■経営成績に関する説明
一方で、半導体を中心とした供給制約は改善しつつも、原材料高をはじめとするインフレ圧力が続いており、各国中央銀行の金融引き締めによる景気後退が懸念されている。また、国内においては歴史的な円安が修正されつつあるなど、経済の先行きについては動向を注視する必要がある。
このような経営環境の中で、第3四半期連結累計期間における川崎重工グループの連結受注高は、車両事業、パワースポーツ&エンジン事業を中心に増加となった。連結売上収益については、パワースポーツ&エンジン事業、 航空宇宙システム事業などが増収となったことにより、全体でも前年同期比で増収となった。
利益面に関しては、事業利益は、精密機械・ロボット事業、車両事業などでの減益はあったものの、パワースポーツ&エンジン事業、航空宇宙システム事業、エネルギーソリューション&マリン事業での増益により、前年同期 比で増益となった。親会社の所有者に帰属する四半期利益は、為替差損益などの悪化はあったものの、事業利 益の増益により増益となった。
■連結セグメント別業績
なお、第3四半期連結会計期間より川崎重工グループの事業戦略と整合性をとることを目的に、従来「モーターサ イクル&エンジン」としていた報告セグメントの名称を「パワースポーツ&エンジン」に変更している。
<航空宇宙システム事業>
航空宇宙システム事業を取り巻く経営環境は、防衛省向けについては抜本的な防衛力強化という防衛省の方針の もと、今後の需要増が期待される。民間航空機については、新型コロナウイルス感染拡大により低迷していた航 空旅客需要は、経済活動再開を優先する諸国が増加してきていることから、回復に向けて大きく前進している。
このような経営環境の中で、連結受注高は、民間航空エンジン分担製造品や防衛省向けが増加したことにより、 前年同期に比べ399億円増加の2,007億円となった。
連結売上収益は、民間航空エンジン分担製造品が増加したことなどにより、前年同期に比べ336億円増収の2,386 億円となった。
事業損益は、民間航空エンジン分担製造品などが改善したことにより、前年同期に比べ232億円改善して137億円 の利益となった。
<車両事業>
車両事業を取り巻く経営環境は、新型コロナウイルス感染拡大による鉄道利用者数の減少の影響があったが、感染拡大対策が進む中で利用者数の回復が見込まれ、国内外で老朽車両の置換計画が進捗している。一方で、足元への影響は限定的ではあるものの、電子部品等の供給不足や物流混乱、原材料価格の高騰については、収束が見えつつも注視が必要。中長期的には、人口集中による大都市の混雑緩和や環境対策のための都市交通整備、ア ジア諸国の経済発展に伴う鉄道インフラニーズなど、今後も世界的に比較的安定した成長が見込まれる。
このような経営環境の中で、連結受注高は、ニューヨーク市交通局向け新型地下鉄電車や国内向け新型通勤電車などの大口案件を受注したことにより、前年同期に比べ2,521億円増加の2,943億円となった。
連結売上収益は、国内向け車両が減少したものの、アジア向け車両が増加したことなどにより、前年同期に比べ 32億円増収の923億円となった。
事業利益は、アジア向け車両の増加などによる増収はあったものの、米国ロングアイランド鉄道向け車両案件の 工程遅れによる影響等により、前年同期に比べ21億円減益の7億円となった。
<エネルギーソリューション&マリン事業>
エネルギーソリューション&マリン事業を取り巻く経営環境は、世界経済が新型コロナウイルス感染拡大の影響による停滞から正常化に向かう中、回復基調を維持している。国内外の分散型電源需要、及び新興国におけるエ ネルギーインフラ整備需要は依然根強く、国内ごみ焼却設備の老朽化更新需要も継続している。また、LPG/アン モニア運搬船の受注が増加するなど継続的な需要が見込まれる。更には、世界的にカーボンニュートラルの実現 を目指す動きが強まっており、同社が強みとする水素製品をはじめ、脱炭素ソリューションに関する問い合わせや 協力要請が増加している。一方、発電設備の稼働に必要な燃料ガスの入手性など足元の状況に不透明感があるほ か、昨今の原材料価格や資機材・燃料費、輸送運賃の高止まり等による受注、売上収益への影響には注視が必要。
このような経営環境の中で、連結受注高は、発電設備の受注増加や国内向けごみ処理施設整備・運営事業などの 大口案件の受注などにより、前年同期に比べ486億円増加の3,018億円となった。
連結売上収益は、国内向けごみ処理施設案件の工事量減少はあったものの、エネルギー事業や防衛省向け潜水艦 の工事量増加などにより、前年同期に比べ105億円増収の2,123億円となった。
事業損益は、国内向けごみ処理施設案件の工事量減少はあったものの、持分法損益の改善などにより、前年同期 に比べ189億円改善して93億円の利益となった。
<精密機械・ロボット事業>
このような経営環境の中で、連結受注高は、中国建設機械市場向け油圧機器が減少したものの、各種ロボットの 増加により、前年同期並みの1,976億円となった。
連結売上収益は、中国建設機械市場向け油圧機器の減収はあったものの、拡販による各種ロボットの増収などに より、前年同期並みの1,791億円となった。
事業利益は、電子部品や素材費高騰等のコストアップ、中国でのロックダウンで一時操業が低下したことや、中国建設機械市場向け油圧機器が減少したことなどにより、前年同期に比べ43億円減益の74億円となった。
<パワースポーツ&エンジン事業>
パワースポーツ&エンジン事業を取り巻く経営環境は、新型コロナウイルス感染拡大による市場への影響が継続している。物流の混乱は改善の方向に向かっているが、半導体や原材料の不足は継続しており、製品供給への影響は引き続き注視が必要。主要市場である米国及び欧州市場では需要はやや減速しつつあるものの、今のところ堅調に推移している。また、東南アジア市場は国ごとの差はありつつも全体として前年度よりは回復している。
このような経営環境の中で、連結売上収益は、製品供給不足による欧州向け二輪車の減少はあったものの、北米 向け、東南アジア向け二輪車及び北米向け四輪車が増加したことに加え、為替レートが円安に推移したことなどに より、前年同期に比べ1,042億円増収の4,137億円となった。
事業利益は、原材料費、物流費の高騰、固定費の増加はあったものの、価格転嫁が順調に進んでいることに加え、 二輪車及び四輪車の拡販や為替の影響などにより、前年同期に比べ236億円増益の537億円となった。
<その他事業>
連結売上収益は、前年同期に比べ62億円増収の600億円となった。 事業利益は、前年同期に比べ12億円減益の33億円となった。
川崎重工グループはグループビジョン2030において、注力するフィールドを「安全安心リモート社会」「近未来モビ リティ」「エネルギー・環境ソリューション」とし、より成長できる事業体制への変革を目指しており、手術支援 ロボットや自動PCR検査サービスなどのヘルスケア事業、更には、配送ロボットや無人輸送ヘリコプターの開発、水 素関連プロジェクトの推進など、新事業への取り組みを着実に進めている。
■連結業績予想などの将来予測情報に関する説明
川崎重工グループは第1四半期連結会計期間よりIFRSを任意適用しているため、2023年3月期の連結業績見通しもIFRS に基づき算定している。
パワースポーツ&エンジン事業における増収やサプライチェーンリスクの低下、航空宇宙システム事業のマーケットの力強い回復を受け、売上収益は前回(11月10日)公表値から300億円増収の1兆7,500億円、事業利益は前回 公表値から100億円増益の860億円となる見通し。
また、上記事業利益の見直しに伴い、税引前利益は780億円、親会社の所有者に帰属する当期利益は540億円とな り、ROICは7.4%、ROEは10.2%となる見通し。
連結受注高は、前回公表値から500億円増加の1兆9,500億円となる見通し。
なお、業績予想における為替レートは、1ドル=130円、1ユーロ=135円を前提としている。