・受注高は27%増の2兆374億円、23年度予想は6.7%減の1兆9,000億円
■経営成績の概況
世界経済は、各国の渡航規制の緩和による航空需要の増加や中国のゼロコロナ政策終了に伴う内需拡大などにより、堅調に推移しており、国内においても、新型コロナに関する各種規制が緩和され、サービス消費やインバウン ドを中心として緩やかに回復している。また、米国における金融機関の経営破綻から、一時は金融システムや実体経済への悪影響が懸念されたが、現時点でその影響は比較的軽微に留まっている。一方、欧米各国を中心に高インフレや金融引き締めに伴う景気減速への警戒感が強まっており、世界経済の先行きや国内景気への影響については引き続き注視が必要となっている。
■セグメント別業績の概要
<航空宇宙システム事業>
航空宇宙システム事業を取り巻く経営環境は、防衛省向けについては抜本的な防衛力強化という防衛省の方針のもと、今後の需要増が期待される。民間航空機については、新型コロナウイルス感染拡大により旅客需要が低迷 していたが、 経済活動再開を優先する諸国が増加してきていることから、 回復に向けて大きく前進している。
連結受注高は、民間航空エンジン分担製造品が増加したものの、防衛省向けの大口 案件の受注があった前期に比べ377億円減少の3,455億円。連結売上収益は、民間航空エンジン分担製造品や民間航空機向け分担製造品などが増加したことにより、前期に 比べ506億円増収の3,488億円。事業損益は、民間航空エンジン分担製造品や民間航空機向け分担製造品などの増収により、前期に比べ281億円改善して178億円の利益となった。
<車両事業>
車両事業を取り巻く経営環境は、新型コロナウイルス感染拡大による鉄道利用者数の減少の影響があったが、 感染が収束し利用者数の回復が見込まれ、国内外で鉄道車両への投資が再開しつつある。一方で、足元への影響は限定的ではあるものの、電子部品等の供給不足や物流混乱、原材料価格の高騰については、収束が見えつつも 注視が必要。中長期的には、海外市場では大都市の環境対策のための都市交通整備、アジア諸国の経済発展に 伴う鉄道インフラニーズなど、今後も世界的に比較的安定した成長が見込まれる。
連結受注高は、ニューヨーク市交通局向け新型地下鉄電車のオプション契約を受注したことなどにより、前期に比べ2,417億円増加の3,132億円。連結売上収益は、米国向け車両や国内向け車両が増加したことなどにより、前期に比べ52億円増収の1,319億円。事業利益は、増収はあったものの、米国ロングアイランド鉄道向け車両案件の工程遅れによる影響等により、前期並みの13億円となった。
<エネルギーソリューション&マリン事業>
エネルギーソリューション&マリン事業を取り巻く経営環境は、世界経済が新型コロナウイルス感染拡大の影響による停滞から正常化に向かう中、回復基調を維持している。国内外の分散型電源需要、及び新興国におけるエネルギーインフラ整備需要は依然根強く、国内ごみ焼却設備の老朽化更新需要も継続している。また、LPG/アン モニア運搬船も堅調な需要が見込まれる。更には、世界的にカーボンニュートラルの実現を目指す動きが強まっており、強みとする水素製品をはじめ、脱炭素ソリューションに関する問い合わせや協力要請が増加している。一方、発電設備の稼働に必要な燃料ガスの供給安定性など足元の状況に不透明感があるほか、昨今の原材料価格や資機材・燃料費、輸送運賃の高止まり等による受注、売上収益への影響には注視が必要。
連結受注高は、防衛省向け潜水艦の受注やLPG/アンモニア運搬船、発電設備の受注 増加などにより、前期に比べ954億円増加の4,390億円。連結売上収益は、国内向けごみ処理施設案件の工事量減少はあったものの、エネルギー事業や防衛省向け潜水艦の工事量増加などにより、前期に比べ172億円増収の3,145億円。事業損益は、国内向けごみ処理施設案件の工事量減少はあったものの、エネルギー事業、防衛省向け潜水艦の増 収や持分法損益の改善などにより、前期に比べ147億円改善の39億円の利益となった。
<精密機械・ロボット事業>
<パワースポーツ&エンジン事業>
パワースポーツ&エンジン事業を取り巻く経営環境は、新型コロナウイルス感染拡大による市場への影響は徐々 に弱まっている。半導体等の不足による製品供給への影響は今なお残っており注視が必要だが、物流の混乱は落ち着きを取り戻している。主要市場である米国では需要はやや減速しつつあるものの、今のところ堅調に推移 している。また、東南アジア市場は国ごとの差はありつつも全体として前年度より回復している。
連結売上収益は、北米向け、東南アジア向け二輪車及び北米向け四輪車、汎用エンジンが増加したことに加え、為替レートが円安に推移したことなどにより、前期に比べ1,432億円増収の5,911億円。事業利益は、原材料費、物流費の高騰、固定費の増加はあったものの、価格転嫁が順調に進んでいることに加え、 二輪車、 四輪車及び汎用エンジンの拡販や為替の影響などにより、 前期に比べ340億円増益の715億円となった。
<その他事業>
連結売上収益は、前期に比べ83億円増収の863億円。事業損益は、前期に比べ49億円悪化の18億円の損失となった。
■今後の取り組みと2024年3月期(2023年度)の見通し
川崎重工業グループはグループビジョン2030において、注力するフィールドを「安全安心リモート社会」「近未来モビリティ」「エネルギー・環境ソリューション」とし、手術支援ロボットをはじめとする医療・ヘルスケア事業、更には、配送ロボットや無人輸送ヘリコプターの事業化、カーボンニュートラル社会の早期実現に向けた水素事業や電動化の推進など、社会課題ソリューション創出への取り組みを着実に進めている。
2024年3月期(2024年度)の連結業績については、売上収益はパワースポーツ&エンジン事業で減収となるものの、航空宇宙システム事業の旅客需要の一段の回復による増収等により前期比1,744億円増(前期比10.1%増)の1兆9,000億円となる見通し。利益面では、パワースポーツ&エンジン事業の販促費増加により減益となるものの、航空宇宙システム事業の増収による増益等で事業利益は780億円(前期比8.6%減)、親会社の所有者に帰属する当期利益は470億円(同14.7%減)、税後ROICは4.9%、ROEは7.9 %となる見通し。
連結受注高は、前期比1,374億円減少(6.7%減)の1兆9,000億円となる見通し。
なお、業績予想における為替レートは、1ドル=130円、1ユーロ=140円を前提としている。