日産自動車は9月14日、自動車エンジンの生産工程で用いる日産の独自技術「ニッサン・マシニング・ラフニング・プロセス(Nissan Machining Roughening Process:以下NMRP」のライセンスを工作機械メーカー大手であるGebr. Heller Maschinenfabrik GmbH(本社:ドイツ ニュルティンゲン 以下ヘラー)に供与したと発表した。
これにより、世界の自動車メーカー各社はNMRPを利用したヘラー製のマシンを導入することで、エネルギー効率の高い「鉄系溶射皮膜」を採用したエンジンを安定した品質で量産することが可能となる。
日産の経営戦略本部、パートナーシップ、ビジネスデイベロップメント担当のカトリン・ペレス常務執行役員は、「日産は自社で開発した技術を自社利用に留めず、外部で利用促進する取り組みにより、社会全体での技術の発展に寄与していきます。また、これらの無形資産の有効活用によって得られる収入を新たな技術開発に投資することで、自社の技術開発をさらに推し進めていきます。今回のヘラーへのNMRPのライセンス供与もこの活動の一環です。本技術を広めることで、業界全体の製品・サービスの品質とお客さま満足度の向上に寄与していきたいと考えています。」と述べた。
自動車エンジンのピストンが上下運動する筒状のスペース(シリンダーボア)を摩擦や熱から保護するため、通常シリンダーボアの内側には2.6mmほどの厚みを持つ鋳鉄製ライナーが挿入されている。近年、エンジンの軽量化や燃費向上のため、高性能車、超低燃費車を皮切りに、鋳鉄製ライナーに替わる鉄系溶射皮膜の採用が始まっている。鉄系溶射皮膜とは、溶けた低炭素鋼を吹き付ける(溶射)ことにより、わずか約0.2mmの薄膜化を実現するもの。加工後にシリンダーボアの内面を鏡面仕上げとすることから「ミラーボアコーティング」とも呼ばれ、軽量化や冷却性能の向上により、運転者に我慢を強いることなくエンジンのエネルギー効率を向上させることができる。
一方、鉄系溶射皮膜は、従来の技術では安定した品質で量産を行う事が困難で、一部の高性能エンジンにしか採用されていなかった。量産には、高度な溶射技術に加え、常に爆発・圧縮にさらされているシリンダーボアの内面でも溶射した皮膜が密着を維持する技術が必要。日産が開発したNMRPは、ボーリング加工の一種で、工具と加工条件を最適化することにより、溶射皮膜が強固に密着するようシリンダーボアの内面を粗面化する技術。NMRPと適切な溶射技術を組み合わせることで、鉄系溶射皮膜を持つエンジンの安定的かつ安価な量産が可能となる。
日産は、「NISSAN GT-R」のVR38DETエンジンに初めて鉄系溶射被膜を採用し、その後「ジューク 16GT」のMR16DDTエンジン、「Infiniti Q50、Q60」のVR30DDTTエンジン、「パスファインダー、Infiniti QX60」のVQ35DDエンジン、HR12DDRエンジン、MR20DDエンジン等、高性能エンジンだけでなく、ミニバンやコンパクトカー等の新世代低燃費エンジンにも採用を拡大している。
今回ライセンス供与を行ったヘラーは、既にシリンダーボアコーティング(Cylinder Bore Coating)用の工作機械を製造販売している。今回の日産からのNMRPのライセンス供与により、ヘラーは鉄系溶射皮膜を持つエンジンの量産に必要な一連の製造技術を各自動車メーカーに提供していくことが可能となる。
画像:ミラーボアコーティングを採用した新型4気筒エンジン。
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