■経営成績の概況
世界経済は、ロシアのウクライナ侵攻に伴う資源・エネルギー価格の上昇やサプライチェーンの混乱などの影響により、成長の下振れとインフレの加速懸念が強まっている。日本経済についても、企業の設備投資や生産活動 は回復基調が続いているものの、内外金利差拡大を受けた円安と資源高が同時に進行し、物価上昇による消費マイ ンドの悪化が懸念されるなど、景気の先行きに対する不透明感が増している。また、新型コロナウイルス感染拡大の影響については、先進国を中心にコロナ関連規制を撤廃・緩和する動きが見られる一方、中国ではゼロコロナ 政策の活動制限による景気下振れリスクが懸念されるなど、引き続き注視が必要である。
このような経営環境の中で、2021年度における川崎重工グループの連結受注高は、モーターサイクル&エンジ ン事業、航空宇宙システム事業などの増加により増加となった。
■セグメント別の概要
<航空宇宙システム事業>
航空宇宙システム事業を取り巻く経営環境は、防衛省向けについては厳しい防衛予算の中で概ね安定した需要が 存在している。民間航空機については、新型コロナウイルス感染拡大により世界の旅客需要が低迷しており、機体・エンジンともに需要が低下している。足元では欧米並びに大西洋路線等は需要回復の兆しが見られるものの、 アジア等における需要回復の遅れやロシアによるウクライナ侵攻の影響で依然として先行き不透明な状況が継続している。
このような経営環境の中で、連結受注高は、民間航空エンジン分担製造品における収益認識会計基準等の適用の 影響による減少はあったものの、防衛省向けや民間航空機向け分担製造品の増加などにより、前期に比べ537億円増加の3,833億円となった。
連結売上高は、防衛省向けや民間航空機向け分担製造品が減少したことに加え、収益認識会計基準等の適用によ る民間航空エンジン分担製造品の減少などにより、前期に比べ795億円減収の2,982億円となった。営業損益は、減収はあったものの、民間航空機向け分担製造品や民間航空エンジン分担製造品における収益性の 改善などにより、前期に比べ219億円改善して97億円の営業損失となった。
<車両事業>
車両事業を取り巻く経営環境は、新型コロナウイルス感染拡大の影響により国内では鉄道関連投資計画の見直し、 海外では工程の遅れや入札の延期等が現実となりつつある。また、足元への影響は限定的ではあるものの、電 子部品等の供給不足や物流混乱、原材料価格の高騰については注視が必要。中長期的には、人口集中による大 都市の混雑緩和や環境対策のための都市交通整備、アジア諸国の経済発展に伴う鉄道インフラニーズなど、今後も 世界的に比較的安定した成長が見込まれる。
このような経営環境の中で、連結受注高は、国内向け地下鉄車両の受注はあったものの、新幹線車両の大口受注 があった前期に比べ55億円減少の715億円となった。
連結売上高は、国内向け車両が減少したことなどにより、前期に比べ65億円減収の1,266億円となった。営業損益は、減収はあったものの、新型コロナウイルス感染拡大の影響などによる海外案件の採算悪化があった 前期に比べ78億円改善して32億円の営業利益となった。
<エネルギーソリューション&マリン事業>
エネルギーソリューション&マリン事業を取り巻く経営環境は、世界経済が新型コロナウイルス感染拡大の影響 による停滞から正常化に向かう中、回復基調を維持している。国内外の分散型電源需要、及び新興国におけるエネルギーインフラ整備需要は依然根強く、国内ごみ焼却設備の老朽化更新需要も継続している。また、LPG運搬船 に関する商談も増えている。更には、世界的にカーボンニュートラルの実現を目指す動きが強まっており、川崎重工が強みとする水素製品をはじめ、脱炭素ソリューションに関する問い合わせや協力要請が増加している。一方、 急速な経済正常化の動きに連れて、原材料価格や輸送運賃が高騰するなど、収益の圧迫が懸念される。
このような経営環境の中で、連結受注高は、国内向けごみ処理施設整備・運営事業の大口案件の受注などにより、 前期に比べ263億円増加の3,435億円となった。
連結売上高は、防衛省向け潜水艦の工事量減少やガスタービンコンバインドサイクル発電プラントの売上減少な どにより、前期に比べ222億円減収の2,973億円となった。営業利益は、減収などにより、前期に比べ91億円減益の11億円となった。
<精密機械・ロボット事業>
このような経営環境の中で、連結受注高は、半導体製造装置向けをはじめとする各種ロボットの増加などにより、 前期に比べ124億円増加の2,718億円となった。
連結売上高は、半導体製造装置向けをはじめとする各種ロボットの増加と円安の影響により、前期に比べ118億円 増収の2,526億円となった営業利益は、増収などにより、前期に比べ25億円増益の166億円となった。
<モーターサイクル&エンジン事業>
モーターサイクル&エンジン事業を取り巻く経営環境は、新型コロナウイルス感染拡大による市場への影響が継続している。主要市場である米国では、前年度に引き続き、四輪車等オフロードモデルの需要が旺盛であり、欧 州市場も堅調に推移している。一方で、東南アジア市場は前期よりは回復したものの依然として先行きが不透明 な状況が継続している。また、半導体や原材料の不足、物流の混乱等により、製品供給にも影響が及んでいる。
このような経営環境の中で、連結売上高は、北米向け二輪車、汎用エンジンの増加に加え、欧州向け及び東南ア ジア向け二輪車の増加により、前期に比べ1,112億円増収の4,479億円となった。営業利益は、原材料、部品の価格上昇はあったものの、増収に加え、前期に比べ為替レートが円安で推移したこ となどにより、前期に比べ255億円増益の373億円となった。
<その他事業>
連結売上高は、前期に比べ23億円減収の780億円となった。 営業利益は、前期に比べ24億円増益の28億円となった。
川崎重工グループはグループビジョン2030において、注力するフィールドを「安全安心リモート社会」「近未来モビ リティ」「エネルギー・環境ソリューション」とし、より成長できる事業体制への変革を目指しており、手術支援ロボットの開発や自動PCR検査事業、更には、配送ロボットや無人輸送ヘリコプターの開発、水素関連プロジェ クトの推進など、新事業への取り組みを着実に進めている。
■今後の見通し
川崎重工は2023年3月期第1四半期より国際財務報告基準(IFRS)を任意適用するため、連結業績見通しはIFRSに基づき算定している。2023年3月期の連結業績については、売上収益は航空宇宙システム事業、モーターサイクル&エンジン事業を中心として増収が見込めることから、前期比1,792億円増の1兆6,800億円となる見通し。
利益面では、航空宇宙システム事業において民間航空機の運航時間の回復に伴い民間機向け航空エンジンの採算 が改善するほか、モーターサイクル&エンジン事業における売上の増加に伴う利益増加等により、事業利益※530億円、親会社株主に帰属する当期純利益290億円、またROICは4.7%、ROEは5.9%となる見通し。 連結受注高は前期比321億円減の1兆5,700億円となる見通し。
なお、業績予想における為替レートは、1ドル=120円、1ユーロ=130円を前提としている。
※「事業利益」とは、従来の営業利益に金融収支以外の営業外損益及び特別損益を加算したもの。