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コマツ、中近東市場で攻勢、10年で売上倍増2,000億円目指す

・パキスタン鉱山に660億円の大型受注、地域統括体制を強化

コマツは12月17日、中近東市場に関する説明会を開催し、同地域での事業戦略を発表した。脱石油経済への転換が進む中近東で、インフラ投資と鉱物資源開発という2つの成長機会を捉え、今後10年間で売上高を現在の約1,000億円から2,000億円規模へ倍増させる計画を明らかにした。

■地域統括本社化で意思決定を迅速化

コマツは2024年、UAE・ドバイに拠点を置く現地法人Komatsu Middle East FZE(KME)を地域統括本社に格上げした。建機マーケティング本部海外営業第二部の藤井康則部長とKME社長の法亢(ほうが)智光氏が説明に立ち、「意思決定のスピードと現地対応力が格段に向上した」と強調した。

KMEは中近東16カ国を管轄し、123名の多国籍スタッフを擁する。ドバイ本社のほか、サウジアラビア・ジェッダ支店、エジプト・カイロ事務所、パキスタン・カラチ子会社の4拠点体制で、独立系販売代理店10社と連携して事業を展開している。

■ギガプロジェクト続々、ブルドーザ需要が特徴

中近東市場の特徴は、産油国の脱石油政策に伴う大規模プロジェクトの勃興だ。サウジアラビアの「ビジョン2030」に基づく2030年万博や2034年サッカーワールドカップ開催に向けた都市開発、UAEのドバイ空港拡張、湾岸6カ国を結ぶガルフ鉄道建設など、推定総額200兆円から300兆円規模のインフラ投資が進行中だ。

市場の特性として、建設機械需要に占めるブルドーザの比率が世界平均の15%に対し25%と高く、特に大型ブルドーザではコマツの全世界売上の約4割を中近東が占める。「広大な土地の造成や硬い岩盤の掘削にブルドーザが効率的で、部品消費も多いため戦略的に重要な製品」と法亢氏は説明した。

■砂塵・高温の過酷環境、サービス体制で差別化

中近東特有の砂塵、岩盤層、高気温という過酷な環境に加え、プロジェクト納期内に多数の機械を集中投入する運用方法により、機械への負荷が極めて高い。このため、アフターサービスと延長保証が重要な差別化要因となっている。

コマツはドバイに本体・部品の物流ハブと代理店メカニック向けトレーニング施設を整備。「メーカーとして地域本社を持ち、これらの機能を提供していることが大きな強みとして評価されている」(法亢氏)という。

さらに、ICT建機を活用したスマートコンストラクションの展開も進める。世界最大規模のソーラーパーク開発プロジェクトでのトライアルでは、ICTキット搭載ブルドーザが従来機の倍の生産性を実現。「中近東特有の大規模工事はICT化との相性が良く、この分野のリーダーを目指す」と意欲を示した。

■パキスタン鉱山で660億円受注、マイニング事業を本格化

脱石油経済のもう一つの柱が鉱物資源開発だ。サウジアラビアは2.5兆ドルの埋蔵量を持ち、UAE、ヨルダン、エジプト、パキスタンでも鉱山開発が活発化している。

最大の成果が、今年5月に獲得したパキスタン・レコディック鉱山向けの大型受注だ。機械本体だけで総額4億4,000万ドル(約660億円)に上り、「中近東マイニング業界の地図を塗り替える案件」と位置付ける。

同鉱山はカナダの資源メジャー、バリックゴールド社が開発権を取得した銅・金鉱山で、40年以上の採掘が可能な世界8位規模のプロジェクト。2028年の生産開始に向け、980Eダンプトラック、4100XPCロープショベル、PC7000油圧ショベル、WE2350ホイルローダなど超大型機械を納入する。

24時間365日稼働する鉱山のサポート体制として、KMEの子会社「コマツ パキスタン マイニング」を今年7月に設立。現場に張り付いて機械稼働を支える体制を整え、本格生産時には500人規模に拡大する計画だ。ドバイのKME本社でも超大型機械用の部品・コンポーネント供給体制を強化する。

「この能力増強により、サウジアラビア、ヨルダン、エジプトで探査中のプロジェクトが本格化した際に、コマツを選んでもらうための大きな強みになる」と法亢氏は語った。

■ブランド認知向上へF1スポンサー活用

成長戦略の一環として、ブランド認知度向上と地域貢献活動にも注力する。中近東で人気の高いF1のスポンサーシップを昨年から開始。年24回のグランプリのうち4回が中近東で開催されることから、「宣伝効果が非常に高く、タイアップを拡大していく」方針だ。

地域貢献では、オリンピック選手も輩出しているコマツ女子柔道部による現地での柔道クリニック、子ども向けイベント「キッズデー」、事業所周辺の清掃活動などを展開していく。

■10年で売上倍増、全セグメントでトップ目指す

法亢氏は「中近東市場には石油依存や地政学リスクがあるものの、脱石油経済への移行が明確に進展しており、機会がリスクを大きく上回る」と強調。「一般建機、砕石、マイニングの全セグメントで地域トップを目指し、今後10年で売上を2,000億円規模に持っていきたい」と意欲を示した。

コマツにとって中近東は全社売上の3%を占める市場だが、1960年代からの事業展開で培った現地ネットワークと、2024年の地域統括本社化による体制強化を武器に、成長市場での地盤固めを加速させる構えだ。

【用語解説】
∙ ICT建機: 情報通信技術を活用し、施工の効率化・高精度化を実現する建設機械
∙ ギガプロジェクト: 投資額が数千億円から数兆円規模に及ぶ超大型開発プロジェクト
∙ 脱石油経済: 石油に依存した経済構造から、観光・インフラ・鉱業など多様な産業への転換​​​​​​​​​​​​​​​​

中近東市場における価値創造の挑戦

 

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