤ地区シップリサイクル環境管理改善事業(借款金額:85億2,000万円)
■詳細は以下のとおり。
(1)ムンバイ・アーメダバード間高速鉄道研修施設建設事業
Project for the Construction of Training Institute for Mumbai-Ahmedabad High Speed Rail
(a)事業の目的及び概要:事業は、中西部グジャラート州において高速鉄道の運営・維持管理に携わる人材育成のための研修施設を整備し、研修実施体制の充実を図ることにより、高速鉄道の円滑な運営・維持管理及び安全で快適な輸送の実現に寄与するもの。
(b)事業の背景と必要性:現在、インド第2の都市であるマハラシュトラ州の州都ムンバイと、商工業都市として近年急速な発展を遂げているグジャラート州のアーメダバードを繋ぐ交通手段は、その約85%を自家用車及びバスが占めている。同二州はインド全体のGDP成長率を上回る勢いで成長しており、また収入が高い世帯ほど、長距離間をより短時間で移動出来る飛行機等の交通手段に頼る傾向にあることから、大量の旅客を短時間且つ高頻度で輸送することが可能な高速鉄道が大きな役割を担うことが期待されている。
そのためインドでは複数の高速鉄道路線の建設が計画されており、ムンバイ-アーメダバード区間については、2015年12月の日印共同声明において「日本の高速鉄道の技術及び経験を利用して整備されること、これに関して資金援助及び技術援助が日本から提供されるための詳細検討を進めること」が合意されている。一方で、当該路線はインドで初の高速鉄道路線となることから、開業に先立ってその運営・維持管理のノウハウを持つ人材を育成することが急務となっている。
(c)事業実施機関:インド高速鉄道公社(National High Speed Rail Corporation Limited)
(d)今後の事業実施スケジュール(予定)
1.事業の完成予定時期:2020年9月(施設供用開始時をもって事業完成)
2.コンサルティング・サービス(施工監理等)にかかる招請状送付予定時期:雇用手続き中
3.本体工事にかかる国際競争入札による最初の調達パッケージの入札公示:スラブ軌道実習線パッケージ(Construction of Training Line with Slab Track for Mumbai Ahmedabad High Speed Railway Project)
予定時期:2017年5月(公示済)
(2)貨物専用鉄道建設事業(電気機関車調達)
Dedicated Freight Corridor Project (Procurement of Electric Locomotives)
(a)事業の目的及び概要:事業は、インド政府が計画しているデリー首都圏と西部沿岸地区(ムンバイ)間を結ぶ貨物専用鉄道の建設において、高出力かつ高速の電気機関車を導入し、貨物輸送能力の増強と物流ネットワークの効率化を実現し、もって産業集積地間の連結性と産業競争力の強化に寄与するもの。
(b)事業の背景と必要性:インド屈指の消費地・生産拠点である首都デリーと貿易の玄関港であるムンバイ、北東部のコルカタ、南東部のチェンナイを結ぶ「黄金の四角形」と呼ばれる鉄道路線は、全国の貨物輸送量の約58%を占めている。特に首都デリーとムンバイを結ぶ区間では今後も経済成長や人口増加に伴い、コンテナ貨物や農産物・鉱工業資源の輸送量の増加が見込まれることから、輸送網の高出力化および高速化を図るとともに、需要に見合った輸送能力の強化が必要となっている。
大量輸送が可能であり、かつ道路輸送に比べ環境配慮型である鉄道の整備・強化は、今後高い成長率が見込まれる貨物輸送需要への対応、物流ネットワークの効率化に加え、温室効果ガスの排出削減の観点からも、不可欠とされている。
(c)事業実施機関:インド鉄道省(Ministry of Railways)、貨物専用鉄道公社 (Dedicated Freight Corridor Corporation of India Limited)
(d)今後の事業実施スケジュール(予定)
1.事業の完成予定時期:2025年3月(全ての電気機関車納入時をもって事業完成)
2.コンサルティング・サービス(事業実施監理等)にかかる招請状送付予定時期:本事業においては、コンサルタントの雇用は予定されていない。
3.本体工事にかかる国際競争入札による最初の調達パッケージの入札公示:電気機関車調達(Procurement of Electric Locomotives)
予定時期:2017年8月(公示済)
(3)グジャラート州投資促進プログラム
Gujarat Investment Promotion Program
(a)事業の目的及び概要:事業は、財政支援を通じて、インド中西部グジャラート州における海外直接投資等の民間投資促進や産業振興、産業人材育成に関連する政策・制度の改善を促すと共に、インフラ開発委員会の能力強化を図ることにより、主に道路、電力、水道等のインフラ投資環境の早期整備を推進するもの。
(b)事業の背景と必要性:グジャラート州は、インドと中東の結節点となる地域に位置しており、インドの対外輸出金額の19%、港湾貨物取扱量の41%を担う等、インド経済発展の牽引役を担っている。しかし、同州の投資環境整備は十分進んでいるとは言えず、州内で操業する外国企業からは改善を要望する強い声が聞かれている。
特に、産業人材育成のための教育の質や、道路や水道、電力といった基礎的インフラの不足、各種投資手続き申請の認可に要する長い時間等が主な課題として挙げられている。さらなる民間投資を呼び込み、持続的な経済成長を実現するため、同州政府はこれら投資環境の改善に向け、取り組みを進めているが、更なる取り組み促進に向けた州政府への政策改善支援が必要となっている。
(c)事業実施機関:グジャラート州政府財務局(Finance Department, Government of Gujarat)
(d)今後の事業実施スケジュール(予定)
1.事業の完成予定時期:2019年6月(貸付完了をもって事業完成)
2.コンサルティング・サービス(施工監理等)にかかる招請状送付予定時期:本事業においては、コンサルタントの雇用は予定されていない。
3.本体工事にかかる国際競争入札による最初の調達パッケージの入札公示:本事業では、国際競争入札による調達は予定されていない。
(4)グジャラート州アラン及びソシヤ地区シップリサイクル環境管理改善事業
Project for Upgradation of Environmental Management for Ship Recycling in Alang and Sosiya in Gujarat
(a)事業の目的及び概要:事業は、グジャラート州アラン・ソシヤ地区において、シップリサイクル(船舶解撤)関連施設等を改善し、国際条約に適合するシップリサイクル方法を導入することにより、シップリサイクルにおける環境管理及び労働安全・衛生管理の改善を図り、もって同州の環境保全と持続的産業発展に寄与するもの。
(b)事業の背景と必要性:船舶産業の一つであるシップリサイクル(船舶解撤)は、運用を終えた船舶を解体し、鉄等の利用可能な資源をリサイクルするもの。インドは2014年から2015年に1,223万6千トンの船舶を解撤し、その解撤量は全世界の26%を占め、世界第一位となっている。他方、インドにおける船舶解撤は、
(1)引火性ガス等による爆発・火災事故や労働者の高所からの墜落等の重大事故、(2)船舶に搭載された油類、化学物質、重金属等による環境汚染、(3)劣悪な労働環境による労働者の健康被害等が課題となっている。
このようなシップリサイクルに関する課題に対応するためには、シップリサイクル施設の改良に加え、造船時や運用時を通じた船舶管理も重要であり、2009年に日本政府が主要な提案者となった「2009年の安全かつ環境上適正な船舶のリサイクルのためのシップリサイクル条約」(シップリサイクル条約)が国際的な枠組みとして採択された。
インドでも、2013年に「船舶解撤規約」が制定され、独自に環境負荷の低減や労働安全の向上のための取り組みが進められているが、シップリサイクル条約の要求を満たしより環境・労働衛生に配慮したシップリサイクル事業とするためには、関連施設の改善及び環境面、労働安全・衛生面に配慮した解体方法の導入・徹底を更に進める必要がある。
(c)事業実施機関:グジャラート州海事局(Gujarat Maritime Board)
(d)今後の事業実施スケジュール(予定)
1.事業の完成予定時期:2022年3月(施設供用開始時をもって事業完成)
2.コンサルティング・サービス(詳細設計等)にかかる招請状送付:2017年9月
3.本体工事にかかる国際競争入札による最初の調達パッケージの入札公示:シップリサイクルヤード改善工事パッケージ(Ship Recycling Yards Upgrading)
予定時期:2019年7月