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コマツ、統合報告書2025を発表、新社長体制下で「モノとコト」両輪の価値創造へ

・DX推進と社会課題解決を経営目標に、3年累計1兆円のFCF目標を新設

コマツは12月17日、「コマツレポート2025」(統合報告書)の説明会を開催した。今年4月に社長に就任した今吉琢也氏による初の統合報告書となり、新中期経営計画の重点活動や価値創造ストーリーを中心に構成されている。説明は執行役員サステナビリティ推進本部長の出浦淑枝氏が行った。

■新社長メッセージで「信頼度の総和」最大化を宣言

今吉社長は、同社が2021年の創立100周年を機に選定した存在意義、価値観、ブランドプロミスに基づき、「品質と信頼性」を追求し、「社会を含むすべてのステークホルダーからの信頼度の総和を最大化する」ことを経営の基本とすると表明した。

新中期経営計画については、不確実性の高い時代においても、同社自らが変化を起こすために投資を行い、「コト価値」と「モノ価値」の両輪で顧客価値を創造していく意気込みを、キーワード「Ambition(アンビション)」に込めたと説明した。

同社の強みとして、(1)他社に先駆けたイノベーション、(2)品質管理を基盤としたものづくりの進化、(3)コマツウェイをグローバル共有する人材、の3点を挙げた。グローバルで6万6000人の従業員のうち7割が日本以外で働く中、共通の価値観で行動することを重視している。

■新世代油圧ショベルで「コトとモノ」の融合を具現化

特集記事では、昨年末に市場投入した新世代油圧ショベル「PC200i-12」を取り上げた。同機は最新の3D施工機能とスマートコンストラクションの一部機能を標準搭載し、購入初日から「コト価値」と「モノ価値」を体感できる。また、ソフトウェアの書き換えで性能向上が可能な、同社初のSDV(ソフトウェア・ディファインド・ビークル)モデルとなっている。

日本の建設現場では、社会インフラの老朽化や自然災害の頻発により土木建設工事のニーズが高まる一方、熟練オペレーターの高齢化による人材不足が深刻化している。同機は、ICT建機により熟練オペレーターでなくても高精度な施工を可能にし、現場の生産性向上に貢献する。

取材した顧客からは「スマートコンストラクション機能により、現場地形と異なる施工図面のリモートでの即時修正が可能になった」「3D施工機能により、若手人材でも高精度の作業ができるようになり、人材育成にも寄与する」との評価を得ている。ドイツの販売代理店からも「コストと時間を節約する未来のサービスを提供できる。建設市場で大きく飛躍できる」と期待の声が寄せられた。

■生産DX戦略で「変動に強く止まらない工場」を実現へ

生産DX戦略では、「変動に強く止まらない、コストミニマムな工場」の実現を目指している。同社の生産における強みは、(1)キーコンポーネントの自前化、(2)マザー工場制、(3)クロスソース体制、(4)協力企業との強固な関係、の4点だ。

大阪工場では現在、「ダントツの生産性と競争力を実現する次世代DX工場」の建設を進めている。自社開発のデータ収集システム「KOMMIX(コムミックス)」と構内自動搬送車を連携させ、生産性を大幅に向上させる。ここで確立した技術はグローバルに水平展開する予定だ。

また、タイでの生産改革DXプロジェクトや、協力企業と共同で苦渋作業であるハンマー鍛造工程を自動化した事例も紹介された。

■財務・非財務の両面で経営目標を設定

中期経営計画では、社会課題の解決と収益向上の循環により持続的な成長を目指す姿勢を明確にするため、財務目標と非財務目標を分けて掲載した。

財務目標では、前中期経営計画から継続する「業界水準を超える成長率」「業界トップレベルの利益率」に加え、今回新たにフリー・キャッシュ・フロー(FCF)の目標を設定した。3年累計で1兆円(M&A関連支出を除く)を目指す。収益を確保しつつ成長投資を継続していく観点から新設された指標だ。その他、ROE10%以上、ROA1.5〜2.0%、連結配当性向40%以上などの目標を掲げている。

非財務目標では、「社会課題解決KPI」30項目の達成度を総合評価する。主なKPIとして、女性管理職比率(グローバル)14.0%、AHS(無人ダンプ運行システム)累計導入台数1000台、アフターマーケット事業売上高伸び率+15%(2024年度比、為替一定)などを設定した。環境負荷低減については、生産によるCO2削減率39%(2010年度比、総量)、製品稼働時のCO2削減率32%(2010年度比、原単位)を2027年度目標としている。

■AHSの社会的影響額を初公開

CFOメッセージでは、企業価値向上に向けた財務戦略を詳細に解説した。同社は、企業価値向上の指標であるPBR(株価純資産倍率)をPERとROEの各要素に分解し、競合他社の水準と比較しながら活動に取り組んでいる。

注目されるのは、インパクト加重会計の手法により、無人ダンプ運行システム「AHS」が生み出した社会への価値を約3600億円と算出し、初めて公開したことだ。この金額には、世界的に人手不足が深刻な鉱山現場でAHSを導入することで生まれる労働価値や、無人運転により事故リスクが低減できることで回避できる労働災害補償などが含まれている。

■マテリアリティ分析で6分野18項目を特定

中期経営計画の策定に先立ち、3年ぶりにマテリアリティ分析を実施した。39項目の重要課題について、ビジネスへの影響と環境・社会への影響の両側面から分析する「ダブルマテリアリティ」の手法により、6分野18項目を特定した。これらは「人と共に(社員・人権)」「社会と共に(顧客・倫理・統治・地域社会)」「地球と共に(環境)」に分類され、中期経営計画の重点活動に盛り込まれている。

■人的資本戦略でエンゲージメント向上を推進

人的資本については、成長戦略3本柱の1つである「経営基盤の刷新」において、事業成長を支える人材の獲得・活躍の推進を掲げた。「多様な個性が地域のみならずグローバルに輝ける環境の実現」を人事教育部門の重点活動に位置付けている。

具体的には、(1)魅力ある職場への入社、(2)やりがいのある仕事、(3)継続的な個人の成長、(4)エンゲージメント向上につながる報酬、の4要素を最大化していく。基盤となる安全な職場の実現、HR DXの推進、ダイバーシティ&インクルージョン推進にも引き続き取り組む。

今年度実施したグローバルエンゲージメントサーベイでは、「持続可能なエンゲージメント」のスコアがグローバル、日本ともに向上した。今後も定期的にサーベイを実施し、アクションプランを通じて社員の声を活かした人事政策を進める。

■環境対応でバッテリー戦略を紹介

地球環境問題への取り組みについては、TCFD(気候関連財務情報開示タスクフォース)の枠組みに沿って活動を紹介した。気候変動における16のリスクと機会を特定し、取り組むべき4つのテーマを定めている。

今年は「低炭素製品への移行」を取り上げた。2023年にバッテリーメーカーのアメリカンバッテリーソリューション社がグループに加わったことを受け、電動建機の安定的な開発に向けたバッテリー戦略を紹介している。また、今後のサステナビリティ開示を見据え、インターナルカーボンプライシングの設定価格や対応実績も公開した。

さらに、新中期経営計画の重点活動の1つとして設定した「ネイチャーポジティブ」の取り組み事例も加えている。

■社外役員座談会で取締役会の実効性を評価

ガバナンスセクションでは、昨年の2名から3名に増やした社外役員による座談会を掲載した。人事諮問委員会の委員長である國部毅氏と委員のアーサー M. ミッチェル氏からは、今回の新社長就任に際して経営リーダーの資質に関する議論を行ったことが紹介された。すでに次世代以降の候補者についても議論が始まっているという。

新中期経営計画については、「ありたい姿からのバックキャスト」と「中長期の外部環境を織り込んだシナリオプランニング」をバックボーンに、取締役会で活発に議論されたことが語られた。

取締役会の実効性については、「社外役員からの質問であっても自由闊達な話ができる風土がある」「取締役会の前に説明や情報が丁寧に提供されるので、しっかり準備して参加できる」との評価が示された。社外監査役の松村眞理子氏からは「ダイバーシティを引き続き推進してほしい」、國部氏からは「事業リスクや経営環境が変わることは企業にとってチャンス」、ミッチェル氏からは「コマツらしさを競争力に変えて市場シェアを高めてほしい」との期待が寄せられた。

■ステークホルダーとの対話を重視

説明会では、ステークホルダーからのフィードバックを次回のレポートやIR活動に反映していく方針が示された。ウェブサイト上に新たにアンケートページを設け、忌憚のない意見を募集している。回答者全員に「水中施工ロボット」のオリジナル壁紙をプレゼントする。

執行役員サステナビリティ推進本部長の出浦淑枝氏は、「ステークホルダーの皆様からいただいたフィードバックを会社の情報発信に活かす取り組みを継続することで、コマツの企業価値である皆様からの信頼度の向上につなげてまいりたい」と述べ、説明会を締めくくった。

【コマツレポート2025の主な構成】

– イントロダクション:コマツが大事にしているものやこれから目指す姿

– 価値創造ストーリー:トップメッセージやビジネスモデル、価値創造の具体的事例

– 中期経営計画:中計の深掘りと企業価値向上に向けた財務戦略

– サステナビリティ:人・社会・地球に関する取り組み

– ガバナンス:コーポレート・ガバナンス、リスクマネジメントなどに関する取り組み

– Data:財務・非財務情報のまとめ

統合報告書2025

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