■内臓型制振装置はカヤバシステムマシナリー、日本精工と共同開発
清水建設は7月28日、複雑な揺れが生じる超高層ビルの長周期地震動対策として、屋上設置型の新たな制振装置「シミズ・スイングマスダンパー」を開発したと発表した。最大の特徴は、制振装置の動きを装置に内蔵する別の制振装置で制御することにより、1台の制振装置で周期が異なる二通りの揺れを抑制できること。
超高層ビルは、平面形状が正方形に近いと方向を問わずほぼ一定の固有周期で揺れるが、長方形になると一棟のビルでありながら長辺方向と短辺方向とで周期が異なる二通りの揺れが生じる。異なる周期の揺れを効果的に吸収するためには、それぞれの周期に合わせた制振装置を各方向に設置することが望まれるが、屋上では必ずしも充分なスペースを確保できない。また、屋上階設置型の制振装置1台あたりの錘の重量は数百トン規模となり、総重量では1,000tを超えることから、軽量化も求められている。
清水建設はこうした屋上設置型制振装置に対するニーズを踏まえ、シミズ・スイングマスダンパー(SMD)を開発した。SMDの基本構成は4本脚のテーブルのようになっており、テーブルの面板が鋼製あるいはコンクリート製の錘、4本脚の1本1本が2段構成の積層ゴムとなる。装置の中には、積層ゴムを連結する鉄骨フレーム、フレーム間に連結された内蔵型制振装置、錘の揺れを減衰させるオイルダンパーが組み込まれている。地震時には、錘が積層ゴムを変形させながら建物の揺れを打ち消す方向に動く。
積層ゴムは通常の免震ビルに用いられるもの。積層ゴムの固さと高さを調整することで、錘の揺れの周期を超高層ビルの長周期の揺れに同調させる。SMDを特徴づける内蔵型制振装置は清水建設とカヤバシステムマシナリー、日本精工が共同開発したダイナミックスクリューを転用したもので、元来、超高層ビルの揺れを回転運動に変換して制振効果を発揮するもの。内蔵型制振装置としての役割は特定の方向に対する積層ゴムの変形を抑制しながらSMDの周期を長くすること。この仕組みにより、SMDなら1台でも周期が異なる二通りの揺れを抑制できる。
開発にあたっては、重量30tの錘を搭載したSMDの縮小モデルを製作して技術研究所の大型振動台で振動実験を実施し、1台の装置で周期が異なる二通りの揺れに対応できることを確認。また、既存の超高層ビルの構造データを模した30階建て、長辺・短辺方向の固有周期がそれぞれ3秒と3.5秒のモデルにSMDを適用したシミュレーションも実施した。制振理論に基づき建物重量の3%程度を想定して重量400tの錘を搭載したSMD3台を設置した結果、南海トラフ地震の模擬地震動に対して、最大で長辺方向の揺れを52%、短辺方向の揺れを43%低減できた。この低減効果により、建物の構造体はもとより、天井や壁などの二次部材の被害も防止・軽減できる見込み。
なお、同重量の錘を搭載した従来タイプの制振装置3台では、短辺方向の揺れの低減効果は最大で21%しか期待できない。SMDと同等の制振効果を得るためには総重量1,600tの錘を数分割して異なる周期の制振装置を設置する必要がある。
今後、国土交通省の方針に基づく「南海トラフ地震」への対応に加え、「相模トラフ地震」に備えた対応を含めると、長周期地震動対策を施す超高層ビルの新築・改修工事が増加すると予想されている。清水建設は、SMDとダイナミックスクリューを武器に提案活動を展開し、案件受注に結び付けていく考え。
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